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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第五章
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第四十四話:死体の山

目を覚ましたクロアケ達は、食事をし、荷物をまとめて焚火を消す。

メロウを乗せた船は、もうどこにも見当たらなかった。


魔界での旅は慣れつつあった。瓦礫が散らばる道を歩き続ける。

ここまで来たら、目的の廃城まで一直線に向かうのが早い。


やがて、噴水があったであろう広場にたどり着いた。


チェディーは道中、ずっと顎に手を当て、何かを考える素振りをしていた。


「どうしたんだよチェディー、考え事か?」


クロアケがそう尋ねると、チェディーは小声で話し始める。

「いや、もう邪神がいる場所に近いのに、魔物や魔族がまったく出てこないのが気になってさ…。」


クロアケは同意する。

「…確かにそれは気になるが、なんで小声なんだ?」


「…気づかれたくないからだよ。よく見て、死体がある。瓦礫の隙間に押し込まれてるけど、魔族の死体が沢山転がってる。魔族を簡単に殺せる奴が近くにいるってことだよ。」


それを聞いたクロアケ達は、立ち止まり、周りを見渡す。気づかないほど小さな瓦礫の隙間に、魔族の肉の欠片が詰まっていた。血が見えないのは、メロウとの戦闘中で広範囲に広がった雨のせいだろうか。


「あとね、起きてからずっと、誰かに見られてる気がする。悪趣味な奴がいるね。」

チェディーはそう言うと、苦虫を嚙んだような顔をした。


「その正体不明の人物は、僕らを殺す気がない…ということですか?」

周囲を見渡しながら、リュクナは言った。


チェディーは目を閉じる。

「いや、そうと決まった訳じゃない。様子見の可能性もあるよ。だって…。」


翼を広げ、全身で周囲の気配を探る。

「…気配が人間だ。相手はこっちの戦闘力を見ているのかもしれない。」


アドペロは身震いした。人間なのに、魔族を殺せるだけの力がある。そんな存在が、近くで自分たちを見張っていると考えると、おぞましささえ感じた。

「…変なの。さっさと出てくればいいのに。」


「…例の、魔人じゃないか?アルノーが探してるっていう…。」

クロアケは警戒しながら言葉を発する。


「そうだね、魔人と人間は似てる。気配だけじゃ人間とそんなに変わらない。エデフィ…だったっけ。この様子だとこっちの話を聞いてくれそうにないね。ハースティアに属してる可能性が高いよ。」


全員、背中を合わせる。

誰もその正体を探ることができない。


相手は巧妙に姿を隠している。

たったそれだけの事実が、クロアケ達を恐怖に陥れていた。



しばらくすると、アドペロの目の前にある家の残骸から、足音もなく人影が現れた。


桃色の髪と目を持ち、露出度の高い修道服のような衣服を纏っている。衣服の裾は破れていて、長い間手入れされていないように感じる。掴みどころのない表情。聖女とは程遠く、同時に近い。

それは魔族の生首を片手で掴み、もう片方は大剣を持っていた。


「気づかれちゃった…みたいですねぇ。」


ねっとりとした口調に、全員が身構える。


「君がエデフィ?」

アドペロが問うと、彼女はあっさりと答えた。


「そうですけどぉ…貴方達、アルノーさんの頼みで、ワタシのことを探していたんでしょう?」


リュクナは短剣を構える。

「どうしてそれを知っているんですか?」


「ワタシ、耳がいいので、境界のすぐ側のことまで分かるんですぅ。」


エデフィは手に持っていた魔族の生首を放り投げた。

「貴方達がワタシを人界に戻るよう説得する理由って、あるんですかぁ?赤の他人…ですよねぇ?」


血の付いた大剣を見つめながら、エデフィは続ける。

「ワタシはここで、魔族を狩って、質のいいモノを主様に届けていますぅ…人界に魔族が流れ込むのを止めていますぅ…デメリットなんて、ないですよねぇ?どうして貴方達は、善行をしているワタシを、止めるんですかぁ?」


クロアケが口を開いた。

「…アルノーが、会いたがっているからだ。それに、今の魔族社会は狂っている。お前がしていることは、ただの虐殺だ。」


「そうだよ、恐怖に支配されるなんて間違ってる!本来は魔界だって、人界と同じように統治者がいるはずなんだ…。」

拳を握りしめたチェディーは、そう言い放つと、笑った。


「魔王が戻ってきたってことを、邪神を倒して証明してやってもいいよ!」


チェディーが武器を手に取ると、途端にエデフィの顔つきが変わった。


「貴方…主様を殺す気なんですねぇ…。」


空気が重くなる。


「なら、殺すしかないですねぇ…!」


エデフィの持つ大剣が、弧を描く。

戦闘は、避けられなかった。

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