第七話:魔法具
アルケイは棚から、小さな箱を取り出す。
その中身はただの石に見えたが、アルケイは石を手にとってクロアケに見せた。
「これは灯し石。火打ちじゃなくて、魔力で光るものだ。人界ではちゃんとした魔力を持っている人が珍しいから、あまり売れないのだけどね。」
「それが光るところ、アケちゃんに見せてやってよ!」
チェディーはアルケイを急かす。
「はいはい…じゃあクロアケ、見ててね。」
アルケイが真剣な表情になる。しばらくすると、ふわ…と暖かい光が石から漏れ出した。
「使用者の魔力が安定していないと、上手く光らないんだよね。」
アルケイは灯し石をクロアケに差し出すと、クロアケは受け取る。
暖かい光が、クロアケの手に伝わった。
「…不思議だ、温かい。」
「僕の魔力をほんの少しだけ注いだんだ。十分くらい光るかな。ちゃんと使うなら、注ぐ魔力を調整しないと駄目だけれど。」
そう言いながら、アルケイは別の棚へと足を運ぶ。箱を取り出し、またクロアケ達の元へ戻ってきた。チェディーが箱を受け取り開けると、黒い葉が入っていた。すかさずアルケイは解説する。
「それは焚き葉。魔力を流すと先端が燃えるんだ。加減しないと一瞬で灰になるから、注ぐ魔力は本当に少しだけだよ。一般人でも使える時がある。そのくらい微量の魔力だけでいいんだ。」
チェディーは焚き葉を一枚取り出し、眺める。アルケイは忠告した。
「…チェディー、注ぐ魔力はちょっとだけだからね。」
「分かってるって。」
チェディーは微笑む。が、一瞬にして焚き葉は燃え上がり、消滅した。
「あれぇ、ちょっとだけしか魔力使ってないのに…。」
「はぁ、君はまず調整することができないだろう、いつだって最大火力なんだから…。」
アルケイは苦笑し、焚き葉を一枚取り出すと、クロアケに手渡した。
「クロアケ、君もやってみるかい?」
クロアケは驚きながらも、渡された焚き葉を受け取る。
「え、わ、私も使えるのか?」
「…僕の予想が正しければ、君は多少魔力を持っているはずだよ。」
アルケイは探るように、クロアケの顔を眺めていた。
「どうやって魔力を使うんだ?」
「…焚き葉を持っている方の手に、意識を集中させるんだ。そうすれば魔力もそっちに流れる。ちょっと難しいかもしれないけど、やってみて。」
アルケイがそう言うと、クロアケは頷き、力を込める。すると、僅かに焚き葉の先端が燃えた。
「あ…凄い…!燃えた!燃えたぞチェディー!」
クロアケは喜び、焚き葉を持ったままチェディーに近づく。
「待って待って、服、燃えちゃうから!」
チェディーは慌てて一歩下がる。
「確かに!これ、どうすればいいんだ、アルケイ!」
クロアケは初めて魔力を使ったことに興奮して、頬が赤くなっていた。
「落ち着いて。普通にしてれば燃え尽きるから。」
アルケイは二人を落ち着かせ、葉が燃え尽きるのを待った。
その裏で、考え事をしていた。
「…クロアケはやっぱり…。」
その先を言いかけて、結局飲み込んだ。
…。
やがて焚き葉がゆっくりと燃え尽きると同時に、灯し石の光も消えていった。
「満足したかい?」
魔法具を片付けたアルケイは、クロアケとチェディーに言った。
その顔は疲弊しきっていて、少し青くなっている。
「うん!無理させてごめんね、アルケイ!買い物も終わったし、そろそろ帰るよ!」
チェディーは元気よく答えた。
「良いものを見させてもらった。ありがとう。」
クロアケは礼を言い、店の扉を開ける。
「うん、じゃあまたね、今後ともよろしく頼むよ。」
アルケイはひらひらと手を降る。
店を出た二人は、もう日が高くなっていることに気づく。
「ヤバ!もうお昼じゃん!まだ朝ごはんも食べれてないのに〜!」
チェディーは翼を広げて、日差しを遮るように走る。
「お前がはしゃぐからだろ。」
クロアケも走り、チェディーを追いかける。
「アケちゃんだって魔法具ではしゃいでたじゃん!もう!」
帰路につく人間と魔族。路地裏で談笑する二人の関係は、まさに友達だった。
森に入ると、チェディーはふと立ち止まった。
「ねぇアケちゃん。アケちゃんは、魔族が怖くないの?」
チェディーの声は、いつになく小さかった。翼の先が、微かに震えているのをクロアケは見ていた。
クロアケは一つ瞬きをしてチェディーに返答をする。
「別に普段から人を襲っているわけでもないだろ。人間と何も変わらないじゃないか。」
「そっか。」
チェディーがそう言うと、再び歩き始めた。
家が近い。
クロアケは昼食を何にするか考え始めていた。




