俺が“無敵”だと、なぜか世界がザワつく件
どうも、焼きそばパン信者の作者です。
今回はついに──“魔王軍幹部”とのニアミスバトル回!
おっとり(でも芯は強い)ヒロイン・セリスティアが本格参戦し、物語も少しずつ広がってきました。
あとカグラ、そろそろ「無敵」のやばさに気づいてもいいんじゃないかな……?(笑)
というわけで、ゆるっと楽しんでってください。
「おい、見たか!? 昨日の《実技試験》のログ……あれマジなのかよ?」
「マジだって! 王立魔術院の記録保管庫に、ちゃんと動画もアップされてた!」
──王都・西地区の広場。
そこでは、朝から屋台が並び、学生や冒険者たちが騒がしくしていた。
「属性全ダメージが“Not Found”? あのスキル、ホントに実在するんだな……」
「運営が確認中とか言ってたけど、あんなヤツ前例ねぇぞ」
「しかも本人は“焼きそばパン”にしか興味ないらしいぞ」
ざわつく広場。その中心──。
「おっ、今日は特製ソースだな! 焼きそばパン最高〜!」
カグラ・シノノメ、本人はまったくもって“無風”だった。
いつものように、屋台のベンチに座ってモグモグ中。
「……ふう。世界が平和だと、パンもうまいな」
世界は全然平和じゃなかった。
王国の上層部は《特別監視対象・カグラ・シノノメ》の扱いを巡って会議を重ねており、
魔王軍も「スカウト失敗か……次の手を」と密かに動き出していた。
にもかかわらず、本人は──。
「お代わりしようかな。今日のパン、マジで当たり」
──完全に、ただの“飯テロマン”である。
一方その頃──
王城の会議室では、年配の魔導士たちが顔を真っ赤にしていた。
「そもそも“Ver0.01β”って何だ!? 魔法じゃないぞあれは!」
「解析不能、干渉不能、観測不能の三拍子だ! 我々の面目丸潰れだぞ!」
「絶対に“王国の管理下”に置かねば……!」
そんな緊迫した議論の裏で──。
「うおお、屋台のおばちゃん特製“激辛バージョン”来た! これ絶対うまいやつ!」
カグラの胃袋は、今日も元気に稼働していた──。
「……って、あっちじゃん。逃げろ逃げろ〜!」
俺とセリスティアは、わけもわからず路地裏を爆走していた。
後ろからは「確保せよーっ!」って魔術院の連中がドタバタ追ってくる。
「なんで逃げてんだ俺たち!?」
「決まってるでしょ! 捕まったら実験体にされるよ!? あの人たち、名前が“研究班”なんだよ!? 絶対ヤバいやつ!!」
「おい、そこ伏線じゃねーだろな!?」
パンくず落としながら、ぐねぐね曲がった小道を抜けた。
城下町ってマジで迷路。何度目かの角を曲がったところで──
「うわっ」
俺の足元に、光るトラップが浮かび上がる。
警戒魔法か? 一瞬、赤いルーンが光ったかと思うと──
《システムエラー:対象に干渉できません》
「……今、なにかエラー出た?」
「なんか、“干渉できません”って……え? 魔法、発動しなかった?」
「……マジで? 魔法陣すらスルーしてるって、それ完全に“魔法の存在を否定してる”ってことじゃ……?」
え、俺のスキル、そんなヤバかったの?
炎とか雷とか防げるって話じゃなくて、魔法そのものが俺に反応しないみたいな……?
「ちょっと、カグラ……」
セリスティアが立ち止まる。真面目な顔だ。
俺もつられて足を止めると、彼女はじっと、俺の目を見る。
「あなた……本当に“人間”……だよね?」
「……は?」
まるで、そこにいるのが“人”じゃないみたいな。
そんな空気が一瞬、俺のまわりに立ちのぼった。
(いやいや、俺はただの焼きそばパン好きの高校生──ってことにしてた落ちこぼれだし!?)
「……ごめん、なんでもない」
セリスティアは笑ってごまかす。
だけどその言葉は、どこか胸の奥に残っていた。
──魔法が効かない。
──魔道具も無反応。
──そして、世界そのものが“違和感”を訴えてくるような感覚。
もしかして、俺は──この世界にとって、異物なのか?
そんなこと、考える暇もないまま──
「発見! そっちだ!!」
「くっそ、また来やがった!! てか追跡はえぇよ!!」
「ほら、急いで! ここ抜ければ、人混みに出るから!」
セリスティアに引っ張られて、また走り出す。
この世界の理屈とか、俺が何者かとか、正直よくわかんない。
でも──ひとつ言えるのは、
「焼きそばパン、落としたのが一番つらい」
ってことくらいだ。
「カグラ、あそこ! 行き止まり――!?」
突き当たり。
逃げ込んだのは、石造りの倉庫の裏手。出口、なし。
「囲めーッ!!」「対象は捕獲優先、魔法障壁を張れ!」
うわ、来た来た。
めっちゃフル装備の騎士団と、いかにもなローブの魔導士たちがぞろぞろと路地に入ってくる。
「はっはーん、もう逃げられないってことか……」
「く、くるよカグラ! 魔術師たちが詠唱を――!」
ドゴォォォォンッ!!
炸裂する雷。
吹き荒れる氷結。
空間が焼けるような、魔力の奔流──
「……で?」
煙の中から出てきた俺は、ちょっと服がパチパチしてたけど、
それだけ。
「うん、眠い」
「え、え、え、えええええええ!? なにその反応!? いま、王国騎士団の精鋭魔導師が束になって撃ってきたんだよ!?」
「そっか……それは大変だね……(あくび)」
「……っ! まだだ、やれ!」
次々と飛び交う魔法。
防御魔法、拘束魔法、精神干渉まで撃ってくるが──
《対象に効果なし》《対象に効果なし》《対象に効果なし》
「やべぇ……マジで全部通らねぇ……」
「これ、ただの人間じゃない……!」
「“災厄”……いや、“神性バグ”か!?」
なんか変な二つ名つけられた。
「……でさ、そろそろ帰って寝ていい?」
「いや無理でしょ!? 捕まったらヤバいってさっき言ったでしょ!?」
敵の誰かが震える声で言った。
「……これ、下手に関わっちゃいけない存在なんじゃ……?」
周囲が静まる。魔法の光が止まり、騎士団の動きも凍った。
俺、別に何もしてないけど。
ただここに立ってるだけなんだけど──
「よし、逃げるぞセリスティア!」
「どの口が言ってるの!?」
そしてまた、追われながらの逃走劇が始まった。
でも俺は思っていた。
(焼きそばパン、補充したいな……)
「ようやく──見つけたぞ」
その声は、頭上から降ってきた。
見上げると、建物の屋根に立つシルエット。
漆黒のローブに、漆黒の仮面。
ただ者じゃない雰囲気を、ビンビンにまとった人物がいた。
「え、だれ? あれ」
「知らないんかい!?」
その人物はふわりと飛び降り、無音で着地した。
「我は、魔王直属の精鋭部隊《終焉の牙》の一人──ラドリウス。
貴様が“例の逸脱者”……カグラ・シノノメか?」
「おお、なんか肩書きがつよそう」
「もうちょっと警戒してよ……!」
ラドリウスはゆっくりと歩み寄る。
「王国が騒いでいるのも道理。貴様の存在は、我らにとっても……規格外だ」
「え、そう? 俺ってそんな目立ってた?」
「むしろ存在そのものがバグだ」
「ちょっと待って! カグラは関係ないってさっきから──!」
セリスティアが前に出るが、ラドリウスは彼女に目もくれず続ける。
「一つ問おう。貴様の能力──“絶対無効(Ver0.01β)”は、いかなる条件で発動する?」
「いや俺にもよくわかんないけど、なんか……勝手に?」
「──つまり、無自覚のまま、世界のルールを壊しているわけか」
「うわ、なんか言い方怖いな……」
「当たり前だよ!? 世界のルール壊してるって言われてるんだよ!? もっと自覚して!!」
ラドリウスはふと空を見上げた。
「……どうやら時間がない。貴様の存在が、いずれ“神託”に触れることになるやもしれん」
「なんか意味深なこと言ったー!?」
そのとき──
「……じゃあ、私があんたの“保護者”になる!!」
「──いや、また言った!? 前にも言ったよね、それ!」
「う、うるさいっ! 二回目の方が……こう、重みがあるの!」
「重ねがけみたいなもんかよ……」
セリスティアがふくれっ面でカグラの前に立ちはだかり、腕を広げる。
対するラドリウスは、つまらなそうに鼻で笑った。
「王国の姫君とは思えぬ茶番だな。
──だが、それもいい。守りたいものがあるなら、なおさら“壊しがい”がある」
「やっぱ敵だわこの人!」
次の瞬間、ラドリウスの影が伸び、周囲の空間がざわりと揺れる。
だが──その攻撃は、セリスティアの展開した魔力障壁によって、寸前で拡散された。
「……ここは通さないよ。
私が“保護者”として、カグラを守るって決めたから──」
「いやマジで、なんでそんなにテンション高いの!?俺、屋台の焼きそばパン探してただけなんだけど!?」
笑いながらも、カグラはセリスティアの背中を見つめていた。
(……なんかすげー頼りになるな、この人)
ラドリウスの魔力が、空間を軋ませる。
セリスティアの結界がギリギリで受け止めてはいるものの、放たれる瘴気と衝撃波が、周囲の地面や壁を焼き崩していた。
「君を連れて行ければ、それでいい。魔王陛下がそう仰った。従え、カグラ」
「えーっと、無理。だって俺……」
カグラは屋台袋から、半分に折れた焼きそばパンを取り出した。
「まだ昼飯中だから」
「……舐めてんのか?」
「わりと本気で言ってる」
爆発的な魔力が放たれた。
ラドリウスの影の手が、空間を裂いてセリスティアへと伸びる。
「セリスティア!」
「大丈夫、私に任せて!」
彼女の髪がふわりと浮かび、周囲の空気が鮮やかな光に包まれた。
柔らかな金色の光が空間を浄化し、影の魔力を薄めていく。
──それは、王国に数人しかいない“聖域系統”の上位魔術。
「この子に手を出すなら──王国を敵に回すことになるよ」
「……なるほど。たしかに君は“姫”らしい」
ラドリウスは一歩下がり、帽子のつばを軽く下げた。
「今回は見逃そう。だがカグラ、いずれ“その力”が何を意味するか……知るときが来る」
彼の影は霧のように消え、数秒後には完全に姿を消していた。
「あー……行っちゃった。なんかごめんな」
「なにが?」
「俺のせいで、たぶん色々めんどくさいことに巻き込んでる」
「ううん、私は……楽しいよ」
セリスティアはふっと微笑んだ。
「カグラは“私を助けた人”。その恩返しをしてるだけ。
あとは……そうだな、“保護者”の使命?」
「なんか、照れるわ……」
そう言いながら、カグラは焼きそばパンをぱくりと食べた。
「──やっぱこの味が、最強なんよなあ」
──その時。
空間が、また“ゆらぎ”を見せた。
まるで目に見えない“何か”が、一瞬だけ世界の法則をひっくり返したかのような──
「……っ、今の、なに?」
「なんかまたバグったかも」
「この世界、壊れてない……?」
ふたりは顔を見合わせたまま、しばらく黙り込んだ。
読んでくれてありがとう!
第8話、いかがだったでしょうか?
セリスティアは“お姫様”だけど、カグラにとっては「馴れ馴れしい知り合い」くらいの距離感。
でもそのうち、このふたりの関係性がどんどん深くなる予定です。
あと、空間がゆらいだ“あれ”、ちゃんと伏線です。多分バグじゃない。多分。
次回は、ちょっとだけ“世界の謎”に触れていきます。お楽しみに!