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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第一章
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第八話:突然の来客

森の中、談笑が聞こえる煉瓦造りの家。

夕食を食べ終わったクロアケとチェディーは、今朝の出来事を話していた。


チェディーは椅子の上であぐらを組みながら話す。

「今日のアルケイ、寝起きの髪酷かったよね〜!」


クロアケはチェディーの話を聞きながら、床に座ってうとうとしていた。

「…確かに、あの店主は少しだらしなかったな、チェディーに似ている。」


「ええ!なんか嬉しいなぁ。」


「褒めてねぇよ…。」


そうして二人は寝る支度をした。

クロアケは珍しくベッドに潜り込み、チェディーの手を握った。


「魔法って、本当にあるんだな…。」


「アケちゃん…?」


クロアケはそのまま眠った。チェディーは少し照れながらも、狭いベッドの中、呟く。


「…この世界は、もっと不思議なものがいっぱいあるよ。」


___。


街角魔法店。


夜の静寂の中、アルケイは勘定台の机の上に魔導書を広げ、読んでいた。

リュクナは本棚の整理をしている。


その時、店の外で微かに足音が聞こえた。


「…今日は来客が多いね、珍しい。」

アルケイは読んでいた魔導書を閉じ、扉の方へ目を向ける。


「そうですね、でもこの感じ、ちょっと変ですよ。」

リュクナは懐の短剣の柄を指でなぞる。


足音が近づくにつれ、金属が地面に擦れる音がした。リュクナは瞬時に戦闘態勢に入る。


「ご主人…今回のお客様は、僕が対応します。」


「任せるよ。嫌な予感がするからね。」

アルケイは扉から目を離し、帽子を深くかぶり直した。


コン…コン…


静寂は、扉が叩かれる音で破られた。リュクナは警戒しながら扉を開ける。


リュクナが見たのは、神父服に身を包んだ男。しかし背丈と同じ長さの大きな杭を、杖のようにして立っていた。聖職者の装いとは裏腹に、その口元には、どこか胡散臭い笑みが張り付いている。


「物騒な殺気だなぁ、俺だよ俺、街の神父のアルノー。知ってるだろ?」

アルノーと名乗った男は、杭を肩に担いで店内に入る。


「…存じていますが…店内に物騒なものを持ち込まないでください。」

リュクナの表情がこわばる。


アルケイは頬から汗を流した。


「…よぉ店主、この店まだ開いてんだな。」

アルノーがアルケイに問いかける。


「僕は夜のほうが得意なんだ。静かだからね。」

アルケイは帽子を目深にかぶったまま、答える。


アルノーは店内を歩きながら、リュクナに尋ねる。

「なぁ坊主、ここにアルケイって奴がいるだろ。それは店主のことか?」


リュクナの心臓が跳ねる。背中に冷たいものが走る。

「……答える義務はありません。お帰りください。」


リュクナが短剣を出そうとした瞬間、アルノーは手を上げて制した。


「まぁまぁ、戦いに来たわけじゃない。今回は散歩ついでに寄ったんだ。ここは“お嬢”がよく利用する店だし、仮に店主がアルケイだとしても、どうにかするつもりはないよ。」

アルノーは目を細めて笑う。敵意はなかった。


「クエラ様のことですね、数少ないお客様の一人ですから、よく覚えていますよ。」

リュクナはアルノーに対して、相変わらず敵意を剥き出しにしている。


「…ふふ、やっぱり面白いなぁ、故郷を失った少年というのは。」


「貴様…ッ!」

リュクナは感情を逆撫でされ、ついに短剣に手をかける。


「リュクナ、落ち着いて。相手は神父様だよ。」

アルケイは焦って立ち上がり、リュクナを止めに入る。アルケイの羊耳とツノが、帽子の隙間から僅かに見えたのを、アルノーは見逃さなかった。


「ふーん…。」

アルノーの表情が一瞬消える。かと思えば、パッと笑顔になり、踵を返す。


「じゃ、俺は歓迎されてないみたいだし、そろそろ帰るよ。」


アルノーは杭を軽々と担ぎ直し、そのまま店を出ていく。


扉が閉まった後も、しばらく空気は重かった。


「ご主人、正体を悟られたのではないですか?」

リュクナはアルケイに言った。


「…たぶんね。でも、襲ってくることはないと思うよ。」

そう言いつつも、アルケイは肝が冷えたのを感じていた。それほどまでに、奇妙な男だった。


再び訪れた静寂が、二人の胸を刺していた。

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