第十一話:浄化の花
クロアケがチェディーと出会ってから、半年が経とうとしていた。
「寒くなってきたらしいねぇ〜…。」
チェディーは窓の外から見える木々が紅葉しているのを眺めながら、そう言った。
「…なんで共感を求めるような聞き方なんだ?そんな見るからに寒そうな格好もするな、見てると余計に寒くなる。」
クロアケは温もりを求めて暖炉へ近づく。まだ火はついていなかった。
「強い魔族は薄着が主流なの〜。ていうかまだ暖炉は早いんじゃない?そんな寒がりだったの?」
「うるせー…じゃあ歩いてたら暖かくなるか…。」
「また両親探し?やめときなよ、魔族が出るぞぉ〜。」
「今目の前にいるけどな。」
二人はそんな他愛もない会話をしながら、笑いあった。
刻み時計が示す時刻は、十の刻。朝ごはんを食べ終えたクロアケは、やがて散歩を建前に、森へ両親探しに出かけた。チェディーは手を降って見送るが、クロアケが心配でこっそり後ろからついていくことにした。クロアケは気づくことなく、森の中を当てもなく進む。
太陽が真上にのぼり始めた頃。クロアケは一つの白く輝く花を見つけた。
突然、クロアケの左目に針で突かれたような痛みが走る。
「っ…なんだ、これ…。」
痛みに耐えようとして、思わずうずくまる。後ろからつけていたチェディーも異変に気づき、近寄ろうとするが、同時に木々の向こうから足音がしたのを聞いて、一度立ち止まった。
(誰かがアケちゃんに魔法を当てた…?いやでも、アケちゃんを狙うようなやつは居ないはず…。)
チェディーは思考を巡らせ、注意深くクロアケの周囲を観察していた。白く輝く花、それは魔族が本能的に恐れる花で、魔界には咲いていないことをチェディーは知っていた。
クロアケも足音が聞こえていた。
「…チェディーか?」
返事はない。
代わりに、ひょこっと紫髪の幼女の顔が覗いた。
「あ!だれ?きみ、森のひと?」
明るい声が森に響いた。太陽に照らされ、姿がはっきりと見える。
幼女の見た目は、上品に仕立てられた服に身を包み、片側の髪には、小さな花の飾りが留められていた。胸元には宗教的な首飾りが揺れ、体のあちこちに金の装飾品がさり気なくあしらわれていた。服に結ばれた長いリボンの先端は、フリルのように波打って、動くたび軽やかに揺れた。
明らかに、ここにいるはずのない種類の子供だった。
クロアケが目を細める。
(なんでこんな子供が森の中に…?)
「おい、危ないぞ。ここはお前みたいな子供が遊びに来る場所じゃない。」
立ち上がろうとした瞬間、また鋭い痛みがクロアケの左目を襲った。
「ぁ、ぐ…。」
幼女は首をかしげて、クロアケに近づいてくる。
その瞬間、枝に足を取られそうになり、バランスを崩す。
クロアケは反射的に、幼女を支えた。
「…だ、大丈夫か…?」
驚いた幼女が、包帯が巻かれたクロアケの左目を見て言った。
「だいじょうぶ!それより、きみ、すごく痛そう!ねえ名前教えて?うちで手当してあげるから!」
チェディーは無意識に体が動いた。それは、クロアケが連れ去られる予感を感じ取ったからかもしれない。足元の落ち葉がカサリと音を立てた。
(やばっ…!)
チェディーは咄嗟に声を出す。
「あ、あれ〜?アケちゃんどこ行っちゃったのかな〜?」
わざとらしい演技に、クロアケは鼻で笑いながら返事を返した。
「…お前、その声の上ずり方…ずっと見てただろ、悪趣味だな。」
「バレちゃったか〜!」
すると、クロアケに抱えられていた幼女が飛び上がる。
「きみ、つのある!しっぽも!すごい…にんげん?」
「…しまったなぁ、街娘に見られちゃったなぁ…しかもグレンシック家の子。こりゃ教会の神父の耳に入るだろうなぁ〜。」
チェディーは軽く頭をかく。本気で面倒くさい時に見せる仕草だということを、クロアケは知っていた。
「グレンシック家って…ヴラーシツの街で一番裕福な家の子で…教会と協力関係だっていうとこだったよな。ますますなんでこんな所にいるのか謎だぞ。」
クロアケは幼女の顔を見た。幼女はとぼけた顔をしていた。
「うーん、あたし、難しいことわかんない…でも、グレンシック家なのはそう!あたしの名前はね、クエラだよ!」
クエラと名乗った幼女は、立ち上がって服を整える動作を見せた後、チェディーの周りを歩きながら言葉を続ける。
「ねぇ、その見た目、まぞくだよね!まぞくってなに?」
「…おいチェディー、説明頼む。私もどう説明したらいいか分からん。」
「えぇ…。」
こうしてチェディーは、魔族とは何か、森が危険なこと、自分たちについてを語った。
クエラという幼女は、ただひたすら話を聞いていた。
白く輝く花が、風に揺られていた。




