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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第二章
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第十五話:キメラ

その日の夜、クロアケはいつものように目を覚ます。

両親を探しに、自分の記憶を確かめに。


この日はもう一度自分が目覚めた場所、境界と呼ばれる付近に近づこうと考えていた。この付近は魔族が出るからと、チェディーに強く止められていたことを思い出したが、クロアケはそれを無視して森の奥へと歩みを進めた。


しばらく歩くと、小屋が見えてきた。いつかの日に見た、質素な小屋。


(あそこには、アドペロっていうアルケイの妹が住んでるんだったかな…。境界近くに住んでるってことは、私の両親のことも知ってるかも…。)


クロアケは質素な小屋の扉を叩く。その音に驚いたのか、物を落とす音や、水を溢すような音が続けて聞こえる。小屋の中から、慌てる声が響く。


「あっ、あわわ、水こぼしちゃった…あーあ、台無しだよ…。」


クロアケは既視感を覚えた。最初にアルケイと出会ったときも、こんな感じだったと思い出すと、この兄妹は似ていると感じ、少し笑いが込み上げてくる。


「ふふ…お前、面白いな。やっぱりアルケイに似てる。」


扉越しに声を掛けると、音はピタリと止んだ。やがて片付ける音が聞こえたかと思うと、扉が開いた。


「…ええと、クロアケ、だったっけ…チェディーから聞いてる…入っていいよ。」


「ああ、失礼する…。」


中に入ると、湿った土と油が混ざった、独特の匂いがこもっていた。

生乾きの布と、小皿に盛られた青や赤の粉が目を引く。

画家の部屋だとすぐに分かった。


「…絵を描くのが好きなんだってな、チェディーから聞いてるよ。」


「ふーん…アイツ、ボクのことほとんど知らないくせに…まぁ座りなよ、話があるから来たんでしょ?」


アドペロは背を向けて、尻尾の先で座る場所を指す。

そこには丸太を切っただけの、椅子と呼べないものが転がっていた。


クロアケは丸太を切っただけの椅子に腰掛け、他愛もない雑談から話し始めた。

「ここにはずっと一人で暮らしていたのか?」


アドペロは立ったまま、尻尾を揺らしてそっぽを向いている。

「…うん。こんな見た目じゃ、人間に怖がられちゃう。人のいるところじゃ、住めないよ。」


「お兄さんとは暮らさないのか?」


それを聞いて、アドペロは一瞬クロアケを見たが、すぐにそっぽを向いてしまった。

「兄さんとは…暮らせない。人間の助手と暮らしてるでしょ。きっと嫌われる。」


「そんな小さいのに、よく頑張れるな。」

クロアケは温かい目をした。


「…成長が止まってるだけ。兄さんとは双子だよ。」

アドペロは申し訳なさそうに答えた。


「えぇ!?でも、だって、見た目が子供過ぎるぞ…なんで成長が止まったんだ?それにデカい尻尾…明らかに魔族だ。アルケイと同じ獣人というには、見た目が離れすぎてると思うんだが…。」


「それにはちょっと…深い事情があって…まぁ、色々あったのさ、昔にね。」


「…最初に会ったときに逃げたのも、その事情のせいか?」


「そうだね、ボクを捕らえに来た…研究者かと思って…。」

その言葉の続きは喋らなかった。アドペロの心には、深い傷があるようだった。


「悪い。なんか、無神経なことを言ったみたいだな。」

クロアケは謝罪する。話を切り替えようと、本来聞きたかった情報を聞くことにした。


「…あの、私の両親を知らないか?探してるんだ。」


それを聞いて、アドペロは小さく、喉を引きつらせたような悲鳴を上げる。

「っひ…し、知らないよ…。」


「…?どうしてそんなに怯えているんだ?」

クロアケは立ち上がって、小さく丸まったアドペロの肩を叩く。アドペロは怯えながら、その手を軽くはらった。


「クロアケは、何も知らずに過ごしてるんでしょ…なんで思い出そうとするの?」


「そりゃあ、行方知れずの両親のことは、知りたいだろう。」


「じゃあ今、両親の顔は分かる?声は?雰囲気は?」

アドペロは袖の隙間から顔を覗かせ、クロアケに問い詰めるように聞いた。


「え…えっと、優しかった…?気がする…。」

クロアケは、自分が探しているはずの両親の記憶が、まったくないことに気づいた。初めてチェディーと出会った時は、かろうじて残っていたはずなのに、何も思い出せなくなっていた。


「そんな…半年と少し、過ぎただけだぞ…育ててくれた両親を忘れるなんて、おかしい…いや、ずっと一緒にいたかと言われれば、そうでもなかった気が…。」

クロアケは自分が何を知りたかったのか、分からなくなっていた。


アドペロは錯乱しているクロアケを見て、独り言のように言葉を零した。

「…人間の記憶なんて、そんな物。君の両親がろくでもない人間だったってことは、忘れたほうが良い。」


小屋の隙間から吹く夜風は、恐ろしいほど冷たかった。

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