第十七話:成長と平和
街角魔法店は、年明けを過ぎても相変わらず静かだった。
大通りから外れたこの場所に、わざわざ足を運ぶ物好きはそう多くない。扉が開く音よりも、刻み時計の針が進む音のほうが、ずっとよく耳に入る。
早朝、リュクナは店の前の雪除けをしており、息を荒げている。
「…はぁ、僕に魔法が使えたら、楽に作業できるだろうな。ふう…。」
アルケイは魔法店の中で、日記を読み返していた。
思い出したことがあれば書き加え、また読み直す。
「ケホ…この日記、我ながらいい出来かも知れない…。」
「…ご主人、また魔導書ですか?」
外から戻ってきたリュクナは、防寒具を脱ぎながらアルケイに話しかける。
「いや、日記だよ…君の将来に役立つと思って。」
「なんで僕なんですか?それに、ご主人、今まで絶対に日記読ませてくれなかったじゃないですか。」
リュクナは防寒着を片付ける。少しの間の後、リュクナは笑って言った。
「あ、もしかして、やっと見せてくれる気になりました?ふふ。」
興味本位で日記を覗こうと、アルケイの元へ歩く。アルケイは慌てて、日記を本棚に戻した。
「今は駄目。今度ね…ケホッ…。」
「なんだ、結局見せてくれないじゃないですか。あと、風邪が長引きすぎですよ。ちゃんと寝ないから治らないんです。寝て下さい。」
そう言って店の奥へ歩みを進める。
「ごめんって…ケホッケホッ…。」
アルケイは喉を押さえながら、咳を殺そうと必死になっていた。
「…なんか、酷くなってませんか?本当に大丈夫です?」
店の奥で、薬草を混ぜた薬を用意しているリュクナは、アルケイに聞こえるように声を掛けた。
「大丈夫、空気が乾燥しているから、ちょっと負荷がかかってるだけだよ。」
「そうですか…やっぱり今日はもう店仕舞いしましょう。」
リュクナはアルケイに完成した薬を差し出すと、アルケイは受取り、飲み干した。
「錬金術、上手くなったね。この味ならちゃんと効果はあるよ。」
リュクナは柔らかく微笑んだ。
…。
一方、町外れの森の中。
煉瓦造りの家に住むクロアケ達は、年明けでも騒がしい毎日が送られていた。
朝食を食べ終わった頃、クロアケは無表情でチェディーに文句を言う。
「チェディー、プアルルが思いっきり私の指を噛んだんだよ、叱ってくれ。」
クロアケはプアルルに肉をあげようとして、うっかり指を噛まれたようだった。チェディーは窓の外の街並みの一角を眺めながら、クロアケに忠告する。
「それはアケちゃんが悪いよ…プアルルは人肉を食べるんだから、指があるだけ幸運に思ってね。」
クロアケはプアルルを抱きかかえ、チェディーの元へ歩く。
「なんでさっきから、窓の外を見てるんだ?」
「…ん、なんか、そろそろかなぁ…って。」
チェディーは考え事をしていた。
「何が?」
「…何でもないよ。ていうか、牛乳飲みたい!」
そう言うとチェディーは、座っていた椅子から勢いよく降りて、氷蔵箱まで駆け出した。氷蔵箱を開けたチェディーはがっかりする。
「残り三本だぁ〜…明日の分が足りない!」
「お前が飲み干した一日四本の乳瓶を、まとめてアルケイの所で処分してもらうの、失礼だと思わないのか。」
「…思うけど、まぁアルケイなら許してくれるでしょ。今日は気分じゃないし、明日買いに行こ!朝イチで!」
「はぁ、お前って、本当に自分勝手だな…痛ッ、こらプアルル、指を噛むな!」
クロアケは反射的にプアルルを壁に投げるが、弾力があるため跳ね返ってくる。
「プルッ!」
鳴き声を発しながらクロアケにぶつかる様子を見て、チェディーは笑った。
「あは、クロアケ、自業自得〜!あはは!」
「コイツ、まじでムカつく…!!」
平和が、ただそこにあった。
壊れる時は一瞬だということを、今は誰も意識していなかった。




