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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第三章
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第二十二話:異変

アルケイの死後から、半年。

夏の暑さが過ぎ、季節は秋になろうとしていた。


「今年も暑かったな…。」

クロアケは食べ終えた夕食の皿を片付けながら、呟いた。


「そうだねぇ…。」

チェディーは考え事をしながら、天井を見つめていた。


不意に、扉を叩く音が聞こえた。


「クエラか?」

「いや、多分違うと思うよ。」


そんな会話をしながら、二人は扉の近くまで歩いた。

扉を開くと、そこにはアドペロが立っていた。


「やあ。緊急なんだけど。」

アドペロは尻尾を揺らし、言葉を続ける。


「…ちょっと、伝えたほうがいいかもしれないことが起きた。特に母さ…チェディーにとっては、大事なことだと思うから。」

アドペロはクロアケとチェディーを交互に見ながら話した。


「大事なこと…それって?」

チェディーは顔をしかめる。


「最近、境界の様子がおかしい。魔界から魔族が流れ込んできてる。」


「…理由は分かる?」


問われたアドペロは、恐怖で震える体を抑え込むようにして、下を向きながら語った。


「……ボクの予想だと、ハースティアっていう組織のせいだと思う。あいつらの中に、ボクをこんな姿にした研究者もいるし、リーダーは正気じゃないって噂がある…。境界の綻びが目立ってきた今、逃げ出すには絶好のチャンスだと思うんだ…。」


それを聞いたクロアケは、突然左目に激痛が走る。

「は、ハースティア…聞いたことがあるような…。」


チェディーはふらついたクロアケを支えながら、唇を噛み締めていた。

「…チェディー、そろそろ、戻らなきゃいけないかもしれない。」


クロアケは痛む左目に苦しみながらも、チェディーに問う。

「戻るって…魔界に行く方法は…あるのか?」


「ない。きっと、境界には何かしらの問題があって、たまに開くんだと思う。危険だから…クロアケは、ここで待ってて。」


チェディーの突き放したような言葉に、クロアケは怒りの表情を浮かべる。

「ふざけるな…お前がいない生活なんて考えられない。私も行く。」


チェディーが目を見開く。

「…クロアケ、冗談じゃ__」


「冗談じゃない。」

クロアケは、左目を包帯越しに撫でながら言った。


「何か、思い出したんだ。少しだけ。確信があるわけじゃない、でも…どうしても、否定できない違和感なんだ。」


チェディーの瞳が揺れる。クロアケは言葉を続けた。


「両親の行方も、何も分からないままだ。でも、境界の向こうにいけば…はっきりするんじゃないかって…。それに、ずっと思ってたんだ。“私の記憶はここじゃない”って。おかしいだろ、人界の思い出が何一つないなんて。」


クロアケはまっすぐにチェディーを見る。

「どんな手段を使っても、私は行く。私も行かなきゃいけないんだ。」


アドペロは尻尾を揺らしながら、チェディーを見た。

「どうするの?チェディー。」


沈黙が、三人の間に落ちた。


やがて、チェディーは力なく笑った。

「…頑固だなぁ、ほんと。いいよ、一緒に行こう。アケちゃん。」


チェディーはアドペロの方を向き、アドペロにも笑って言った。

「君も、その様子だとアルケイの薬を飲んでないでしょ。どうして?」


アドペロは拳を握りながら答えた。

「それは…まだ戻る覚悟がないんだ。兄さんが死んだのだって、まだ受け入れてないし。それに…。」


一呼吸置いて、言葉を続ける。

「…薬を飲むのは、全てが終わってからにしたいんだ。ボクも魔界に行くよ、ボクをこんな目にした奴らをぶっ飛ばしたい。連れてってよ。」


チェディーはクロアケとアドペロを抱きしめながら、言った。

「二人とも、大好き…。」


そして、一歩後ろに下がると、窓の外の街角を見た。

「…でもまずは、境界を開く“鍵”を探さなくちゃね。多分、アルケイが何か残してくれてる筈。リュクナに頼ってみようか。」


アドペロはそれを聞いてハッとする。

「ぼ、ボクもあそこに行くの…?」


チェディーの袖を掴む。それでも、チェディーは依然として視線を変えずに言った。

「アドペロ、外に出るってことは、そういうことだよ。大丈夫。怖くない。」


「…分かった。」


クロアケは外に向かって歩き出した。数歩歩いたところで、振り返った。

「それじゃ、リュクナにも協力してもらうか。仲間は多いほうがいい!」


微笑み。それは、記憶を失っているクロアケだからできること。魔界を知っている者からすれば、魔界に行くことがどれほど怖いことなのか、容易に分かる。


目的は魔界に向かい、異常の原因を探ること。

クロアケが森で目覚めてから、一年と半年経った頃の出来事だった。

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