第二十三話:おかしい
街が静まった夜、リュクナはアルケイが遺した本や魔法具の整理をしていた。
半年が経っても、遺品の整理が終わらない。それは、リュクナが店の管理を続けていることや、心が追いついていないことが原因だった。
時折、アルケイが読んでいた魔導書や研究資料を手にとって、読むことがある。自分の知識を深めるために行っていたことだったが、アルケイが何故死んでしまったのかを知るためでもあった。
今日、リュクナは、一つの薬の作り方についての資料を発見した。
“龍の血を使った薬”。それは、作り方や完成品までしっかりとまとめてあった。しかし、龍の血など人界のどこにも存在しない。結果だけが成立していることに、リュクナは疑問を持つ。
(……これ、理論上作れない…おかしい。)
アルケイが隠していた資料をかき集める。走り書きのメモ書きが出てくる。アルケイがそれまで研究してきた過程が分かってくる。魔術と魔法の違い、錬金術への応用、その全てが、その薬のためだけに研究されていた。
(なんで、ご主人はこれを…?)
その時、アルケイが死の間際に渡してくれた日記の存在を思い出し、店の中を走る。本棚の前で立ち止まり、日記の束を取り出す。ある一冊のページには、今までアルケイが語らなかった家族、妹の存在が書かれていた。
『僕の妹、アドペロが受けた苦痛は、計り知れない。どうやら僕ら獣人は血が不完全で、他の血を取り込むと簡単に体の形が変わってしまうらしい。アドペロのキメラ化を治すためには、異物である龍の血を完全に分解する薬が必要だ。でも人界には龍の血は存在しない。どうするべきだろう。』
リュクナは黙って日記を読み続ける。そこに答えが書かれている気がして。
『…魔法と魔術の違いが分かった。魔術を使えば、龍の血の代わりを生み出せるだろう。代償は何だろうか。なんでも良いから、妹を救いたい。』
そして、アドペロについて書かれた日記の最後には、薬が完成した、とだけ書かれていた。
アルケイの日記の一つを読んだリュクナは、答えこそ書かれてはいなかったが、アルケイが何故命を落としたのかだけは予想がついた。
(ご主人は、妹を助けるために…魔術を使って無理やり薬を完成させた…代償は…自分の命…。他の日記は…?)
リュクナが他の日記を漁ろうとした瞬間、店の扉が叩かれた。リュクナは日記を束にまとめ直し、扉を開ける。そこに立っていたのは、クロアケとチェディー、そして、アルケイとどこか似た雰囲気を持つ存在、アドペロ。
アドペロは長い尻尾を気にしながら、俯いている。
「あの…はじめまして。ボクはアドペロ…。アルケイの妹。よろしく…。」
それだけ話すと、服の裾を握って、黙ってしまった。クロアケとチェディーはいつも通りに接する。
「リュクナ、今日は買い物じゃなくて、ちょっと探し物をしにきたんだ。」
クロアケは店に入り、店内を歩き出す。
「アルケイがなんか遺してくれてるといいんだけどねぇ。」
チェディーも歩き出す。
リュクナはアドペロを見て、違和感を覚えた。アルケイと見た目がそっくりだからという理由ではなく、もっと前に出会ったことがある気がしたからだった。
「あの…アドペロさん。もしかして、僕とどこかで会ったことありますか?」
アドペロは驚き、そっぽを向きながら答えた。
「…兄さんと似てるからじゃないかな。ボクは君のこと…知らないよ。」
リュクナとアドペロはしばらく動けずにいた。しかし、チェディーの一言が二人を動かした。
「リュクナ!この日記、片っ端から読ませてもらって良い?」
チェディーが掲げているもの。それはリュクナが先程まで読んでいた日記の束だった。
「…僕も読んでいる途中なんです。ていうか、探し物って日記ですか?貴方達、何を企んでいるのです?」
リュクナは警戒心をむき出しにして、日記を素早く取り返した。




