第四十四話:死体の山
目を覚ましたクロアケ達は、食事をし、荷物をまとめて焚火を消す。
メロウを乗せた船は、もうどこにも見当たらなかった。
魔界での旅は慣れつつあった。瓦礫が散らばる道を歩き続ける。
ここまで来たら、目的の廃城まで一直線に向かうのが早い。
やがて、噴水があったであろう広場にたどり着いた。
チェディーは道中、ずっと顎に手を当て、何かを考える素振りをしていた。
「どうしたんだよチェディー、考え事か?」
クロアケがそう尋ねると、チェディーは小声で話し始める。
「いや、もう邪神がいる場所に近いのに、魔物や魔族がまったく出てこないのが気になってさ…。」
クロアケは同意する。
「…確かにそれは気になるが、なんで小声なんだ?」
「…気づかれたくないからだよ。よく見て、死体がある。瓦礫の隙間に押し込まれてるけど、魔族の死体が沢山転がってる。魔族を簡単に殺せる奴が近くにいるってことだよ。」
それを聞いたクロアケ達は、立ち止まり、周りを見渡す。気づかないほど小さな瓦礫の隙間に、魔族の肉の欠片が詰まっていた。血が見えないのは、メロウとの戦闘中で広範囲に広がった雨のせいだろうか。
「あとね、起きてからずっと、誰かに見られてる気がする。悪趣味な奴がいるね。」
チェディーはそう言うと、苦虫を嚙んだような顔をした。
「その正体不明の人物は、僕らを殺す気がない…ということですか?」
周囲を見渡しながら、リュクナは言った。
チェディーは目を閉じる。
「いや、そうと決まった訳じゃない。様子見の可能性もあるよ。だって…。」
翼を広げ、全身で周囲の気配を探る。
「…気配が人間だ。相手はこっちの戦闘力を見ているのかもしれない。」
アドペロは身震いした。人間なのに、魔族を殺せるだけの力がある。そんな存在が、近くで自分たちを見張っていると考えると、おぞましささえ感じた。
「…変なの。さっさと出てくればいいのに。」
「…例の、魔人じゃないか?アルノーが探してるっていう…。」
クロアケは警戒しながら言葉を発する。
「そうだね、魔人と人間は似てる。気配だけじゃ人間とそんなに変わらない。エデフィ…だったっけ。この様子だとこっちの話を聞いてくれそうにないね。ハースティアに属してる可能性が高いよ。」
全員、背中を合わせる。
誰もその正体を探ることができない。
相手は巧妙に姿を隠している。
たったそれだけの事実が、クロアケ達を恐怖に陥れていた。
しばらくすると、アドペロの目の前にある家の残骸から、足音もなく人影が現れた。
桃色の髪と目を持ち、露出度の高い修道服のような衣服を纏っている。衣服の裾は破れていて、長い間手入れされていないように感じる。掴みどころのない表情。聖女とは程遠く、同時に近い。
それは魔族の生首を片手で掴み、もう片方は大剣を持っていた。
「気づかれちゃった…みたいですねぇ。」
ねっとりとした口調に、全員が身構える。
「君がエデフィ?」
アドペロが問うと、彼女はあっさりと答えた。
「そうですけどぉ…貴方達、アルノーさんの頼みで、ワタシのことを探していたんでしょう?」
リュクナは短剣を構える。
「どうしてそれを知っているんですか?」
「ワタシ、耳がいいので、境界のすぐ側のことまで分かるんですぅ。」
エデフィは手に持っていた魔族の生首を放り投げた。
「貴方達がワタシを人界に戻るよう説得する理由って、あるんですかぁ?赤の他人…ですよねぇ?」
血の付いた大剣を見つめながら、エデフィは続ける。
「ワタシはここで、魔族を狩って、質のいいモノを主様に届けていますぅ…人界に魔族が流れ込むのを止めていますぅ…デメリットなんて、ないですよねぇ?どうして貴方達は、善行をしているワタシを、止めるんですかぁ?」
クロアケが口を開いた。
「…アルノーが、会いたがっているからだ。それに、今の魔族社会は狂っている。お前がしていることは、ただの虐殺だ。」
「そうだよ、恐怖に支配されるなんて間違ってる!本来は魔界だって、人界と同じように統治者がいるはずなんだ…。」
拳を握りしめたチェディーは、そう言い放つと、笑った。
「魔王が戻ってきたってことを、邪神を倒して証明してやってもいいよ!」
チェディーが武器を手に取ると、途端にエデフィの顔つきが変わった。
「貴方…主様を殺す気なんですねぇ…。」
空気が重くなる。
「なら、殺すしかないですねぇ…!」
エデフィの持つ大剣が、弧を描く。
戦闘は、避けられなかった。




