第二十五話:悠久の旅人
クロアケは異質な存在を認識した途端、左目に激痛が走った。
「ぐ、ぅ…。」
そのうめき声を聞いて、チェディーはクロアケの元へ走る。
「どうしたのアケちゃん!何かあった?」
全員、異変に気づく。クロアケは村の中央を指差す。
「…なにか…いる…!」
それはボロボロの白衣を羽織った、時代にそぐわない人物だった。
長い黄緑の髪は自然と調和しているかのようで、白衣から覗く影には黒い手のようなモヤがあった。それは形を持って、蠢いている。見た目は少女のようだったが、その姿は神の佇まいだった。
少女の姿をした異形は声を発する。
「…久しぶりね、クロアケ。」
クロアケは痛みに襲われながらも、目の前の異形に質問をする。
「なんだ…?私は…お前と会ったことがあるのか…?」
チェディー、アドペロは警戒する。あの異形は只者ではない。
しかしリュクナだけは違った。
「…目の色が…僕の家系と同じ…貴方は、何者ですか?」
問われて、異形は空を見上げた。そしてゆっくりと口を動かす。
「そうね…悠久の旅人…かしら。」
クロアケは痛みの中で、思い出が蘇る。確かにクロアケは、この異形と話したことがあった。しかし、肝心の会話内容は思い出せなかった。ただ薄暗い場所で、短い間会話した記憶だけがフラッシュバックする。
「…貴方達、境界を超えたいのよね。」
異形は境界がある方へ顔を向ける。
「綻びがあるとはいえ、境界を壊すことはできない。魔界に行きたいのなら、一度しか使えない鍵が必要…あの子もきっと犠牲になってくれる。」
「犠牲…?鍵は人の形…まさか、鍵を使ったら…!」
チェディーは目を見開く。
「…二度と、人には戻れないでしょうね。」
異形は残酷に言い放つ。
異形は、黄金色の瞳をリュクナに向ける。
「…私の血が、絶えなくて良かった。」
意味深な言葉を残し、異形は消え去った。
風が吹く。草葉が揺れる。
静止していた空間が動き出す。
クロアケ達は、無意識に呼吸が浅くなっていたのか、息苦しさから解放された。
「ッはぁ、はぁ…。」
全員、呼吸を整える。それほどまでに、異形は神秘的で、おぞましかった。
「…帰ろう。」
しばらくして、声を出したのはリュクナだった。
「…女神さま。」
誰かが森の影に潜んでいたことに、誰も気づくことはなかった。
…。
気づけば、朝日が昇り始めていた。
魔法店に戻ったリュクナは、各自解散するように仕切る。
「鍵が誰なのかはまだ分かりませんが、明日以降に作戦会議をしましょう。それでいいですね?」
チェディーは頷く。アドペロも欠伸をしながら頷いた。
「もうこんなに時間が立ったのか…道理で眠いわけだ。」
クロアケは目を細めながら答えた。
帰路につく途中、アドペロは考え事をしていた。
「…鍵、ね……。」
「アドペロ、何か知ってるの?」
チェディーがアドペロの独り言に気づき、質問する。
「いや、気のせいかも知れないんだけど、二年前に会った子が、そんなことを言っていた気がして…。」
「え?どんな子だ、街にいるのか?」
クロアケも間に入る。
「…うん、街にいる。ボクが怪我をした時に助けてくれたんだ。顔はよく覚えてないけど、小さい子だったよ。」
「その子って…もしかして…。」
クロアケとチェディーは顔を見合わせる。
お互いに考えていることは一緒のようだった。
やがてアドペロと別れ、クロアケ達は家の扉を開けた。
「もし本当にあの子なら…進んで犠牲になるだろうな…。」
クロアケの言葉が、家の中に吸い込まれるように消えた。




