“無敵”って、そんなにヤバいこと?
カグラくん、なんかとんでもないことになってきましたね。
「魔法効かない」にとどまらず、ついに“現実すらバグる”存在に……。
それでも彼はマイペースに、焼きそばパンを愛し、眠気と戦う日々です。
ゆる〜く読んで、にやっとしてもらえたら嬉しいです!
「──なあ、あの“無属性の落ちこぼれ”、見たか?」
「おうおう、見た見た。“全属性耐性ゼロ”とか言われてたくせに、今じゃ“全属性無効”で魔王軍に狙われてるんだってな」
「しかも王国の訓練場で、最高ランクの魔法を素で無効化したらしい」
「いやいや、バグだろバグ。運営呼べ運営」
──そんな噂話が、王都のそこら中で飛び交っていた。
まるで街中が“無敵の落ちこぼれ”こと、カグラ・ユウキの話題で持ちきり状態。
「マジで何者なんだあのヤツ……」
「いや、こわくね? 下手したら国家転覆レベルだぞ」
「ギルドも動いてるって噂だし、魔王軍だけじゃなくて、王国の上層部もマークしてるとか……」
……そう。
カグラは今、“特別監視対象”として王都中から注目を集めていた。
本人がまったく自覚していないところで。
──そして、当の本人。
「やっぱり焼きそばパンはここが一番うまいな」
王都の屋台通りで、のんきにパンを頬張っていた。
「ん〜、マヨネーズ多め最高……うわ、てかこの紅しょうがの感じ、マジで神だな」
ご機嫌でモグモグしているが──
その頭上では、王国情報局が発信する通達が魔法音声で流れていた。
《特別監視対象・カグラ・シノノメ──至急発見し、王立魔術院へ搬送せよ──》
「──って、え? 俺の名前……?」
さすがのカグラも、パン片手に振り返った。
通行人の視線が一斉に集まり、どよめきが広がる。
「おい、あいつじゃね……?」
「まさか本物……?」
「えっ、焼きそばパン食ってるのが……あの“全無効”……?」
──そんなわけで、王都の平穏は今日も平常運転でブチ壊れた。
「──カグラ・シノノメ、確保せよ!!」
「生け捕りでいい、ただし抵抗した場合は……!」
王立魔術院直属の治安部隊が、ドドドと屋台通りを駆け抜ける。
その中心にいたのは、いかにも「魔法研究しかしてません」って感じの、
ひょろ長いローブ姿の男──“王立魔術院・副長官”。
「これは極めて貴重なサンプルだ……絶対に逃すな!!」
一方その頃──
「いや〜、逃げてって言われたら逃げたくなるのが人情だよね?」
カグラは焼きそばパンを左手に、紙袋を右手に抱えながらダッシュしていた。
「ていうか、なんで俺追われてんの? さっきまで平和だったじゃん?」
「“全属性無効”が国家レベルのバグだって誰が決めたよ……俺、ただの焼きそばパン愛好家なんだけど?」
「──そこの人、乗って!」
唐突に声がかかり、カグラの前に止まったのは、豪華な装飾が施された馬車だった。
運転席から顔を覗かせたのは──
長い銀髪、蒼い瞳、どこか高貴な気配をまとった少女。
「だって“指名手配”されて逃げてるんでしょ? さすがに見過ごせないかなって」
「……え、だれ? なんでそんな馴れ馴れしいの? 知り合いだっけ?」
「知り合いになりたい人、ってことでよろしく。今乗らないと捕まるよ?」
あまりの展開に呆気にとられたまま──
気づけば、カグラは馬車に飛び乗っていた。
「……で、君、誰?」
「うーん、秘密。でも、あとでちゃんと教えるから。今は……“保護者希望者”ってことで」
ニッと笑ったその少女の笑顔は、どこか底知れないものを秘めていた。
逃げる。
ただそれだけなのに、なんでこんなにも騒がれてんだろう。
「カグラ様、あそこです! あの屋台の裏手に!」
「くそっ、また焼きそばパンか!」
いや、なんでそこまでバレてるんだよ。俺そんな“焼きそばパン依存症”みたいなイメージついてんのか?
走るカグラ。追う王国の兵士たち。──その後ろから、なぜか優雅に歩いてくる少女の姿。
「カグラくーん、待ってよ~。そんなに走ったらお腹減っちゃうよ~?」
「……誰!? ってか、なんでそんな余裕?」
ぴょこっと顔を出したのは、ついさっき知り合ったばかりの、セリスティアとかいう姫様っぽい人(でも本人は否定してた)。
やたら馴れ馴れしいし、やたら距離が近い。しかも、なんか俺の名前覚えてるし。
「カグラくんって、無敵なんでしょ?」
「いや、知らんし。そんな設定、俺聞いてないし」
2人で細い路地に入ったところで、背後から誰かが叫ぶ。
「やめろ! その者は王国の監視対象だ! 逃がすな!」
「って、やべえなコレ。ほんとにやばいやつだよな俺……」
逃げてる本人が一番困惑してるのもどうなんだ。
そんなカグラに、セリスティアはまっすぐ目を向けて言った。
「……ねぇ、あなた。ほんとうに“人間”なの?」
その目には、好奇心でも敵意でもなく──何かを確かめるような、深い“探る”色があった。
「は? いや、たぶん人間……だと思うけど?」
「たぶん、なんだ?」
逃げながら哲学始めるな俺たち。
だが、ふとカグラが振り返ると──
王国兵のひとりが、手にした魔導器をカグラに向けていた。
瞬間、装置がスパークする。
「っち……またか」
バチッ……!
魔導器がショートして、持ち主の手ごと吹っ飛んだ。
「また壊れた!? この男……魔法道具すら……!」
「魔力伝導系が全部“干渉不能”だ……接触した瞬間に、回路が空になる……!」
周囲の兵士たちが引き気味になる。
カグラ自身も、だんだん自分のスキルが“ただのチート”じゃないと気づき始めていた。
「いやほんと、俺なんなの……?」
王国からの追っ手たちが現れたのは、王都の路地裏だった。
重装備の騎士たちと、いかにもお偉いさん風の魔導士。そして彼らを率いるのは、魔術院直属の討伐部隊。
「カグラ・シノノメ。君を拘束する。王国法第七章、危険指定者に基づき──」
「え、また? もう俺、焼きそばパン食って帰って寝るつもりだったんだけど」
カグラは屋台の袋をぶら下げたまま、欠伸をかみ殺す。
「今度は誰の命令だよ? ていうか、俺なんかしたっけ?」
「君の存在自体が脅威だ。各地での魔力干渉、魔導器の誤作動、記録破損……君の“スキル”が原因である可能性が高い!」
「うーん……全部、心当たりあるような、ないような……」
そのとき──
「下がれ、王国の犬ども。彼は我らの“臨時職員”だ」
ずしん、と空気が揺れるような重い声が響いた。
路地の奥から現れたのは、漆黒の甲冑をまとった巨躯の男。
──魔王軍幹部、“黒剣のグラザム”。
その背後には、魔族の精鋭らしき部隊が続いている。
「な、なにィ!? 魔王軍の幹部だと!? なぜこの場所に!」
「臨時職員って……え、あれ? カグラさん、魔王軍関係者なんですか……?」
「えっ、あ、うん。いや、違う違う! バイト、バイトだよ! 週一!」
カグラは両手を振って否定(?)した。
「この前、張り紙見てさ。『初心者歓迎・日払いOK・死ななければ全額保証』ってあって──」
「バイト感覚で魔王軍入るな!!!」
場が一瞬沈黙したのち、全員が盛大にずっこけた。
「……カグラ・シノノメ。今すぐ我が軍に戻るのだ」
「いや、今週はもうシフト入ってないんだけど……あと、焼きそばパン冷めるし……」
完全にツッコミ待ちの返答だった。
「どうする!? このままでは王都で戦争になるぞ!」
「やめて! 王都に被害出すのだけはやめて! あと俺のパンも守って!」
このとき、“全属性無効の落ちこぼれ”は、王国と魔王軍の板挟みによって、
前代未聞の“パンを守る戦争”の火種となるのだった。
王都の路地裏──重々しい空気のなか、二つの勢力が睨み合っていた。
「おいグラザム、バイトって言っても、週一で草むしりしただけなんだけど?」
「ふむ。だが貴様には“魔王直々の雇用契約”が発行されている。我が軍の正規メンバー扱いだ」
「マジで!? あの魔王、ノリ軽くね!?」
「書類上、貴様は“特別戦力:絶対防御要員”として登録済みだ。報酬は時給換算で金貨十二枚」
「ちょっ、それバイトの域超えてるだろ!? え、これ本採用!?」
困惑するカグラをよそに、王国の使者たちはさらに動揺を深めていた。
「魔王軍に雇われた……? 正規戦力として……!? ふ、ふざけるなっ!」
「これは重大な裏切り行為に該当する! 王都に戻って尋問──」
「だーかーら! 俺、別に魔王軍とかどうでもいいんだけど!? 焼きそばパン食いたかっただけで!!」
そのとき、背後からひょっこりと現れた一人の少女がいた。
「──じゃあ、私が“保護者”になります♪」
ふわりと金髪をなびかせて登場したのは、一見おっとりした雰囲気の少女。
だがその瞳はまっすぐで、まるで何かを見透かすような光をたたえていた。
「あなた、カグラくんでしょ? これから大変になるから……私が“間に立つ人”になります」
「え、誰? てか保護者って何?」
「うふふ、なんでも屋さんみたいなものよ。外交とか仲裁とか、戦争回避とか、バイトのケアとか?」
「それ、重役すぎない……?」
王国と魔王軍の視線が、一斉に彼女に向く。
「ま、まさか……その制服……“アルマ家”の紋章だと……!?」
「アルマ……王家直属の血筋じゃないか……」
「姫殿下だと……!? なぜここに!?」
少女はぺこりとお辞儀した。
「セリスティア・アルマ=レーヴェです。平和的中立主義者です」
「軽いッ! 姫って名乗るときの重みどこいった!?」
混乱する王国陣営。
でもカグラはというと──
「うーん……中立って、パン食べながら寝れる感じ?」
「ええ、そうね。たぶんあなたにとっては、いちばん向いてる立場よ」
──この瞬間、“第三勢力”が誕生した。
カグラと姫、そして週一バイトの魔王軍──誰にも予想できない奇妙なトライアングルが、静かに動き始めた。
「中立、ってことで手を打とうか。王国にも魔王軍にも属さず、好きに生きるってことで」
セリスティアのその一言で、いったん場の空気は落ち着いた。
……のだが──
「はーい、じゃあ帰るねー。焼きそばパン冷める前に……」
カグラがふらりと歩き出した、その瞬間だった。
──ゴオォォォォ……
空気が揺れた。
大気が歪み、地面が微かに波打つ。
カグラの一歩ごとに、“世界の座標”がズレているような、そんな感覚。
「……これは、何だ?」
魔王軍の幹部グラザムが呟く。
「世界が……応答しきれていない……? いや、“彼”に合わせて調整してる……?」
王国側の魔導師が叫ぶ。
「次元観測、異常波形! 属性フィールドが連続崩壊してます!」
「空間座標、断続的に再構築……これ、“現実”が追いついてないんだ!!」
ざわつく中、カグラは特に何の変化もなく──
「ふあぁ……眠いなぁ……やっぱパンのあとって眠くなるよねぇ」
と、軽く伸びをしただけ。
だがその瞬間──
カグラの背後にあった石畳が、“無音”でひしゃげた。
物理的な損傷ではない。まるで存在そのものが“塗り直された”かのように、現実が更新されたのだ。
「やっぱ……カグラ・シノノメは……この世界のバグなんだ……」
誰かの呟きが、重く響く。
セリスティアは、それでも笑顔を崩さず言った。
「だいじょうぶ。この子は、ちゃんと人間よ。──多分ね?」
「多分!?」
──世界が軋む音が、ゆっくりと響いていた。
「んー……とりあえず、昼寝できる場所探そ」
カグラのその一言で、現場に再び“現実”が戻る。
だが──その背後。
誰もいないはずの空間が、じわりと“裂け”はじめていた。
──次回、第8話「王都の裏で、誰かが笑っていた」へつづく!
ついにヒロイン・セリスティアちゃんの正体もちょっとだけ明らかに!
でも、それ以上にヤバいのはカグラのスキルの“本質”……?
王国と魔王軍、両方から注目される彼の“正体”と“謎”はまだまだ深まるばかり。
次回もギャグと陰謀、テンプレとバグのハイブリッドでお届けします。
お楽しみに!