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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第二章
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第十一話:浄化の花

クロアケがチェディーと出会ってから、半年が経とうとしていた。


「寒くなってきたらしいねぇ〜…。」

チェディーは窓の外から見える木々が紅葉しているのを眺めながら、そう言った。


「…なんで共感を求めるような聞き方なんだ?そんな見るからに寒そうな格好もするな、見てると余計に寒くなる。」

クロアケは温もりを求めて暖炉へ近づく。まだ火はついていなかった。


「強い魔族は薄着が主流なの〜。ていうかまだ暖炉は早いんじゃない?そんな寒がりだったの?」


「うるせー…じゃあ歩いてたら暖かくなるか…。」


「また両親探し?やめときなよ、魔族が出るぞぉ〜。」


「今目の前にいるけどな。」


二人はそんな他愛もない会話をしながら、笑いあった。

刻み時計が示す時刻は、十の刻。朝ごはんを食べ終えたクロアケは、やがて散歩を建前に、森へ両親探しに出かけた。チェディーは手を降って見送るが、クロアケが心配でこっそり後ろからついていくことにした。クロアケは気づくことなく、森の中を当てもなく進む。


太陽が真上にのぼり始めた頃。クロアケは一つの白く輝く花を見つけた。

突然、クロアケの左目に針で突かれたような痛みが走る。


「っ…なんだ、これ…。」


痛みに耐えようとして、思わずうずくまる。後ろからつけていたチェディーも異変に気づき、近寄ろうとするが、同時に木々の向こうから足音がしたのを聞いて、一度立ち止まった。


(誰かがアケちゃんに魔法を当てた…?いやでも、アケちゃんを狙うようなやつは居ないはず…。)

チェディーは思考を巡らせ、注意深くクロアケの周囲を観察していた。白く輝く花、それは魔族が本能的に恐れる花で、魔界には咲いていないことをチェディーは知っていた。


クロアケも足音が聞こえていた。

「…チェディーか?」


返事はない。

代わりに、ひょこっと紫髪の幼女の顔が覗いた。


「あ!だれ?きみ、森のひと?」

明るい声が森に響いた。太陽に照らされ、姿がはっきりと見える。


幼女の見た目は、上品に仕立てられた服に身を包み、片側の髪には、小さな花の飾りが留められていた。胸元には宗教的な首飾りが揺れ、体のあちこちに金の装飾品がさり気なくあしらわれていた。服に結ばれた長いリボンの先端は、フリルのように波打って、動くたび軽やかに揺れた。


明らかに、ここにいるはずのない種類の子供だった。


クロアケが目を細める。

(なんでこんな子供が森の中に…?)


「おい、危ないぞ。ここはお前みたいな子供が遊びに来る場所じゃない。」

立ち上がろうとした瞬間、また鋭い痛みがクロアケの左目を襲った。


「ぁ、ぐ…。」


幼女は首をかしげて、クロアケに近づいてくる。

その瞬間、枝に足を取られそうになり、バランスを崩す。


クロアケは反射的に、幼女を支えた。


「…だ、大丈夫か…?」


驚いた幼女が、包帯が巻かれたクロアケの左目を見て言った。

「だいじょうぶ!それより、きみ、すごく痛そう!ねえ名前教えて?うちで手当してあげるから!」


チェディーは無意識に体が動いた。それは、クロアケが連れ去られる予感を感じ取ったからかもしれない。足元の落ち葉がカサリと音を立てた。


(やばっ…!)

チェディーは咄嗟に声を出す。


「あ、あれ〜?アケちゃんどこ行っちゃったのかな〜?」


わざとらしい演技に、クロアケは鼻で笑いながら返事を返した。

「…お前、その声の上ずり方…ずっと見てただろ、悪趣味だな。」


「バレちゃったか〜!」


すると、クロアケに抱えられていた幼女が飛び上がる。

「きみ、つのある!しっぽも!すごい…にんげん?」


「…しまったなぁ、街娘に見られちゃったなぁ…しかもグレンシック家の子。こりゃ教会の神父の耳に入るだろうなぁ〜。」

チェディーは軽く頭をかく。本気で面倒くさい時に見せる仕草だということを、クロアケは知っていた。


「グレンシック家って…ヴラーシツの街で一番裕福な家の子で…教会と協力関係だっていうとこだったよな。ますますなんでこんな所にいるのか謎だぞ。」

クロアケは幼女の顔を見た。幼女はとぼけた顔をしていた。


「うーん、あたし、難しいことわかんない…でも、グレンシック家なのはそう!あたしの名前はね、クエラだよ!」


クエラと名乗った幼女は、立ち上がって服を整える動作を見せた後、チェディーの周りを歩きながら言葉を続ける。


「ねぇ、その見た目、まぞくだよね!まぞくってなに?」


「…おいチェディー、説明頼む。私もどう説明したらいいか分からん。」


「えぇ…。」


こうしてチェディーは、魔族とは何か、森が危険なこと、自分たちについてを語った。

クエラという幼女は、ただひたすら話を聞いていた。


白く輝く花が、風に揺られていた。

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