第十四話:謎の人物
雪が積もり、辺り一面は銀に包まれていた。
積もった雪を踏みつけ、クロアケとチェディーは街へ向かう。日用品の買い足しを目的に、二人は街が落ち着く時間帯、夕方に魔法店へと向かった。クロアケは内に秘める疑問を抱えたまま、店に入る。アルケイとリュクナの声が、店内に響く。
「…だから、リュクナは心配性なんだよ。」
勘定台の机いっぱいに散らばったメモと魔導書、見慣れない石の欠片や薬瓶。それらに埋まるように伸びているアルケイの姿。それを見てリュクナは怒り口調で話す。
「昨日また徹夜したでしょう!こんなに散らかして…机の上の変色した瓶も、昨日捨てるよういいましたよね!?」
「もったいないじゃないか、まだどんな効果があるか試してないのに…。」
「捨てろって言った理由、覚えてます!?毒ガスが出るからですよ!僕の命が何個あっても足りません!」
クロアケはそんな師弟の会話を、申し訳なさそうに遮った。
「あの…来たんだが、今大丈夫か?」
リュクナは慌ててアルケイの机を片付け、恐ろしい速さで紅茶を用意した。
「お見苦しいところを失礼しました。本日はどのようなご要件で?」
「…相変わらず手際が良いな、リュクナは。」
クロアケは空いている椅子に座り、出された紅茶を飲み干す。チェディーが日用品を選んでいる中、クロアケは立ち上がって、アルケイの下へ歩き出した。リュクナは空気を読んで、店の奥へ作業をしに行った。
「ずっと聞きたかったこと、まとめて聞いてもいいか。」
アルケイは頬杖をつきながら、クロアケをまっすぐ見つめた。
「うん、いいよ。」
クロアケは椅子をアルケイの前に持ってきて、座って話し始めた。
「魔法って結局、何なんだ?この間、焚き葉を使った時に目眩がしたんだ。」
「それは、人によって魔力量が違うからだ。魔力は精神力と深く結びついていて、使いすぎると疲労を感じることがある…ちなみに魔族は大体多くの魔力を持っているから、簡単には魔力切れしないよ。」
「そうか…だから人間である私は魔力が少ないのか…。」
「そういうこと。少し前までは、魔法使いの村っていうのがあって、そこの人たちは日常的に魔法を使っていたんだけどね…リュクナの故郷のことさ。」
「じゃあ、リュクナは…。」
「いや?リュクナは魔法を使えない。魔力はあるけどね、才能の問題だよ。」
「結局は才能ってことか?」
「魔力と才能だね。この二つがないとまともな魔法は使えない。これは僕の憶測だが、君は才能だけはある方だ。」
それを聞いて、クロアケは一呼吸挟んで核心に迫る。
「…それって、私が境界近くに倒れていたことと関係あるか?そもそも私ってなんだ?」
アルケイは頬杖をつくのをやめ、一冊の本を手に取る。
「ええとね、確かこの日記にまとめてたかな…僕は物忘れが多くてね…。」
アルケイは本を何枚かめくると、あるページを眺めて読んだ。やがて本を閉じ、クロアケに伝えた。
「…境界と、君のことは少し教えてあげられるよ。君がここに来てから調べていたからね。」
本を机の端に置き、話を続ける。
「結論から言う。君は、謎の人物だ。」
「は…?」
クロアケは眉をひそめる。これまで何度も会い、話してきた。それを否定するかのような言葉に、クロアケは困惑する。
「いいかい、君は境界の近くで倒れていた。境界はガラスのように透き通っていて、門の形をしている。おそらく魔法で造られたものだ。閉じている形をしているが、所詮魔法で造られたもの。通り抜けられる可能性がある。」
「…つまり私は?」
クロアケは固唾を飲み込んだ。アルケイは真剣な目で語り続ける。
「君は境界を超えた先…魔界からやってきた可能性がある。ただ、君が人間だということ、そもそも境界は強力な魔法でできているから、普段はちゃんと門の役目を果たしているはずなんだ。魔界からやってきた可能性はゼロに等しい。だから、謎の人物なのさ。」
アルケイは少し息を吐いて、椅子にもたれかかる。
「…まぁでも、実は僕も魔界から出てきたんだ。チェディーもそう。本当に境界が魔法でできているかも分からない。境界は既に綻びが生まれているみたいだから、しばらくすれば、大体のことは分かるだろうけど…神秘的なものに触れているみたいで気が進まないんだ。」
語り終えたアルケイは大きく伸びをする。
「久々に真面目になった気がするよ、疲れたなぁ。」
クロアケは満足そうに微笑む。
「ありがとう、色んなことを知れた。チェディーは教えてくれなさそうだったからな。」
「チェディーが何だって?」
いつの間にかクロアケの背後にいたチェディーは、クロアケの肩を掴んで乗り出す。
「なんでもないよ。」
アルケイは笑顔を取り繕い、チェディーが持ってきた日用品の会計をし始めた。




