第二十四話:境界とは
「…なるほど、境界の様子が変、ということですね。」
リュクナはアドペロの話を聞いていた。近頃、境界付近での魔族の出現が頻繁になっていること。そして、チェディーは原因を突き止めるために魔界へ行くつもりだということを語った。
「僕も、アドペロさんの事情を日記で知った所です。さぞお辛かったでしょう…。」
リュクナは日記の束を広げて、言葉を続ける。
「ご主人は境界についても調べていたようです。まだ中身は見ていませんが…これです、表紙に、門の形の絵が描かれている日記…。」
リュクナは日記を開き、必要な部分だけを読み上げた。
『…以前クロアケに境界は魔法でできているかもと言ったけど、あれは誤りだった。あれはアドペロの薬を作っていた時に使ったものと似ていた。魔術でできている。』
『…ということは、この世界に本来存在しないものの可能性が高い。魔術は使用者の命を代償に、事実を捻じ曲げるようなことさえできてしまうのだから。』
『そうなると、境界の鍵も、本来の鍵の形をしていないだろう。魔術で開けることはできるだろうが、僕は妹の薬を作るために、ここで命を使うわけには行かない。でもこの先、きっとリュクナ達が鍵を探す日が来る。そのためにヒントを残そう。』
リュクナはしばらくページをめくり続ける。
「ご主人、これ寝ぼけながら書いてますね。この先読めない部分が多いです…。」
それを横から見ていたチェディーは、何かを閃き、文にもならない場所を指さした。
「…これ、寝ぼけてるんじゃない…古代語だよ。境界の門に時々浮かび上がるんだ。昔少しだけ読んだことある。ええと…分かりそうな文字は…。」
そしてチェディーは、日記の最後の文を読み上げた。
『…鍵は、時を超えた赤子だ。
貴方達も出会ったことがある。』
「……だってさ。これ、境界に意思がないとこんな文にならないよね。」
チェディーは伸びをしながら言った。
「時を超えた赤子?貴方達って…兄さんが文章を日記に書いて、それをボクらが読むことまで予知してるみたいだ…変な感じがする。」
アドペロは顎に手を当て、考え事をしていた。
「…なんか引っかかるんだよな…。なぁ、リュクナ。お前なら分かるんじゃないか?」
クロアケはリュクナに問いかける。
「僕も全部分かるほど賢くはないです…でも、僕の故郷ならもしかしたら…。」
「もしかしたら?」
「……境界の歴史を、探りましょう。魔法使いの村は、歴史上最も古い村ですから。」
そう言って、リュクナは店の扉を開ける。
「ついてきて下さい。あの村は排他的でしたので、道を知っているのはもう僕しかいません。迷わないように気をつけて下さい。」
リュクナの言葉に、クロアケは驚く。
「もしかして、チェディーでも知らないのか?」
「チェディーも知らない!ワクワクするねぇ、アドペロ!」
「…はぁ。」
アドペロだけが、浮かない顔をしていた。
…。
境の森。
それは人界と魔界が交わる境界の森。
その森の中に、村の跡地はあった。
「随分と…荒らされているな。」
クロアケは呟いた。
「人が寄り付かない場所ですし、滅んでからもう二年は経ってますからね。」
リュクナは草をかき分ける。
しばらく村の跡地を探ったが、めぼしいものは何も見つからなかった。
「なーんにもないね!この荒れようだと、資料が残ってたとしても虫に食われてるのがオチかな!」
チェディーは早々に諦め、大声を出す。
その声で、全員気を落とす。
「僕、故郷には嫌な思い出しかないので、疲れてしまいました。」
「そうだな、私も疲れた。」
「ボクも…なんか墓荒らしみたいで申し訳なくなってくるよ。」
クロアケはふと、違和感を覚える。
村の跡地に、静寂が落ちた。
鳥の声が消え、風が止む。
さっきまで揺れていた草葉が、まるで凍りついたように動かなくなった。
「……?」
クロアケは、胸の奥が酷くざわつくのを感じた。
耳鳴りでも、恐怖でもない。
“異質な者がここにいる”という、説明のつかない感覚。
時間が、引き伸ばされたように感じる。呼吸する音だけが、やけに大きく聞こえた。
その時だった。
村の中央、噴水と、砕けた像の前。
いつから居たのか分からない。
一人の人物が、そこに立っていた。




