第二話:くつろぎ
家に入ったクロアケは、しばらくそわそわしていた。
「落ち着かない…。」
目についた椅子に座って、チェディーを見ていた。
チェディーは歌いながら客人をもてなす用意をしている。
「おっともっだち〜♪はっじめっての〜♪おっともっだち〜♪…」
チェディーは楽しそうに、氷蔵箱から瓶入りの飲み物を取り出した。
「はいどうぞ!チェディーが大好きな飲み物、牛乳だよ!」
瓶がクロアケの前のテーブルに置かれた。
チェディーはクロアケの向かいの椅子に座る。
椅子から見える窓の外は、もう日が高く登っていた。
「ありがとう…。」
テーブルに置かれた牛乳を一口飲み、クロアケはようやく緊張を解いた。
「ところでさ…その、ツノと翼はなんだ…?」
クロアケはふと気づいて話す。
「今更!?ええとね、チェディーは人間じゃないからだよ!」
「人間じゃない…?じゃあなんだ。」
チェディーは少しためらいつつも、話した。
「…魔族っていう種族だよ。」
クロアケは特に驚くことはなかった。
「そうか、そんな種族があるのか。でも、人間と姿は似てるんだな」
「魔族がみんなチェディーみたいな姿してる訳じゃないよ!魔族っていうのは、人を食べたりする危険な種族なの!」
チェディーはそう行って、自分の分の牛乳を飲み干し、窓の外の遠い街を見る。
「でもチェディーは、人の街が好き。営みが好き。だから、人間の味方をしてるの。」
そして、クロアケの顔を見て、真剣な目で言った。
「クロアケもこの家を、自分の家と同じくらいの気持ちでくつろいでよ!」
「家…。」
クロアケは家を見渡す。整えられた家具、冷蔵箱、暖炉。クロアケにとってそれらは、知識はあるが、馴染みのないものだった。
「落ち着くまで、しばらく掛かりそうだな…。」
そう独り言を呟いて、左目を触る。
眼球はあるようだが、視力が失われていることをひしひしと感じる。チェディーはクロアケの仕草を見て、焦ったように立ち上がり、どこからか包帯を持ってくる。
「ッはい!これ!目、痛い?大丈夫?体に違和感はある?」
不自然なほど慌てるチェディーを見て、クロアケは初めて笑った。
「ははっお前、そんなツノとかある危険な魔族のくせに、心配してくれるんだな。」
チェディーも笑う。
「ふふ、だってぇ…人間が好きなんだもん…。」
二人はしばらく笑いあった。
クロアケは渡された包帯を、ぎこちなく左目に巻いた。チェディーはそっぽを向いていた。
包帯を巻き終わったクロアケは、恐る恐るチェディーのツノに触れた。
ひんやりとして、思ったよりも硬い。
次は翼、細い尻尾。
チェディーは堪えきれず、笑いながら身をよじる。
「ちょっと、くすぐったいよぉ、何〜?ふふ。」
「やめてほしければ、魔族について教えてくれよ。」
チェディーは文句を言いつつも、少しずつ魔族という存在について語った。
クロアケは、魔族は生まれながらに魔力を持った、魔界に住む魔法を使える種族であることを知った。
そして、ここが人界と呼ばれる、人間が住む世界だということも。
…。
「…で、お前はなんで魔界じゃなくて、人界にいるんだ?」
クロアケはチェディーの尻尾を触りながら言った。
「それはぁ〜…えっと…人間を、見たかったから?」
「なんで疑問形なんだよ…本当に変なやつだな…。」
クロアケは笑みを浮かべながら、再び家の中を見る。
「…家っていうのは、落ち着く場所、なんだな。」
そう言ってクロアケは、ぬるくなった牛乳を飲み干した。




