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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第三章
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第二十六話:時渡りの赤子

クエラは養女だった。


今から七年前、赤子が教会の前に捨てられていた。丁度その頃グレンシック家は、なかなか子供を授かることができず、悩んでいた。街の女は誰も妊娠していないというので、この赤子は神からの贈り物だとグレンシック家は判断した。そうして迎え入れられたのが、クエラだった。


クエラが成長し、歩けるようになってからは街の外へ出たがるようになった。

喋り始めるようになってからは、繰り返し同じ言葉を言うようになった。


「あたしには弟がいたの。あたしがいないとだめなの。」

「あたしの住むとこ、ここじゃない!」


グレンシック家の者は全員頭を抱えた。クエラの言うことは頓珍漢で、そのうち誰もクエラの不思議な言葉を聞こうとしなくなった。クエラは内に秘める気持ちを抱えながら、森へ探検に行くことが多かった。最初の頃は一家総出でクエラの捜索が始まることもあったが、クエラは毎回、ケロッとした態度で無事に帰宅していた。


やがて、クエラが何処かへ行っても、誰もクエラを探さなくなっていった。


「どうせ今回もすぐ帰ってくるだろう。」

「神の子なのだから、自由にさせておこう。」


それがグレンシック家の、クエラへの態度だった。


___。


朝、クエラはいつも通り、森へ向かう。白く輝く花の下へ。

ここはクエラが初めて森に来た時、女神と出会った場所だった。


「…ここ、ふしぎ。クロアケやチェディーにも会える。あたしの特別な場所。」


クエラは一人、呟いた。


「あたし、きっと特別なちからがある。そうでしょ?女神さま。」


クエラはいつの間にか後ろに立っていた異形の存在に気づき、問いかけた。


「クエラちゃん、またここに来たの?」

異形は優しい笑みを浮かべながら、クエラの横に座った。


「聞いちゃったの。昨日の夜の話…クロアケ達と女神さま、会ってた。」


「知ってたわ。びっくりしちゃった。夜遅くに出歩くなんて、本当のお母さんが見たらびっくりするよ。」


「…あたし、捨てられてたんだって。きっと愛されてないんだ。」


「そんなことないわ。貴方のお母さんは、貴方を救うために自分を犠牲にしたのよ。」

異形は真剣な表情でクエラに訴えかけた。


「なんで女神さまはそう思うの?」

クエラは異形の顔を見つめて問いかける。


「……貴方のお母さんと、友達…だったから。もう五千年前の話よ。」


「…?よく分かんない。あたしって、むかしのひとなの?」


「そうね。貴方には酷な運命を背負わせてしまった。あの時私に覚悟があれば、きっとこの状況が起きることもなかったでしょうね…。」


クエラは目を丸くして首を傾げる。

「むずかしい話!分かんないけど、女神さまのせいじゃないと思うよ。」


それを聞いた異形は、クエラを抱きしめた。目から雫が溢れる。

「…ごめん、ごめんね!貴方に、鍵の役目なんて背負わせて…ッ!」


クエラはそっと抱き返す。

「いいよ。女神さまはきっと間違ってないと思う。だって、優しいもん。だから、クエラがしなきゃいけないこと、教えてほしいの。ずっと聞いてるのに、教えてくれないんだもん。」


異形はクエラの肩を持って、目を見る。

「そろそろ教えなきゃいけないわね。貴方は___。」


異形が語った役目を聞き、クエラは頷いた。そして微笑む。


「それがあたしのやるべきことなら、いいよ。

…だって、あたしにしかできないことなんでしょ?」


二人は朝日に照らされながら、手を繋いだ。


「…帰ろっか、クエラちゃん。」


「うん!」


クエラは異形と共に森を抜ける。

街にたどり着く頃には、いつの間にか異形の姿は消えていた。


それはいつものこと。

違ったのは、クロアケとチェディーがあの場所に訪れた時だけ。


「…次に二人に会えたら、あたしの役目を伝えなきゃ。」


クエラは家に向かって歩き出した。


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