第一話:黒緋色の目覚め
この作品は前々作ドロイトメライ、前作華を宿す君へ
と繋がっています。全て同じ世界で起こっている出来事なので、良ければそちらもご覧下さい。
森の奥深く。
幾重にも重なる木々の隙間、わずかに開けた場所で__
少女_クロアケは、静かに目を覚ました。
薄く差し込む朝の光が、右目だけに届いていた。
左目は何かに塞がれているように、何も映さない。
「…?」
状況を理解するより先に、意識がゆっくりと現実へ戻って来る。
「…あ、やっと起きた!」
クロアケの耳に届いたのは、明るい声。
声のする方へ目をやると、そこにはツノと翼を持った少女が、クロアケを覗き込むように立っていた。
「君、名前は?あ、チェディーはチェディーだよ、よろしくね!」
あまりにもあっさりと名乗られ、クロアケは、言葉を失ったまま瞬きをする。
ここはどこなのか。
何故自分は、こんな場所に倒れていたのか。
__思い出せない。
記憶の奥を探ろうとしても、指が空を掴むように、何も引き上げられなかった。
「おーい、聞こえてる?君の名前は?」
再び投げかけられた声に、クロアケはゆっくりと口を開く。
「…クロアケだ。」
「クロアケ!いい名前だね!」
赤紫色のツノと翼をもつその人物は、銀色の短髪と八重歯が印象的だ。腹部を晒す軽装は大胆だが、クロアケを見る視線は落ち着いていて、軽く見ていい存在ではない事を静かに告げている。
「お前、チェディーだったか…私は、いつからこんなところで寝ていたんだ?」
「うーんとね、三日前からかな?」
「…三日!?」
クロアケは思わず上体を起こす。髪から、乾いた落ち葉と土がはらはらと落ちた。
「チェディーはね、森の獣たちから君を守るの頑張ったんだよ。褒めてよ。」
そういってチェディーは頬を膨らませる。
「それよりさ、クロアケってオッドアイなんだね。珍しい!」
クロアケは立ち上がり、服についた落ち葉や土を払う。
クロアケの服装は、フード付きの赤黒い服に、黒い上着を羽織ったシンプルな服装。右目は自然な緑、左目は何も移さない黒色だ。
「そうだな…生まれつき…だったと思う。なんか、過去の記憶がほとんどなくて、覚えてないけど…。」
少しの沈黙。
やがてクロアケは、ぽつりと問いかけた。
「…なあ、私の他に誰かいなかったか?その…私の両親とか。どこにいるか、知っているか?」
チェディーは、一瞬だけ言葉に詰まったように見えた。
けれど、すぐに含みのある笑みを浮かべて言った。
「知らない!見てないよ。」
そしてくるりと背を向ける。
「その様子じゃ、家も分かんないでしょ。あっちの方にチェディーが住処にしている家があるんだ。家族が見つかるまででもいいからさ…一緒に住まない?」
「…まぁ、いいよ。他に選択肢も無さそうだしな。」
「やったぁ!憧れのシェアハウスってやつだ!善は急げ、行くよ!」
チェディーは、躊躇なくクロアケの手を引いた。
「ちょ、ちょっと待て…私、起きたばっかで、そんな走れない…!」
少女たちは森の中を駆け出した。
チェディーは楽しそうに、クロアケは不器用に走る。
…。
「…ついた!」
辿り着いたのは、街がかすかに見える場所。森の中に佇む、質素な煉瓦造りの家だった。クロアケは肩で息をしながら、建物を見上げる。
「ここがお前の家か…。てか、お前、足速すぎだろ…。」
「うーん、チェディー的には、君はもっと気にする場所があると思うんだけどな〜。ま、いいや、入ろう!」
チェディーが扉を開く。
二人は、一歩、家の中へと踏み出した。
それは__
世界が動き出す、最初の一歩だった。




