第三十七話:相棒だから
巨体の魔物が数体、クロアケ達の前に現れた。
ある魔物は腕が何本も生えており、またある魔物は全身に目玉がある。
魔物達は後退りしたリュクナに反応し、一斉に襲いかかる。リュクナは軽やかに短剣で受け流しながら後ろへ飛び、身を守った。
「なんで…僕なんですか…ッ!」
続いてリュクナを守ろうと動いたアドペロに、隠れていた別の魔物が飛びつく。体が小さく、アドペロの背にしがみついている。首筋を狙い、噛みつこうとしていた。
「奴らが見ているのは動きだ!動くと襲われる!」
シュナは叫んだ。その場から動かない。
その言葉の通り、シュナの周りには魔物が寄り付かなかった。
チェディーは神速で大鎌を取り出し、アドペロの背についた魔物を切り裂いた。アドペロは遅れて戦闘態勢に入るが、チェディーと共に魔物に囲まれてしまった。
「ボク、あんまり戦力にならないと思うけど、チェディーは?」
「任せてよ、なんたって魔王だからね。」
クロアケも襲われるが、強烈な回し蹴りで巨体の魔物を仰け反らせる。
「…人間だから、こんな風に襲われることもあったな。」
この収容所では、弱い人間は餌にされるか、弄ばれるだけだった。ここで育てば、身を守る術を覚えるのも無理はない。
しかし、魔物や魔族にとって、人間が行う抵抗など、這い回る虫のようだった。クロアケの攻撃を受けた魔物が、クロアケの首を狙いに来る。
攻撃しながらも見守っていたチェディーは叫ぶ。
「アケちゃん!右からくるよ、下がって!」
クロアケはチェディーの声を聞いて苛立つ。
「うるさい、指示するな!」
襲ってくる魔物に再び蹴りを放とうとするクロアケだったが、抵抗虚しく足首を掴まれた。
そのままクロアケは、宙吊りになる。
戦闘中も魔族は増え続け、リュクナも囲まれる。アドペロも鉤爪が欠け、手一杯だった。
残ったのはチェディーのみ。チェディーはシュナに助けを求める。
「ちょっと、突っ立ってないで、なんとかできない!?便利屋でしょ!?」
しかしシュナは動かず、鼻で笑う。
「魔王様ならそのくらい、どうとでもなるだろ?助ける義理がないし、自分の身を第一に行動するのがオレのやり方だぜ。」
チェディーは思わず舌を鳴らす。思考を巡らせた。
全員を助けるにはリスクが伴う。リュクナを先に救ったとしても、距離的にクロアケを助け出すには間に合わない。アドペロを救うにしても、自分の分と合わさって数が多くなる。
クロアケの首に魔物の手が伸びている。
チェディーは決断した。
「…殺させない。」
魔物の両手が、一瞬にして切断された。
落下するクロアケをチェディーは優しく受け止める。
「なんで…来た。」
クロアケは命の危機を感じたことで、冷静になっていた。
「来るに決まってるでしょ。相棒だから。」
チェディーは仲間を信じた。
リュクナは戦える人間だ。一人でも多少の傷で済む。アドペロはキメラだ。元は獣人とはいえ、あの血が流れている。だから、救うべきは一人だけだった。
クロアケはチェディーにとって、大切な相棒だ。
こんなところで失うべき人ではなかった。
「情が移っただけのくせに…。」
「そう言うアケちゃんも、チェディーが来て安心した顔してる。」
影が襲いかかる。クロアケは呟いた。
「…戦いは終わってないぞ。」
チェディーはクロアケを抱えたまま、瞬時に横へ飛んだ。
「分かってる。」
クロアケを地面に下ろしたチェディーは、他のメンバーの下へ走る。
「待たせたね、リュクナ!」
「遅いですよ!何してたんですか!」
…。
「大丈夫だった?アドペロ。」
「…母さん……チェディーって、やっぱり強いね。」
…。
戦闘が終わった。
チェディーは息を荒げることもなく、手にしていた大鎌を宙に仕舞う。
リュクナは満身創痍で地面に転がる。
「地面がこんなに安心できる場所と思うのは、初めてですよ…。」
アドペロは地面に座って、欠けた爪を再生させていた。
「龍の血を持ってるだけで戦えるとは思わなかった…自分でもびっくりだよ。」
安堵の声が聞こえる。
「…全員無事で、良かった。」
「そうだね。皆が強かったから、生き残れたんだ。」
クロアケはチェディーを許したわけではない。
それでも、束の間の平穏に浸っていた。




