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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第五章
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第四十六話:罪滅ぼし

「ねぇアドペロさん、貴方はリュクナさんの故郷を滅ぼした。そうですよねぇ?」

エデフィの声が、リュクナの中で繰り返し再生される。


瓦礫の広場に、沈黙が落ちた。

ついさっきまで鳴り響いていた剣戟の音は消え、代わりに聞こえるのは荒い呼吸だけだった。


クロアケは動けなかった。


リュクナの短剣が、ゆっくりと持ち上がる。

その刃の向く先は__アドペロ。


「……嘘ですよね。」

リュクナの声は震えていた。


「今の、嘘ですよね……?」


アドペロは何も答えない。

ただ視線を逸らした。


その仕草だけで、答えは十分だった。


リュクナの目が見開かれる。


血の匂いが蘇る。


燃え上がる家。

崩れる塔。

倒れた家族。


そして、瓦礫の中で見た__あの魔族の影。


リュクナの握る短剣が、震えた。


「どうしてッ!!」


叫び声が広場に響く。


「なんでお前が生き残って、ご主人が死ぬことに……!!」


その瞬間だった。

アドペロの表情が、歪んだ。


「うるさい!」

怒声が叩きつけられる。


「君だって…父さんを殺したじゃないかッ!!」


空気が、凍りついた。

今までずっと押し殺してきたであろうアドペロの感情は、爆発した。

リュクナも圧倒され、誰も動けない。


その光景を、エデフィだけが楽しそうに眺めていた。


「ふふ……。」

ゆっくりと唇を吊り上げる。


「やっぱり、人間って面白いですねぇ。」


対立は避けられなかった。

敵前だというのに、リュクナはアドペロに襲い掛かる。

短剣と腕が交差する。


「お前が居なければ、故郷の家族が死ぬことはなかったんだ!!」

リュクナの敬語は外れ、ただの十五歳の少年の声が響く。


「君こそ、あの時父さんを刺した!父さんは話し合えば分かってくれたはずなのに!」

アドペロは涙声で叫ぶ。


「あの時は状況が状況だっただろ!見てただけの魔族が、知った風な口をきくな!」


「うるさい…うるさいうるさいうるさい!!」

アドペロはついに龍化した腕でリュクナを押しのける。


お互い、息が切れる。


そこにクロアケが割って入る。

「待て、今は言い争っている場合じゃないだろ!敵の言葉に惑わされるな!」


リュクナは怒気をはらんだ声で小さくつぶやいた。

「…こいつは、僕が殺さなきゃいけないんだ。親の…皆の仇なんだ…こいつがいなけりゃ、ご主人だって命を懸けることもなかったッ!!」


アドペロを睨みつけているリュクナの背後から、エデフィが近づいてくる。

「そんなに怒る理由が分かりませんねぇ。それに…油断しすぎですよ。」


大剣が振り下ろされる。それを、間一髪でチェディーが大鎌で受け止めた。


「リュクナ、それは後で話し合おうよ、今は共通の敵がいるでしょ!」


「あらあら、まったく気配を感じませんでしたぁ。」

エデフィはそのまま力尽くで大剣を押す。


「でも、連携が崩れている今じゃ、ワタシを倒せませんよ?」


チェディーは態勢を崩され、大鎌を落とす。

「…くッ…!」


「リュクナさん…貴方は本当に惜しいです。目の前に仇が居る…もう殺したっていいんじゃないですかぁ?」

エデフィは不敵に笑った。


「…こいつを殺せば……。」


クロアケはリュクナに組み付いて、止めた。

「冷静になれ!お前らしくもない!!よく考えろ、アルケイがッ!どんな気持ちで薬を作ってたか!!忘れたのか!!」


リュクナはハッとした。瞳が揺れる。

アルケイが残した日記。アドペロのためにどれだけの努力をしたか。どれだけ命を削ったか。すべて書かれたものを、リュクナは読んでいた。


「…そうでした。ここで殺しても、意味はないですね。」

リュクナは冷静を取り戻し、クロアケの手を軽く払った。


「もういいです…今は…もう。終わったら、話をつけましょう。」

そう言ってアドペロに手を差し伸べた。


アドペロは複雑な表情を浮かべたが、すぐに手を取った。

「…分かった。」


全員が、エデフィを見ていた。今度こそ仲間だった。


「あらぁ、こうなったら仕方ないですねぇ。実力行使ですぅ。」


その瞬間だった。地面が悲鳴を上げるように割れた。

大地が裂け、隙間から触手が現れる。それは建物を破壊していき、ついにはクロアケ達の足元にも現れた。


「なんだ!?」

誰が言い出したか分からない。混乱の渦だった。


ただ、エデフィだけが恍惚とした表情を浮かべ、手を頬に添えていた。

「主様ぁ、ワタシ、頑張りましたよぉ。だから、早く救ってくださいぃ!」


すると、エデフィの足元の地面が割れた。その隙間に、エデフィは飲み込まれていく。暗い闇の中、エデフィは触手に絡めとられ、そのまま引きずり込まれていく。


何が起こったか、誰も理解できなかった。

ただ、戦闘は終わった。


揺れが収まったころ、クロアケ達は割れた地面を避けて集まった。


「……議論の時間だな。」

クロアケは切り出す。


再び不穏な空気が、あたりを満たしていた。

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