第十二話:大通り
白く輝く花の側で、クエラとクロアケ、チェディーは、地面に座って談笑していた。
クロアケの左目は、まだ痛みと熱を発している。原因不明の違和感に、クロアケは苦しんでいた。チェディーはクエラに警戒を持ちながらも、人間の子供がクロアケに危害を加えているとは考えづらく、悶々としていた。クエラはただ、白く輝く花を時々愛でて、鈴のような声で笑っている。
チェディーはふと、クエラに訪ねた。
「さっきからその白い花を見てるけど、何か知ってるの?」
クエラは答えた。
「うん、前にね、ここで女神さまに会ったの。まじゅつ?で咲いてるんだって。この花はまぞくが嫌うから、街をずっと守ってくれるんだよって言ってた!」
周囲が澄んでいて、空気が美味しい。魔族が姿を現さないのは、この花が咲いているからだとチェディーは理解した。
「そう……。」
女神様、魔術。気になることは多かったが、クエラが全てを理解しているとは思えず。疑問を口に出すことはなかった。
クエラは突然立ち上がる。
「そうだ、あたしそろそろ帰らなきゃ!おうちのひとが探してるかも!」
それを聞いてクロアケも焦る。クロアケは白く輝く花についての知識はない。いつ魔族が出るかもわからない状況で、人間の子供がうろつくのは危険だと察した。
(やっぱりこいつ、無断で家から抜け出したんだ。森で迷子となれば…両親は心配するだろう。)
「…私達が送っていくよ。家まで。」
チェディーは勝手に巻き込まれたことに驚く。
「え!チェディーもついていかなきゃ駄目?」
「お前は私が心配なんだろ?ならついてこい。」
二人の会話を聞いたクエラは微笑む。
「おねえさんたち、仲良しなんだねぇ!ねぇ、名前は?」
「クロアケ。」
「…チェディーだよ!」
クロアケとクエラは手を繋いで歩き、チェディーは少し後ろを歩く。
クエラは森に落ちている小枝を拾っては振り回し、はしゃいでいた。
「まえに来たときはね、ここにすっごい大きな鳥いたよ!」
「あっちは夜に来たとき、光るきのこがあったんだよ!」
話を聞けば聞くほど、クエラは一人で森に来た回数が多いことが二人には分かった。楽しげに話し続けるクエラを見て、クロアケはぶっきらぼうな返事を繰り返すが、歩幅はそっとクエラに合わせている。
一方チェディーは、ふと足を止めた。
(…人の匂いがする。もうすぐ街だ。)
「アケちゃん、チェディーは先に帰ってるね。そろそろ牛乳飲みたくなってきたから!」
「は?おい待て、どんな理由だよそれ!」
クロアケはクエラの手を握りながら、翼を広げて飛んでいくチェディーを見る。
「まぞくって、すごいねぇ!」
クエラは飛んでいったチェディーを見て、ただ感心していた。
…。
いつもと違う道を通ったせいか、森を抜けるとすぐ、正規の道に出た。
クロアケがチェディーと共にいつも歩いていたのは、町外れの森から伸びる細い裏道。正規の道は広く、街の入口は既に人々の活気で満ちていた。大通りに出ると、荷車が行き交い、人々が歩いていた。広場には大きな刻み時計があり、針は十二刻を刺していた。
いつも訪れていた街角の静けさとは違う。
ここは、街が生きている場所だった。
クエラの案内通りに街の奥へと進むと、突き当りに石造りの階段が続いている。階段を一段上がるごとに、音が遠のいていく。すると、整った庭と立派な屋敷が見えてきた。隣には、教会があった。
クロアケは呆れ混じりに口を開く。
「お前、こんな豪華な家の子だったのか。」
クエラはクロアケから手を離し、庭を駆けながら言う。
「うん!でも、街のそとのほうが好き!」
しばらくすると、教会の方から神父服の男が現れた。クエラは神父服の男に駆け寄り、満面の笑みで抱きついた。
「アルノーさま!ただいま!」
アルノーは柔らかい笑みを浮かべる。
「おかえり。今日も森に行ってたの?危ないからやめたほうが良いって言ったよね?」
「だって、街はつまんないもん。それに今日は、クロアケもいるよ!」
クエラはクロアケを指差し、アルノーから離れる。
「なるほど。君が…お嬢を?」
「森の中で迷っててな。」
「迷ったんじゃないよ!探検してたの!」
クエラは否定するが、アルノーから軽く手刀され、落ち込む。
アルノーはクロアケを軽く観察すると、目を細めた。
「…君、変わった気配をしてるね。魔族みたいだ。」
「え…。」
アルノーの目に、光はなかった。
その目はまるで、獲物を見つけた狩人のようだった。




