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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第一章
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第六話:助手

店の中へ入ると、綺麗に整えられた店内と、整頓された薬品棚、日用品が揃っていた。


ただ一箇所だけ、店のカウンターと思わしき机の上には、大量の崩れた本が置いてある。


そして、その崩れた本の山を整理している人物がいた。


「…ご主人、いつ客人が来るか分からないんですから、徹夜で本を読む癖直しましょうよ。」

少年は目線を本に向けたまま、アルケイに声を掛けた。


「ごめんってリュクナ、悪気があるわけじゃないし、許してよ。」


リュクナと呼ばれたその少年は、扉の方へ目を向ける。

新しい客が来るのが相当珍しいようで、リュクナはクロアケをみて驚く。


「あ、新しいお客様!ごめんなさい、ご主人が怠けているせいで…。」


丁寧に頭を下げかけたが、チェディーを見て動きが止まった。


「……チェディーさんのお連れ、ですか…。」

その声色は、すっと冷えた。


リュクナという人物は、クロアケより年下に見える少年だった。

糸のように細い目は表情を読ませず、体にピッタリと沿うアシンメトリーのコートの上から、ベルトとホルダーを身に着けている。ホルダーには短剣の柄が覗いていた。

その佇まいだけで、戦える人間の気配がした。


チェディーとアルケイの会話が続き、クロアケだけが取り残される。


リュクナは黙っているクロアケに近づき、観察するようにクロアケを見た。


「その包帯…目に怪我を負っているのですか?」


クロアケは少し身じろぎし、左目へと手を伸ばす。


「あぁ…怪我ではない。ただ、見えないんだ。理由は…覚えてない。」


「記憶喪失、ですか。」


リュクナの声は淡々としていた。


リュクナは店にある長椅子にクロアケを案内した。クロアケは促されるまま椅子に座り、眼の前のテーブルに置かれた様々な用途不明の道具を眺め、じっとしていた。


「…どうぞ。」

一切の無駄がない所作。紅茶が入れられたカップが目の前に置かれる。クロアケは相対的に自分が腑抜けた生活をしていることを恥じて、リュクナから目を逸らし、チェディーの方を見た。


チェディーは店の貴重そうな商品を許可なく触っており、アルケイはそれを止めている。


リュクナはそんな二人から少し距離をとるように、クロアケの前にある長椅子に腰を下ろした。


「すみません、挨拶が遅れてしまいました。僕の名前はリュクナです。ご主人が失礼しました。」


少し困ったように話すリュクナは、街の人達とは少し変わった雰囲気を纏っていた。


「私はクロアケという…こっちこそすまない、チェディーが騒いでしまって…。」


そう言うと、リュクナは少し反応した。


「…あの魔族、チェディーさんとは、どういう関係なんですか。」

リュクナの口調は妙に落ち着いていた。まるで問い詰めるように。


「え、ああ、同居人…友達?だと思う。多分…。」

焦ったクロアケは、曖昧な返答をした。


リュクナは小さく息を吐いた。

クロアケから目を逸らし、アルケイの方を見つめる。


「魔族を見ると、どうしても思い出してしまうんです。」


リュクナは自分の話を話し始めた。


「…一年前、僕の故郷の村は、一人の魔族に襲われました。魔族に襲われた僕を、ご主人…アルケイ様は命がけで助けてくれたんです。」


表情は柔らかだったが、リュクナが無意識に固めた拳は、憎しみに震えていた。


「その故郷って…。」


「滅びました。僕はその村の生き残りです。」


声は静かだった。けれどその奥で、燃え残った火だけは、まだ消えていなかった。


「では、用事を済ませたら速やかにお帰りください。」


それだけ言うと、リュクナはゆっくりと立ち上がり、店の奥へ姿を消した。


静寂だけが残る。


クロアケは冷めかけた紅茶を口に運ぶ。丁寧に入れられていたようで、風味が良い。飲み終わる頃には、チェディーがクロアケの横に座っていた。


アルケイは疲れ果てた様子で二人のもとに来た。

「さて…本題は何だったかな、牛乳と包帯だっけ?それと、何か必要な物があれば__」


その言葉をチェディーが遮る。


「アルケイ!あのさ!クロアケに魔法の道具を見せてやってよ!」


魔法、という言葉に、クロアケの胸がわずかに跳ねた。

アルケイは困ったように笑う。


「…仕方ないな、少しだけだよ。」


クロアケは息を呑む。チェディーから話だけ聞いていたもの。

それが一体どんなものなのか、クロアケは知りたくて堪らなかった。

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