効かないんだが?全部
試験会場で炎・氷・雷──全属性攻撃を食らうも無傷のカグラ。ゴーレムすら勝手に爆発する始末に、観客も教官も混乱。そこへ現れた黒ローブの男が「魔王軍からの直々のスカウト」を告げ、場はさらにカオスに。
「カグラ、お前……無傷だぞ!? あんなの喰らって!!」
観客席の空気が一瞬で固まり、次の瞬間にはざわめきが爆ぜる。まるで“あり得ない”って単語がそこら中で反響していた。
騎士団長の怒声が、まだ戦場に響いていた。
さっき放たれた【超高熱・炎属性・全体攻撃】──あれは、この訓練場で出せる最高ランクの魔法。
それを真正面から喰らって……煙の中から出てきた俺は──
「ん? あっついな、これ」
服の裾がちょっと焦げてる。髪も……まぁパサついてる?
でも肌はつるっつる。ノーダメージ。
「え、あれ? 今の魔法……避けてなかったよな?」
「どころか、バフも防御魔法も使ってない……よな!?」
ざわざわする観客席。
見守ってた貴族の姫様たちのファンファンした目線が、一斉にこっちに向く。
「うおぉぉぉ! あいつ、なにあれ!? 魔法効いてねぇじゃん!!」
「バグだ! ステータスバグってるぞアレ! 管理者、運営呼んでこい!」
「いやこれ、逆に運営がバグじゃね!?」
なんかめちゃくちゃ騒がれてる。
俺、なにしたっけ?
【スキル:絶対無効(Ver0.01β)】
説明:あらゆる属性効果を受け付けない。
ただし、属性耐性がゼロの者にしか発動しない。
※このスキルは正式に検証されておらず、今後仕様変更される可能性があります。
※不具合報告は王国魔術管理局まで。
(いや、これやべーやつじゃね?)
「……おい見ろ、解析結界がエラーコードを吐いてるぞ」「コード……何?」観客の中から意味不明な悲鳴が飛んだ。
俺はただ、「属性全部効く体質とかマジかよ……」ってへこんでただけなんだけど。
気づけば、“どんな攻撃も効かないヤツ”にクラスチェンジしてたらしい。
「おい、誰だよあいつに“属性全部盛り魔法”撃ったの……」
「訓練用にしては強すぎだろ、常識ねーのか……」
「ていうか、あのスキル……王都でも報告例ゼロだぞ……マジで何者……?」
なんか周りの見る目が変わってきた。
俺はというと──
「……腹、減ったな。屋台まだやってるかな」
マイペースに、焼きそばパンを探しに行くのであった──。
いよいよ《適応試験》の実技が始まった。
生徒たちは順番に魔法を放ち、訓練用のゴーレムを撃破していく。
「つぎ、落ちこぼれカグラ! さっさと終わらせろよ~」
「どうせスカッと飛ばされて終わりだろ!」
冷やかしの声が飛ぶなか、カグラはぼんやりと前に出た。
気合も緊張感もゼロ。やる気があるようには見えない。
「……じゃあ、よろしくお願いしまーす」
現れたのは、三メートルを超える石の巨体・ゴーレム。
一般生徒なら苦戦するはずの相手だ。
だが──。
ゴーレムの拳が、カグラの顔面にクリーンヒットする。
「うおっ!? って、あれ? 全然痛くない……?」
ゴーレムは容赦なく連打を叩き込む。だがカグラは涼しい顔だ。
拳も、炎も、氷も、雷も──全部、なぜか無効化されている。
「ちょ、まっ……おかしいだろコレ!? 何発食らってもHPが減らないんだけど!?」
騒然とする会場。教官たちは目を見開き、隣の生徒たちは声を失う。
そのとき、背後のゴーレムが大きく跳ねた──
が、カグラの足元で勝手に爆発して沈黙した。
「……えーっと……勝った、のかな?」
ぽかんとするカグラ。
静まり返る試験場に、ひとりの教師がぽつりとつぶやく。
「まさか……“全属性無効”……!? そんなバカな……」
「カグラ・シノノメ。試験……合格だ」
そう言った教官の顔は、完全に引きつっていた。
無理もない。あれだけの攻撃を食らって、ノーダメージ。
しかも反撃もしてないのに、敵が勝手に爆散して沈黙したのだ。
「えっ、マジで? 俺、なんもしてないけど?」
「それが問題だ! ……いや、違う、いや、問題だ!!」
教官は頭を抱える。
どの属性にも適応していないはずのカグラが、
全属性を“無効化”してしまっている。
解析の魔導士たちは騒然としていた。
「ログ解析では、すべての属性ダメージが“Not Found”で返ってきてます!」
「こんな数値……前例がありません……」
「一体どういうことだ、彼は“何者”なんだ……!?」
カグラはと言えば、床にしゃがみこんで、
自分の腕をつねったりしていた。
「いやいや、これ夢だよな? どう考えてもバグってるって」
そのとき──
試験会場の奥、ひときわ重厚な扉が開いた。
「おい、カグラ・シノノメだな?」
現れたのは、黒いローブに身を包んだ謎の男。
その背後には、重装備の護衛兵たち。
「魔王軍から指名手配が来ている。君に“直々のお誘い”だ」
「……は?」
周囲がどよめいた。
カグラの運命が、いま──とんでもない方向に転がりはじめた。
──次回、第3話「魔王軍って、入るものなの?」(仮)へつづく!
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
“無敵すぎて逆に不安になる系主人公”のカグラくんですが、今回は初のバトルもあって、どんどんバグってきましたね(笑)
とはいえ、彼はまだまだ「自分がどれだけヤバい存在か」わかってません。
そして周囲の方がどんどん焦り出していく、そんな展開が続きます。
次回はもうちょっと世界観広がります。敵?仲間?裏設定?
次回もぜひお付き合いください!