第三十八話:魔族を食う少年
「休憩は終わったか?そろそろ行くぞ。」
シュナの一声で、全員が動き出す。
クロアケは魔物の屍を一瞬見て、目を逸らした。
「次はどこに向かうんだ?」
「あー、食料が足りないから、一旦オレの作業場に行くんだ。ここを抜けた先のすぐのとこ。ただ、ハースティアの連中がいるかもしれないから、気をつけろよ。」
それを聞いて、チェディーは首を傾げる。
「なんでそいつらはレヴィとかいう奴に仲間を売ってるんだろ…レヴィって今の魔界の支配者だったりする?」
クロアケとチェディーはいまだギクシャクしているようで、離れながら歩いていた。
シュナは呆れて息を吐く。
「そのくらい分からないか?本当に幼稚で甘ったれな魔王様だな。」
収容所の長い廊下を歩きながら、シュナは続ける。
「レヴィは魔族を食ってる…ずっと前からだ。ハースティアの連中だって、生き延びるために仕方なく属してるって奴の方が多い。」
「…じゃあ、兵器開発とか人体実験も、レヴィに抵抗するため?」
アドペロは尻尾を引きずりながら話す。
「そうらしい。レヴィは邪神って呼ばれてるくらいだ。相当力を蓄えてる。魔族には大量の魔力が詰まってるからな、この地域の魔族がほとんど居ないのは、この街の最奥にある廃城に、レヴィが住み着いてるから…というのがオレの予想だ。多分当たってる。」
そして廊下の先に出る。
収容所の門をくぐり抜けて、シュナはふと思い立ち、疑問を投げかけた。
「…そういや聞きそびれた。お前ら、どうやって魔界に来たんだ。」
誰もが今更かという反応をし、顔を見合わせた。
「貴方も相当抜けてますね…。」
リュクナは困った顔で返答する。
「門にして鍵の少女、クエラっていう子のお陰で境界が開いたんだよ。」
チェディーが尻尾を揺らしながら答えた。
「クエラか…ああ、あの子…。」
何か言いかけようとして、話を切り替えた。
「じゃあ今は境界は開きっぱなしってことだな?」
「そ。人界の方で強い神父さんに門番をしてもらってるけど、一人で大丈夫かな…。」
「その問題なら大丈夫だろ、なにせレヴィがすげー魔族を食ったから、魔界の人口は少ない。門番も暇してるだろうよ。」
そしてシュナは一瞬考え込むと、ニヤリと笑って一人呟いた。
「…それじゃ改めて…俺の目的はコイツらを廃城近くまで送り届けるってことだな…。」
話している間に、一風変わった店にたどり着いた。
派手な装飾で目立つ、便利屋の店だった。
「ついた。パサパサの簡易食だけじゃ喉が渇くだろ、水もあるぜ。」
そう言ってシュナは店の奥へ入り、腰に巻き付けた革袋にたっぷりと食料を入れた。
「あー、水は重いな…魔王様、さっきのさ、大鎌を仕舞うみたいに、どっかに仕舞えないか?魔法でさ。」
チェディーは露骨に嫌そうな顔をした。
「ええ〜………いいけど……。」
水を受け取ったチェディーは、そのまま宙に放り投げる。
すると闇に包まれるように、どこかへ消えていった。
「魔法って便利ですね…。」
リュクナは呟き、自分に魔法の才能がないことを悔やんだ。
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かつて魔王が支配していた廃城で、少年は玉座に座っていた。
少年の手のひらには空洞があり、そこから消化液が垂れている。
「ねえメロウ、もう魔族いないの〜?」
メロウと呼ばれた人魚の男は、耳の位置にあるヒレを動かしながら跪いていた。
「…レヴィ様、腹が減ったなら俺を食ってもいいっすよ。小腹を満たすくらいにはなるでしょう。」
そういってメロウは隣にいるエデフィに目配せをした。
「自己犠牲、美しいですねぇ。」
メロウは左腕を差し出し、目を瞑る。
エデフィは大剣を振りかざし、メロウの左腕を切り落とした。
ボトン…と腕が落ちた音が城に響く。
「う、ぐっ…!」
メロウは痛みに堪えきれず、嗚咽を漏らした。
レヴィと呼ばれた少年は、黒い触手を地面から生やし、落ちた腕を掴んで手のひらの空洞に押し込んだ。咀嚼もせず飲み込む。落ちた腕はレヴィの中へ運ばれる。
「う〜ん、魚の味がする。で、その腕が再生するのって、どのくらいだっけ。」
「…安静にしてれば…次の刻には再生するかと…。」
切られた腕から血を流しながらも、傷口は徐々に再生していた。
「へ〜。ところでさ、境界が開いたみたい。誰か侵入したかもしれないから、ラドアバル中心に見回り、よろしくね。ハースティア幹部…メロウ、エデフィ。」
レヴィは興味なさげに玉座であぐらを組む。
「把握しました。」「はぁ〜い、殺して差し上げますぅ。」
返事とともに、二人は闇の中へ消えていった。
魔界の運命は、もう取り返しのつかない場所へたどり着いてしまった。




