第八話:突然の来客
森の中、談笑が聞こえる煉瓦造りの家。
夕食を食べ終わったクロアケとチェディーは、今朝の出来事を話していた。
チェディーは椅子の上であぐらを組みながら話す。
「今日のアルケイ、寝起きの髪酷かったよね〜!」
クロアケはチェディーの話を聞きながら、床に座ってうとうとしていた。
「…確かに、あの店主は少しだらしなかったな、チェディーに似ている。」
「ええ!なんか嬉しいなぁ。」
「褒めてねぇよ…。」
そうして二人は寝る支度をした。
クロアケは珍しくベッドに潜り込み、チェディーの手を握った。
「魔法って、本当にあるんだな…。」
「アケちゃん…?」
クロアケはそのまま眠った。チェディーは少し照れながらも、狭いベッドの中、呟く。
「…この世界は、もっと不思議なものがいっぱいあるよ。」
___。
街角魔法店。
夜の静寂の中、アルケイは勘定台の机の上に魔導書を広げ、読んでいた。
リュクナは本棚の整理をしている。
その時、店の外で微かに足音が聞こえた。
「…今日は来客が多いね、珍しい。」
アルケイは読んでいた魔導書を閉じ、扉の方へ目を向ける。
「そうですね、でもこの感じ、ちょっと変ですよ。」
リュクナは懐の短剣の柄を指でなぞる。
足音が近づくにつれ、金属が地面に擦れる音がした。リュクナは瞬時に戦闘態勢に入る。
「ご主人…今回のお客様は、僕が対応します。」
「任せるよ。嫌な予感がするからね。」
アルケイは扉から目を離し、帽子を深くかぶり直した。
コン…コン…
静寂は、扉が叩かれる音で破られた。リュクナは警戒しながら扉を開ける。
リュクナが見たのは、神父服に身を包んだ男。しかし背丈と同じ長さの大きな杭を、杖のようにして立っていた。聖職者の装いとは裏腹に、その口元には、どこか胡散臭い笑みが張り付いている。
「物騒な殺気だなぁ、俺だよ俺、街の神父のアルノー。知ってるだろ?」
アルノーと名乗った男は、杭を肩に担いで店内に入る。
「…存じていますが…店内に物騒なものを持ち込まないでください。」
リュクナの表情がこわばる。
アルケイは頬から汗を流した。
「…よぉ店主、この店まだ開いてんだな。」
アルノーがアルケイに問いかける。
「僕は夜のほうが得意なんだ。静かだからね。」
アルケイは帽子を目深にかぶったまま、答える。
アルノーは店内を歩きながら、リュクナに尋ねる。
「なぁ坊主、ここにアルケイって奴がいるだろ。それは店主のことか?」
リュクナの心臓が跳ねる。背中に冷たいものが走る。
「……答える義務はありません。お帰りください。」
リュクナが短剣を出そうとした瞬間、アルノーは手を上げて制した。
「まぁまぁ、戦いに来たわけじゃない。今回は散歩ついでに寄ったんだ。ここは“お嬢”がよく利用する店だし、仮に店主がアルケイだとしても、どうにかするつもりはないよ。」
アルノーは目を細めて笑う。敵意はなかった。
「クエラ様のことですね、数少ないお客様の一人ですから、よく覚えていますよ。」
リュクナはアルノーに対して、相変わらず敵意を剥き出しにしている。
「…ふふ、やっぱり面白いなぁ、故郷を失った少年というのは。」
「貴様…ッ!」
リュクナは感情を逆撫でされ、ついに短剣に手をかける。
「リュクナ、落ち着いて。相手は神父様だよ。」
アルケイは焦って立ち上がり、リュクナを止めに入る。アルケイの羊耳とツノが、帽子の隙間から僅かに見えたのを、アルノーは見逃さなかった。
「ふーん…。」
アルノーの表情が一瞬消える。かと思えば、パッと笑顔になり、踵を返す。
「じゃ、俺は歓迎されてないみたいだし、そろそろ帰るよ。」
アルノーは杭を軽々と担ぎ直し、そのまま店を出ていく。
扉が閉まった後も、しばらく空気は重かった。
「ご主人、正体を悟られたのではないですか?」
リュクナはアルケイに言った。
「…たぶんね。でも、襲ってくることはないと思うよ。」
そう言いつつも、アルケイは肝が冷えたのを感じていた。それほどまでに、奇妙な男だった。
再び訪れた静寂が、二人の胸を刺していた。




