第四話:日常
クロアケが森で目覚めてから、数週間が経過していた。
すっかり家に馴染んできたクロアケは、チェディーの家の居候から、チェディーの同居人へと意識を変えていた。
「アケちゃん!洗濯物干すから手伝ってよ〜!」
「はあ?今明日の分の献立考えてるんだよ、無理だ。」
「ケチ〜!」
チェディーは夕方に買い出しに行く。クロアケが料理をする。
特に決まりもない。だらだらとした生活に、クロアケは慣れてきていた。
ある夕食前。
「クロアケ、今日は何作ってるの?」
「オムレツだ。簡単にできる。少しアレンジを加えているけどな。」
「美味しそう〜!ねえ、つまみ食いしてもいい?」
「…熱いから気をつけろよ。」
「ん〜!美味しい〜!」
チェディーは出来立てのオムレツを少しだけ口に含んで、感想を述べた。
クロアケはチェディーを警戒しない。相変わらず床で寝ようとはするが、普通の人間らしい少女になりつつあった。
「…硬い床は、記憶と関係あるんだろうか…。」
夜、クロアケは一人呟く。
チェディーについて、記憶について。クロアケは何一つ分からないまま日常が続いていく。それは恐ろしくもあり、知らないほうがいいのかもしれないとクロアケは考えていた。
分かったことは、深夜、時折チェディーが外出していることだけ。
どこに出かけているのかわからないが、朝になる前には戻ってきているようだった。
二人の日常は、歪ながらも、少しずつ、家の温度を上げていた。
夜を除いて。
…。
クロアケは、誰かに呼ばれた気がして下を見る。
声の主は、今にも消えてしまいそうな声で名前を何度も呼びながら、クロアケの足にしがみついていた。
べっとりとした感触がクロアケを襲う。耐えきれずに声の主を突き飛ばすと、それは知っているようで知らない、気持ち悪い死体だった。
そんな恐ろしい悪夢を、クロアケは繰り返し見ていた。
…。
クロアケはふと、我に返った。頬から水が滴る。
しっかり眠れていないのか、クロアケはよく考え事をするようになっていた。今回も、クロアケはチェディーに顔が腫れていると指摘され、顔を洗っていた最中に考え事をしていた。
クロアケは慣れた手つきで、汚れた包帯を左目に巻く。
「…そろそろ、包帯を変えたほうがいいな。」
洗い場から出て、居間に向かったクロアケは、チェディーの叫び声を聞く。
「うわ〜最悪!大変だ!」
クロアケは驚いてチェディーの下へ駆け寄る。
「どうしたんだ、叫ぶなんてらしくないな。」
「昨日牛乳買ってくるの忘れてたんだよぉ、あと包帯のストックがない!」
チェディーは頭を抱える。
「…なんだ、そんなことか。驚いて損した。」
クロアケはため息をつき、台所に向かった。
「飯作るけど、どうする?」
そう問いかけると、チェディーはふくれっ面をしてクロアケに返答した。
「牛乳無しの朝食なんて考えられない!今すぐ買い出しに行く!」
チェディーは勢いよく家の扉を開けたが、そのまま立ち止まった。
「どうした?」
クロアケは疑問に思い、チェディーの方を見る。
チェディーはクロアケと目が合うと、ニコッと笑い、言った。
「クロアケもついてくる?馴染みの店。」
それは、今まで遠目で見ることしかなかった街へ行く、最初の試みだった。




