第十三話:くだらない話
アルノーは狩人のような目でクロアケを観察する。
それでもクロアケは、臆さず反論した。
「私は人間だ。よく見ろ、ツノも牙も生えていない。」
「本当だぁ…なんてね、ふふ。」
アルノーは嘲笑している。側に居たクエラがふくれっ面でアルノーを見ると、アルノーはそれに気づき表情を変え、曇りのない笑みでクロアケを見つめ直した。
「…まぁ、君のことはお嬢が信頼してるし、からかうのはもうやめておくよ。」
アルノーはクエラを丁寧に抱え、言葉を続ける。
「俺は立場上、お嬢に逆らえないんだ。教会の支援金は全部お嬢の家の人が払ってくれているからね。嫌われたらお終い、俺は即、路頭に迷ってしまう。」
「教会の神父というのも、大変なんだな。」
クロアケは苦笑した。
「…それなりに、ね。」
そう言い残して、アルノーはクエラを抱えたままグレンシック家に入る。まるで自分がずっとお世話をしていたという風に。クロアケはアルノーのお陰で不審者にならずにすんだことを幸運に思いながら、街を出た。
…。
クロアケが帰宅すると、チェディーは椅子に座って、灯し石を机の上で転がしていた。クロアケの姿を見たチェディーは、椅子から立ち上がり、クロアケの下へ走って行き、抱きついた。
「おかえりアケちゃん!心配したんだよぉ!」
「ちょっと、チェディー…苦しいって。」
夕食を食べ、眠りにつく。
クロアケは両親探しに夜中に出かけ、少しするとまた布団に戻る。
チェディーも時折、深夜に出かける。そんな毎日が続いた。
変わったことといえば、昼間の活動にクエラが乱入することだった。
…。
クエラの声が、家中に響く。
クロアケはまたか、という顔をし、チェディーも流石に呆れ顔をした。
扉を開けたのはクロアケ。クエラは声の主がどちらであろうと手を引き、家の前の開けた空間ではしゃぎ回る。夕方になる前にはクロアケがクエラを連れて街まで降り、家まで送り届ける。その度にアルノーが礼を言う。
クエラが家に尋ねてくることが、二人の日常に自然と溶け込んでいた。
そんなある日、クロアケとクエラは、落ち葉を蹴り上げながら笑っていた。
チェディーは少し離れた場所で、木にもたれてそれを眺めている。チェディーは上機嫌で尻尾を揺らしながら、胸の奥が暖かくなるのを感じていた。
「…大昔にも、こんなことあったっけな。」
誰に聞かせるでもなく、こぼれた声。そしてふと思い出したように呟いた。
「ねぇ、メニィ。私、貴方みたいになれてるかな。」
返事はない。
それでも、チェディーは微笑んでいた。
…。
いつしか葉が落ちきり、雪が降り始めた。
クロアケは暖炉に薪を焚べ、魔法店でチェディーが購入した焚き葉を使って、火をつけようとしていた。
「くっ…ふ…上手く火がつかない…。」
試行錯誤の末、やっとついた火を、急いで暖炉の薪に移す。
「…おっと。」
クロアケは突然、目眩を感じた。様子を見ていたチェディーは、氷蔵箱から牛乳を取り出し、蓋を開けながら話し始めた。
「アケちゃんは無理に魔力を使わなくていい。元々からっきしなんだから、無理に魔力を使おうとするとすぐ倒れちゃうよ。」
そう言うとチェディーは、牛乳を一口飲んだ。
「…じゃあ、誰が暖炉に火をつけるんだよ、お前はどうせ炭にするだろ?」
「そういうときのために…じゃーん。便利な魔界生物がいまーす!」
チェディーが床から抱きかかえたのは、薄紫色の謎生物。モチモチした肌に、赤い一つ目がギョロリとクロアケを見つめた。足はなく、短い二本の手が床を探るように動いている。
「さっきから歩いてたな…何なんだそいつ。」
「森の中で迷ってたから、拾った!」
「…で、そいつは何ができるんだ。」
「プアルルって名前ね。ええと、確か…そうだ!」
チェディーは飲みかけの牛乳をプアルルに少しかけると、短いツノが生えた。チェディーと同じ形と色をしている。
「主人の大切なものを対価に、主人の言うこと何でも聞くようになるの。魔界では人気のペットだよ〜。ほらプアルル、暖炉の火を強くして!」
チェディーがプアルルを床に戻すと、プアルルは床を這って暖炉の前まで移動した。そして、隠れていた口を大きく開けて、小さな火の玉を発射した。暖炉の火がちょうどよく燃え始める。プアルルは次の命令を待つように、チェディーの目を見ていた。
「プアルル、休んでいいよ。」
その言葉で、プアルルは暖炉の前でこてん、と転がり、休息を取った。
クロアケはその様子が面白おかしく思い、腹を抱えて笑い始めた。
「あっは、コイツ!命令されないとなんもできねぇのか!あっはっは!」
クロアケの笑いは、しばらく止まらなかった。




