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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第三章
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第二十五話:悠久の旅人

クロアケは異質な存在を認識した途端、左目に激痛が走った。

「ぐ、ぅ…。」


そのうめき声を聞いて、チェディーはクロアケの元へ走る。

「どうしたのアケちゃん!何かあった?」


全員、異変に気づく。クロアケは村の中央を指差す。

「…なにか…いる…!」


それはボロボロの白衣を羽織った、時代にそぐわない人物だった。

長い黄緑の髪は自然と調和しているかのようで、白衣から覗く影には黒い手のようなモヤがあった。それは形を持って、蠢いている。見た目は少女のようだったが、その姿は神の佇まいだった。


少女の姿をした異形は声を発する。

「…久しぶりね、クロアケ。」


クロアケは痛みに襲われながらも、目の前の異形に質問をする。

「なんだ…?私は…お前と会ったことがあるのか…?」


チェディー、アドペロは警戒する。あの異形は只者ではない。

しかしリュクナだけは違った。


「…目の色が…僕の家系と同じ…貴方は、何者ですか?」


問われて、異形は空を見上げた。そしてゆっくりと口を動かす。

「そうね…悠久の旅人…かしら。」


クロアケは痛みの中で、思い出が蘇る。確かにクロアケは、この異形と話したことがあった。しかし、肝心の会話内容は思い出せなかった。ただ薄暗い場所で、短い間会話した記憶だけがフラッシュバックする。


「…貴方達、境界を超えたいのよね。」

異形は境界がある方へ顔を向ける。


「綻びがあるとはいえ、境界を壊すことはできない。魔界に行きたいのなら、一度しか使えない鍵が必要…あの子もきっと犠牲になってくれる。」


「犠牲…?鍵は人の形…まさか、鍵を使ったら…!」

チェディーは目を見開く。


「…二度と、人には戻れないでしょうね。」

異形は残酷に言い放つ。


異形は、黄金色の瞳をリュクナに向ける。

「…私の血が、絶えなくて良かった。」


意味深な言葉を残し、異形は消え去った。


風が吹く。草葉が揺れる。

静止していた空間が動き出す。


クロアケ達は、無意識に呼吸が浅くなっていたのか、息苦しさから解放された。


「ッはぁ、はぁ…。」


全員、呼吸を整える。それほどまでに、異形は神秘的で、おぞましかった。



「…帰ろう。」

しばらくして、声を出したのはリュクナだった。



「…女神さま。」

誰かが森の影に潜んでいたことに、誰も気づくことはなかった。


…。


気づけば、朝日が昇り始めていた。

魔法店に戻ったリュクナは、各自解散するように仕切る。


「鍵が誰なのかはまだ分かりませんが、明日以降に作戦会議をしましょう。それでいいですね?」


チェディーは頷く。アドペロも欠伸をしながら頷いた。


「もうこんなに時間が立ったのか…道理で眠いわけだ。」

クロアケは目を細めながら答えた。


帰路につく途中、アドペロは考え事をしていた。

「…鍵、ね……。」


「アドペロ、何か知ってるの?」

チェディーがアドペロの独り言に気づき、質問する。


「いや、気のせいかも知れないんだけど、二年前に会った子が、そんなことを言っていた気がして…。」


「え?どんな子だ、街にいるのか?」

クロアケも間に入る。


「…うん、街にいる。ボクが怪我をした時に助けてくれたんだ。顔はよく覚えてないけど、小さい子だったよ。」


「その子って…もしかして…。」


クロアケとチェディーは顔を見合わせる。

お互いに考えていることは一緒のようだった。


やがてアドペロと別れ、クロアケ達は家の扉を開けた。


「もし本当にあの子なら…進んで犠牲になるだろうな…。」


クロアケの言葉が、家の中に吸い込まれるように消えた。

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