表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第一章
10/47

第九話:肉食の魔族

何度か日が昇り、落ちた。夏が来る。

クロアケとチェディーは、共に魔法店へ行くことが増え、夜間の明かり用にと灯し石を購入したり、日用品を買い足すこともあった。支払いはいつもチェディーだった。クロアケが金銭はどこで調達しているのかとチェディーに聞くと、内緒、とはぐらかされた。


…。


ある夜、クロアケは悪夢にうなされ目が覚める。ヒヤリとした汗が噴き出し、息苦しい気持ちで目覚めたクロアケは、家にいることに安堵し、胸を撫で下ろす。


ふと、横を見る。チェディーがいない。クロアケはこれまで、深夜に目が覚めた時に、時々チェディーがいなくなっていることを疑問に思っていた。


「…アイツ、いつもどこに行ってんだよ。」


チェディーを探そうとして、扉を開ける。

夜の森は闇に包まれ、月明かりだけが唯一道を照らしてくれる。クロアケは、初めてチェディーと出会ったときのことを思い出していた。両親を探そうとして、結局恐怖で外に出られなかったこと。床の硬さに慣れていた気がしたこと。今は、布団の心地よさを知っている。

チェディーが居てくれることが、クロアケにとって心の支えとなっていた。


「探すか。」

クロアケは一人呟き、風が吹く夜の森に、足を踏み入れた。小枝を踏む音、土を踏む感触。クロアケはチェディーの名前を呼びながら、ただ歩く。


しかし、森の奥まで足を踏み入れても、チェディーは見つからなかった。


「こんな暗い中で、見つかるはずがないよな…。」

帰路につこうとした、その瞬間。


木々の奥から、カサ…と音が聞こえた。

クロアケが音のする方へ忍び歩くと、小さな影を見つけた。


月明かりに照らされ、姿が見える。

小さな影は少女の姿をしていた。体に対して少し大きい上着を羽織り、腕に画材一式を抱え込むようにして立っていた。まだ幼い顔立ちをしているのに、雰囲気は落ち着いていて、大人びていた。

目を引くのは、太く、長い青色の尻尾。


「おい、お前__」

クロアケが声をかけようとした瞬間、少女と目が合った。少女はクロアケを認識した途端、姿を隠すように走り出す。


「うわ、速っ…!」

慌てて追うが、すぐに見失った。追いかけた先には、ぽつりと建つ質素な小屋があった。近くには川。生活するには最低限の場所だった。


「誰だったんだろう…あの子…結局チェディーも見つからなかったし、帰るか。」


クロアケはそれ以上近づくことはしなかった。そのまま森を引き返し、帰路につく。近くに川があったおかげで、川を辿って家に辿り着くことができた。


…。


クロアケが家に戻ると、台所から水の流れる音が聞こえた。

「チェディーか?」


台所に転がる灯し石が、怪しげに光る。


チェディーは水桶の中に手を入れ、必死に手を洗っていた。流し口に、薄く赤い水が広がる。クロアケの足音に気づいたチェディーが、ビクリと肩を震わせた。


「…クロアケ?ど、どうしたの?出かけてたの…?夜の森は危ないから、寝てなきゃ…駄目だよ?」


いつもの明るい声とは違う。

調子を取り繕っているのが分かる。ひどく弱い声だった。


クロアケは黙って、チェディーの口元を見た。

血が、頬から流れて、流し口に落ちる。


「…人を、食ったのか?」


クロアケの短い言葉に、チェディーは一瞬息を止めたように見えた。


「…ごめん、怒るよね…でも、言えなくて…でもチェディーは、どうしても…人を食べなきゃいけない種族で…チェディーは…その…。」


どんどん小さくなる声。

チェディーは言い訳にもならない言葉を並べながら、目を伏せた。


「隠すつもりはなかった…ほんとに…クロアケが怖がると思って…嫌われると思って…。」

怯えと後悔がチェディーを襲う。声が震えていた。


しばらく沈黙が落ちる。


クロアケはただじっとチェディーの顔を見つめていたが、

やがて、ふっと肩の力を抜いた。


「…怪我してねぇなら、別にいい。」


チェディーは目を見開いた。


「え…?」


クロアケははにかみながら、言葉を続ける。

「喧嘩したとか、襲われたとか、そういうのじゃないんだろ?ならいいよ、お前が無事なら。」


「いや、その…怒らないの?」

チェディーは拍子抜けして、目をぱちくりさせる。


「怒る理由がない。」

クロアケは淡々と言い放つ。


「…怖くないの?」


「なんで怖がる必要があるんだ?お前、私を襲う気なんてないだろ。」


「それは…もちろん…。」


「じゃあ、問題ねぇよ。」

そのままクロアケは、寝室の方へ歩く。


「早く寝るぞ。まだ夜中だ。」


チェディーは呆然とし、その場に立ち尽くした。


台所の灯りが、チェディーの手を照らす。その手はまだ血に濡れていた。

水が落ちる音だけが、微かに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ