第三十九話:お得意様
クロアケ達は廃城を目指して、ラドアバルの名もなき街を歩いていた。
道中、魔物や魔族が現れた時は、他のメンバーは隠れ、シュナの魔法具や話術でやり過ごす。派手な戦闘は避けるべきというのが、シュナの考えだった。
シュナはハースティアのメンバー達と交流があった。便利屋として名が知れ渡っていることによって、犠牲にされることを回避し続けていた。シュナの協力の下、休憩を挟みつつ、安全に進んでいた。
「…アンタも大変だな、“人界からの侵入者探し”って。」
「うん。シュナちゃんはすごいよ、そんな可愛いのに一人で便利屋なんて。」
「よせよ、オレは男だって何回も言ってんじゃん!じゃ、またな〜。」
魔族の気配が遠ざかる。
「……おい、もう出てきていいぞ。」
物陰に隠れていたクロアケ達は、周囲を伺いながらシュナの元へ歩いていく。
この場で頼りになるのはシュナしかいなかった。
「今のも、“お得意様”?」
クロアケが疑問を投げかける。
「ああ、ウチの店によく魔法具を買いに来る常連だ。この辺で魔法具を持ってる奴は、全部オレが作った魔法具を使ってると思えばいい。そのくらいオレは顔が広いんだ。」
シュナはリュクナが持っている灯し石を見て、苦笑する。
「例えばそんな石ころも、加工すれば少量の魔力で周囲を明るく照らせる…。そうだな、持ち手付きの携帯灯とか…名前はランタンでどうだ?イカすだろ。」
「頭がいいんだね、シュナって…顔も整ってるし。」
チェディーは嫉妬気味に口を尖らせて言った。
「顔は関係ないだろ!?」
シュナは頬を赤く染め、乱暴に歩き出した。
「ほら行くぞ、そろそろ貧民街がある辺りだ!どっかの路地裏で休むぞ。オレの時計も一の刻を示してる。月の模様が浮かんでるから…人界では深夜ってとこか。」
「随分正確に分かるんですね…その時計。」
リュクナが不思議そうにシュナの時計を眺めている。
「…オレが作ったからな。」
それだけ言って、歩き出す。
…。
貧民街に入ると、急いで物陰に隠れる魔族の姿を見かけた。
「懐かしいな…。」
ふと、アドペロが呟く。
「…確かにね。十年は前だっけ、チェディーも君達兄妹に会いに通ってたな。その時からここに住み着く下級魔族は変わんないね、ずっと怯えてる。」
尻尾を揺らしながらチェディーも呟く。
「魔王様が関わってた下級魔族……ああ!アドペロって、捨てられた双子の獣人の…妹か!聞いてた姿と違うし、戦争に巻き込まれて死んだって話だから、流石に分からなかったぜ。」
「うるさいな、便利屋ならワケアリなの分かるでしょ。」
「はいはい、成長が止まったんだろ?知ってるよ…じゃあ、育ての親ってのは、アレか。」
「アレって言わないでよ、魔王のこと。」
チェディーはふくれっ面をしてシュナを睨む。
「いやそっちじゃなくて…有名なほうだよ、ほら、一族が滅びた人魚の末裔…。おっと、続きは飯を食ってからだな。」
シュナは隠れられそうな家の跡地を見つけると、そこに全員を誘導する。
…。
五人は家の跡地に座って、シュナから渡された簡易食を食べる。
チェディーは魔法で仕舞っていた水を全員に配ると、シュナが話し始めた。
「…五百年前に女神様とかいうのが現れて、脚を生やしてもらった代わりに、一族が絶えたっていう人魚の伝説。その末裔が、獣人の双子を拾って育てたって。魔王様も手伝ってたってさ。な?」
シュナはチェディーを一瞬見ると、チェディーは頷いた。
「あの女神、そんなこともしてたのか…。」
クロアケは記憶を辿りながら言った。
「…父さん、そんな過去があったんだ。教えてくれなかったな。」
「ま、その人魚は、拾った子が戦争に巻き込まれて家ごとなくなったって知って、酷く絶望したってさ。」
シュナは簡易食を頬張る。
「ボク、父さんに生きてるよって伝えなきゃ。父さんの居場所は分かる?」
アドペロはシュナの方に寄りながら問う。
「…あ〜、流石に分からん。教えてくれなかったからな。」
シュナは仰け反った。
「ていうか、兄の方は?妹が生きてるなら、兄も助かったんじゃないか?オレが知ってるのは魔界の情報だけなんだ。どうなった?」
その言葉を聞いて、全員が固まる。
「…あ。」
シュナは空気を読んだ。
「……死にました。魔術の代償で。僕の…師匠でした。」
ずっと黙っていたリュクナが、口を開く。
「失礼なことを聞いちまったな、すまん。」
シュナは謝罪し、水を飲んだ。
…。
それからは、気まずい空気のまま、食事を終わらせ、各々睡眠を取った。
アドペロは育ての父を思い浮かべながら、眠りにつく。
ハースティアの影が近づいていることに、誰も気づかなかった。




