第三十四話:弱肉強食
リュクナは燃えそうな素材を集め、持ってきた焚き葉に魔力を込めて火を起こす。
やがて簡易的な野営地ができた。
瓦礫に腰を下ろしたシュナは、空を一度だけ見上げた。赤黒い雲は、何も答えない。ただ、焚き火が跳ねる音だけが聞こえる。
「…で、アンタらが知りたいのは、魔界の現状だろ?」
軽く笑ってから、肩をすくめる。
「そうだ。ハースティアって何だ?そもそもこの街は一体何なんだ。」
クロアケが鋭い目でシュナを見つめる。
「まぁまぁ、順を追って説明する。正直に言うぞ、もう魔界は死んでる。」
「死んでる…?」
クロアケが小さく聞き返す。
「生きてるやつはいるさ。でもな、未来がない。」
シュナは指で地面をなぞった。腐った落ち葉をどけて、土に図を描く。
「…三十年前、先代魔王が殺された。その時点で、魔界の“蓋”は外れたんだ。」
「……蓋?」
リュクナが眉を寄せる。
「オレが仕入れた情報だと、確か、次に選ばれた魔王が幼稚で甘ったれだったせいで、元々あった食糧問題や政治的な問題が悪化したらしい。だから、戦争が起きた。蓋ってのは要するに、やり過ぎないための線を越えちまったってこと。」
チェディーの肩が微かに動いた。シュナは気にせず続ける。
「魔界は魔力の強さで階級が決まる。本来はな、上の連中が下をこき使って、下は楽じゃない生活をしてた。そういう、歪だけど一応の秩序みてぇなのがあった。」
「そうだね、ボクや兄さんが育った魔界はまだ秩序があった。今はどうなってるの?」
アドペロが静かに聞く。
「今は違う。奪える奴が正しい。奪えない奴は奪われる。」
チェディーの尻尾が揺れる。
「…それで、ハースティアが生まれた?」
「ああ。生き残るために、主様って奴に仲間を売る連中だ。兵器開発もしてる。ハースティアには魔族も人間も種族関係なく属してるが、仲間意識はない。」
シュナは笑うでもなく、吐き捨てる。
「次は自分じゃない、って証明するために、誰かを差し出す。それが続いた結果が、今だ。」
「主様の正体って…分かる?」
「“レヴィ”って名前と、少年の姿をしているってことだけ。オレはハースティアに居ねぇから、詳しくは知らん。むしろここまで情報を集めて命がある方が不思議だぜ。」
「この街に残っている人はいないの?」
アドペロが尻尾を抱えながら問う。
「あー、街に残ってるのは、戦えない連中か、まだ希望を捨てきれていない奴、だな。」
シュナは思い出すように語る。
「それと、レヴィの名が知られるようになった頃から、このあたりの街は全部ラドアバルって名前に改名されたんだ。泥沼の街がこの有り様なのも納得だろ?歴史ある街だってのに、放置されてんだ。」
「魔界も色々あったんですね…。」
「ああ、色々…な。で、お前らはなんで魔界に来た?」
シュナは品定めするようにクロアケ達を眺める。
「人界に魔族が現れるのが、最近目立ってきたからだね。元凶を知ろうと思って。」
チェディーは舌を舐める。
「ふーん…なるほどね。じゃあついてきな。魔界の現状を知ってるオレが案内したほうがいいだろ。」
そしてシュナは立ち上がった。
話を聞いていたクロアケは、ふと目を擦る。境界騒動からよく眠れていないクロアケは、ここにきて限界を迎えたのだろう。今にも倒れそうに、ゆらゆらと体の軸がブレる。
「その前に…話しすぎて疲れたな。眠そうな奴もいるし、まずは休息をとるか。」
シュナは気を利かせて、そう言った。
「…そうだね。明日に備えなきゃ。」
チェディーは瓦礫にもたれかかる。
シュナは焚き火の前で、転がるように横になった。
二人とも、数分もしない内に寝息を立てる。
「いくら魔界に慣れてるとはいえ、無防備過ぎませんか…?」
リュクナは周りを警戒しながら、建物の影に移動する。
「安全だから…シュナもここに案内したんじゃないか?…大丈夫だろ。」
クロアケも焚き火の前で横になる。汚れるのを気にせず、自然に地面に頬をつけた。
「…なんだか、懐かしいな……。」
そう言って眠りにつく。
「リュクナもそんな警戒しないで、あったかいとこで寝なよ。」
アドペロは尻尾を抱きながら、座って眠りにつこうとしていた。
「…よくこんなところで眠れますね、皆さん……。」
そう言って汚れていない場所を探し、倒れた瓦礫の上でリュクナは眠った。
魔界には昼夜の概念がない。各々、体力回復のためだけに眠る。
シュナが味方か敵か、この時は誰も分からずにいた。




