ポンコツ悪魔、召喚される
自分で自分を召喚し爆発するポンコツ悪魔・ルミナと遭遇。押しかけ眷属宣言から、なぜか旅の同行が決定。魔王軍スカウトや異能指定の噂が渦巻く中、カグラの周囲はさらに騒がしくなっていく。
「ふはははは! いよいよ我が封印が解かれし時……!」
どこかの地下遺跡、真っ赤に染まった魔方陣の中心で――
ひとりの少女(?)が、盛大に笑っていた。
「我は災厄の王にして、破滅の申し子! 名を――」
「はい、召喚終了っと」
ズガァァァァン!!
爆音と共に、魔方陣が謎のスパークを起こした。
「ぶひゃっ!? 熱っつ!? なにコレっ、ちょ、待って待って! 儀式中に爆発はダメってマニュアルに書いてたじゃん!!」
轟音の余韻と共に、甘ったるい硝煙と焦げ臭さが遺跡中に広がった。
黒い煙の中で、何かがバチバチと静電気をはじいている。
輪郭が見えた瞬間、角の先は煤で真っ黒、マントは端がちぎれ、髪は見事にチリチリ──まさに「爆発してきました」というビジュアルがそこにあった。
煙の中から出てきたのは、角の生えた、やたら元気な小柄な少女。
真っ赤なマントと中二病全開なポーズ。だけど──なんか、全部がチープ。
「……ていうか、なんで私が爆発するの!? 魔法、間違ってないはずなんだけど!?」
召喚された(自称)大悪魔の少女は、煙まみれで咳き込みながら、ぽすんと床に座り込んだ。
「うぅ……また、失敗……」
どうやら、自分で自分を召喚しようとしてミスったらしい。
「……これじゃあ、悪魔界に顔向けできないじゃんかぁ……」
そのとき、近くで屋台を探してさまよっていたカグラが、ふらっと通りがかる。
「……あれ? 爆発音? しかも、煙モクモク……あっちで何かやってんのか?」
ちょっと気になって遺跡に入ったカグラは、煙の中で咳き込みながらうずくまる“それっぽい少女”を見つける。
「お、おい大丈夫か……って、なにその格好。コスプレ?」
「誰がコスプレだあああ!!」
少女はガバッと立ち上がって、謎のマントを翻した。
「我は大悪魔ルミナ! 世界を滅ぼすために召喚されし、漆黒の災厄なり!」
「ふーん。で、煙まみれで床に座ってたのは世界滅ぼすため?」
「うぐっ……ち、違う! これは、アレだ。儀式の副反応で、ちょっと煙が……!」
──こうして、カグラはまた、ワケのわからん奴に出会ってしまったのであった。
(……こいつ、絶対放っといたらまたどっか爆発させる)
カグラの直感は、いつになく確かだった。
「てことでさ、カグラくん?」
「ん?」
「私の眷属にならない?」
「いきなり何言ってんの!?」
ルミナは「フフン」と胸を張って言い切った。
「そしたら、魔力の供給とか、生活費とか、あと食事の面倒とか、いろいろ君に任せられるじゃん?」
「お前それ、召喚とかじゃなくてヒモって言うんだぞ」
「失敬な! 私はちゃんと“主”として君を導く気まんまんだよ!」
「いや、爆発から始まった関係で“導く”とか無理あるだろ……」
(初対面でこの騒がしさ……ツッコミ担当の寿命、確実に縮むやつだ)
そして何より、この勢いのまま放っといたら二、三日は持たずにまた何か爆発させそうな未来が見える。
……それでも、カグラのなかで、少しだけ引っかかるものがあった。
(もしかして……こいつ、俺の“絶対無効”を見越して近づいてきたのか?)
(いや、さすがに違うか……ただのポンコツだった)
「ま、とりあえずさ! これから一緒に旅しようよ!」
「勝手に決めるなーッ!!」
叫びながらも、結局なんとなく同行を許してしまったカグラであった。
「よしっ! 今日から我らは“無敵とポンコツの最強コンビ”だね!」
「おいやめろ、ネーミングからしてフラグの匂いしかしねぇ……!」
空は青く、旅路は遠く。
新たなトラブル(悪魔)を仲間に加え、カグラの自由すぎる冒険が、また一歩、カオスに染まっていく──。
「……で、ルミナ。お前、一応確認なんだけどさ」
「うん?」
「さっきの爆発、マジで想定外だったの?」
「当たり前じゃん!? むしろ私が一番びっくりしてたよ! “え、なんで爆発したの私!?”って感じ!」
「自爆芸みたいに言うな!!」
カグラはため息をつきつつ、瓦礫と煙の中からルミナを引っ張り出した。
服はボロボロ、髪も若干チリチリ。だけど妙に元気。
「いやぁ、助かったよカグラくん。マジで救世主! 神! イケメン!」
「軽いなお前……」
そんなこんなでルミナはカグラにぴったりくっついたまま、王都の道を歩いていた。
「てか、ほんとにいいの? 君、魔王軍からスカウトされてたんでしょ?」
「ああ、あれ? 断ったよ」
「えぇぇ!? 断っちゃったの!? もったいな!」
「だって怪しいだろ。全身黒ずくめのやつが“直々のお誘い”って、どう見てもヤバい奴じゃん」
「まぁ……それは否定できないけども」
その後の道中、ルミナは通りすがりの猫に全力で威嚇され、パン屋の匂いに釣られて無断で裏口に入りかけ、近くの子供に「花火のお姉ちゃん」と呼ばれていた。
(……予想以上にポンコツ力が高いな、こいつ)とカグラは心の中でため息をついた。
一方、王都のどこか。
例の黒ローブの男は──
「……“適応外”が出たか。しかも“絶対無効(Ver0.01β)”……。これは想定以上だな」
不穏な空気と共に、何かが動き始めていた。
その夜。
宿に泊まったカグラとルミナは、それぞれのベッドに倒れ込んでいた。
「ふぅ~~~~っ……やっと一息だぁ」
「お前、あんな爆発起こしたくせにケロッとしてるよな……」
「だって、無事だったんだもん。細かいことは気にしな~い!」
「お前の“細かくないこと”の範囲が広すぎるんだよ……」
カグラはベッドに寝転びながら、ふと手のひらを見つめる。
(“絶対無効”か……)
たしかに最強っぽいスキルだが、カグラ自身には実感がない。
ただ「なんか効かなかったな」って程度。
「ねぇカグラくん」
「ん?」
「君のスキル……いつか“効かないもの”に効く相手と当たるかもね」
「……は?」
「なんとなく、そんな気がするんだ」
ルミナの言葉は、どこか予言めいていた。
翌朝。
「起きろカグラ! 今日の予定は!?」
「寝かせろォ!!」
「宿代ないから逃げなきゃだよ!」
「お前何してんだよ!!」
そんなこんなで今日も始まる逃走劇。
だがその頃、王都の北で──
黒いフードの一団が動き出していた。
同じ頃、王都の研究塔の最上階でも別の会議が始まっていた。
「“絶対無効”──王家の血脈すら干渉を拒まれる可能性がある」
「もし魔王軍より先に確保できなければ、均衡は崩れる」
その声は、魔族とは別の人間側の影が、静かに動き出した証だった。
「“絶対無効”……王の血にさえ干渉する存在かもしれぬ……」
「確保せよ。可能であれば、生け捕りでな」
彼らの影は、静かに、だが確実に迫っていた。
──次回、第5話「“えっ、魔王って週一で集会あるの?”(仮)」へつづく!
ルミナ、爆誕!
彼女は今後も出たり消えたり暴れたりします。カグラくんがどれだけ振り回されるのか、見守ってあげてください。
今回は“絶対無効”の裏でちょっとずつ世界がザワつき始めてます。
でも本人たちは完全にのんびり屋台モード。たぶん次回もそんな感じです(笑)
次回、「魔王って週一で会議するの!?」(仮)でお会いしましょう!