第三話:違和感
その日の夜。
クロアケとチェディーは、寝室にある狭い布団で、眠りにつこうとした。
「…やっぱり狭いね、チェディーは床で寝るよ。」
そう言って布団から出ようとするチェディーを、クロアケは止めた。
「お前が家主だろ、むしろ私が床で寝るべきだ。」
クロアケは布団から出て、冷たい床に寝そべる。そして、天井を見ながら言った。
「…こっちのほうが、慣れてる気がするんだ。」
「…そっか、まあ、三日も森で寝てたもんね〜、あはは!」
チェディーは皮肉交じりに笑う。
クロアケは冷笑で返した。
しばらくして、チェディーの寝息が聞こえた頃。
クロアケは音を殺して床から起き上がり、静かに家の中を探索した。
包丁を見つけた瞬間、胸の奥がひくりと跳ねて、クロアケはハッとした。
クロアケは自分が無意識に武器を探していたことに驚く。
そして、研ぎ澄まされたクロアケの耳は、ベッドが軋む音を捉える。
「う〜ん、クロアケ…何してるの?」
チェディーが起きてしまった。クロアケは必死に誤魔化した。
「あ、いや、ずっと寝てたから、寝付けなくてさ…。」
「そう…でも…人間はちゃんと寝ないといけないよ…おやすみ…。」
クロアケはチェディーが眠ったことを確認して、静かに家の扉を開ける。両親を探そうとして。
一歩外に踏み出したとき、外の闇の深さに恐怖した。
「ひとりの夜は、怖いな…。」
結局クロアケは、部屋に戻り、大人しく眠ることにした。
…。
翌朝。
鳥の鳴き声で目を覚ましたクロアケは、上体を起こす。ベッドにチェディーがいない。
寝ぼけ眼で家の外に出たクロアケは、家のそばにある木に登って伸びをしているチェディーを見つけた。
クロアケの姿に気づいたチェディーは、軽やかに木から身を離すと、器用にも一回転して着地してみせた。同時に、チェディーの揺れる銀髪が、陽の光を浴びて輝くのを、クロアケは何も言わずに眺めていた。
「おはよう、アケちゃん!」
チェディーはクロアケに声をかけた。
「アケちゃん…私のことを言っているのか?」
奇妙な呼び方に、クロアケは首を傾げる。
「うん。名前に黒色が入ってるのって、なんか嫌じゃない?アケちゃんのほうが、夜が明ける…って感じで、なんか縁起良さそう!だからアケちゃん!」
そう言いながらチェディーは、朝日を指差す。クロアケは指さした方を見て、眩しさを感じ、思わず目を細めた。
「…顔、洗う?」
チェディーはクロアケの顔を見つめて、何気なく言った。
「どうして?」
「…泣き跡があるし、顔が腫れてるから。」
「泣き跡…。」
クロアケは顔を触る。確かに熱を発している。
「そうだ、近くに川がある!水汲んでくるから!待ってて!」
そう言うとチェディーはすぐに家から桶を持ってきて、五分もかからず水を汲んで戻ってきた。本当に側に川があるようだ。
「ほら、洗い場に鏡もあるから!アケちゃん、何かあったら相談してね!」
そうしてクロアケは、背中を押され家の中の洗い場に案内された。
「…何もリアクションできなかったな……。」
クロアケは呆然としていた。
恐る恐る鏡に近づく。包帯を外して顔を見れば、確かに顔が腫れていた。
「怖い夢でも見たのか…はは、情けないな。何も覚えていない…。」
チェディーから受け取った水桶を使って、クロアケは顔を洗う。袖で顔を拭った後、時間をかけて包帯を巻き直す。左目は相変わらず見えない。
「怪我をしているわけじゃないけど、まぁ…包帯はあったほうがいいな。」
…。
居間に行くと、台所でチェディーが調理をしていた。魚が焦げた匂いがする。
「あ!アケちゃん、大丈夫だった?これ食べて元気だしなよ!」
チェディーはクロアケを気遣いながら、料理を差し出す。
焦がした魚を皿に乗せただけの、いかにも粗末な料理を前にして、クロアケはぎょっとした。
「…お前、今までこんなものしか食べてこなかったのか?」
「え?何か変だった?ごめん、人間の食事を作るって初めてで…。」
チェディーは申し訳なさそうな顔をした。
「まぁ、居候の私が言える立場じゃないか。明日から私が調理する。食材は私が言ったものを用意してくれないか?」
「うん!調達は任せて!馴染みの店があるんだ!」
二人は談笑しながら、焦げた魚を食べた。




