落ちこぼれ、測定不能(バグ)になる
属性耐性ゼロで学院内最弱だったカグラ。測定器に触れた瞬間、表示されたのは【全属性無効】【干渉拒絶】──世界の理を無視するバグスキル!? 触った相手すら吹っ飛ばすチート能力を得た落ちこぼれに、国中がざわつき始める。
「──はい、次。カグラ=シノノメ」
この日、俺はただゼロを再確認するだけのはずだった──まさか全校がフリーズする日になるとは思ってなかった。
名前を呼ばれて、俺はしぶしぶ立ち上がった。
ざわつく教室。わざわざ誰かがため息ついてるのが聞こえた。
「うわ……またアイツかよ」
「どうせゼロだろ、ゼロ」
……ああ、知ってるよ。
何度測っても、俺の属性耐性はゼロ。火も水も雷も光も闇も、ぜーんぶ「適性ナシ」。
才能ないやつに発言権なんてないのが、この魔法学院の掟だ。
「カグラ=シノノメ、魔力量測定器に手を当てなさい」
試験官のおっさんの声も、どこか投げやりだった。
──ま、やるだけ無駄って思われてるんだろうな。
(……ったく、こんなもんで何がわかるんだか)
俺は測定器に手を置く。青白く光った球体が一瞬、脈動して──
「……は?」
次の瞬間、試験官の目が見開かれた。
周囲の空気が、ビリッと音を立てて震える。
測定器がガガガッと異音を鳴らしながら、赤や青や紫、ありとあらゆる色にフラッシュした。
「な、なんだこの反応は……!?」
「……おい、カグラ……お前……」
ざわつく教室。教師も、生徒も、唖然としていた。
そして、測定器の表示パネルに浮かび上がったのは──
《全属性:無効化》
《特異スキル:干渉拒絶》
「……バグだ」
誰かが呟いた。
「おい……測定器がログ出力拒否してるぞ!?」別の教師が悲鳴を上げた。
──そう、これは“スキル”ではない。“仕様外”。
全ての攻撃を拒絶する、チートを超えた──バグスキルだった。
《全属性:無効化》
《特異スキル:干渉拒絶》
──この文字列が意味することを、誰も理解できなかった。
「バ、バグじゃないのか!?」
「いや……これは公式認定スキル……だと!?まさか……!」
教師が震える声で確認してるけど、俺の脳内はもっとシンプルだった。
(……え? なにこれ? 俺、なんかやった?)
全く身に覚えがない。
気づいたら全属性に“耐性ゼロ”どころか、“全部効かない”やつになってた。
「おい! カグラ=シノノメ! 本当に何もしていないのか!? このスキルをどこで……!」
試験官が詰め寄ってきた。
「いや、マジで知らんって。てか俺、さっきまで寝てたし……」
「なんだと!?」
と、そこに教室の隅っこで腕組みしてた金ピカのエリート貴族様が立ち上がった。
「茶番だな。そんなスキル、認められるはずがない」
──こいつ、学年主席のジルド=フォン=グランツ。
常に上から目線の典型エリート様だ。
「ゼロ耐性の落ちこぼれが、最強スキル? 笑わせるなよ。どうせ測定器のバグだ」
「いや、測定器は王立直属の魔導工房製だぞ……」
「うるさい。俺が認めない。それで十分だ」
うわぁ、出たよ。
これぞテンプレの「気に入らないから排除する」パターン。
ジルドが、こちらに歩いてきて──バッと俺の襟を掴んだ。
「いいか、カグラ。お前は異物だ。この学院にいる資格はない」
──その瞬間、
「ぅおおおおおおいッ!!!」
ドゴォン!!
ジルドが俺に触れた瞬間、壁まで吹っ飛んだ。
「……な、何が……!?」
「は?」
俺、なにもしてない。マジで。
……いや、なにもできないはずだった。
でも、今のって──
(“干渉拒絶”が、反応した……?)
他人の魔力干渉、物理接触、ありとあらゆる影響を自動で弾いた……ってこと?
──つまり、俺に触れた瞬間に、物理的にも魔法的にも“干渉拒否”されたってことじゃね……?
「えー……てことは……俺……」
ポツリとつぶやく。
「この世界で、誰からの攻撃も効かない……?」
「って、そんなのありかよ!!!」
完全に“仕様外”の存在になっていた──落ちこぼれの俺が。
「……ちょ、ちょっと待て! 今の何だ!?」
「ジルド様が……壁にめり込んだぞ!?」
「いやいや、どう見ても触れただけだったよな!?」
教室がざわつく。誰もが目を疑う光景に、騒然となっていた。
一方で俺、カグラ=シノノメは──ぽけーっと突っ立ってた。
(お、落ち着け……これは夢だ。たぶん)
(いつもの昼寝の続き……今ごろ授業中で、先生に怒られて──)
「現実だぞ、カグラ」
肩に手を置いてきたのは、唯一俺とつるんでくれてるリリィ=ハートフィールド。
──ただし、お嬢様。
金髪ツインテ、テンプレヒロイン枠(※中身は脳筋)である。
「え、リリィ……お前、平然と触れてるけど。さっきの見た?」
「うん、見た! 最高にスカッとした!!」
「いやいやいや、爆発してたじゃんジルド」
「でも私、カグラのこと好きだし。だから干渉されなかったんじゃない?」
「え、どういう理屈?」
「たぶん、“敵意がない人には反応しない”とかじゃない?」
「うわ、都合よすぎる能力じゃね?」
──と、そのとき。
また例の教師が青い顔して戻ってきた。
「し、至急報告だ! 王都より“例の件”の通達が来た……!」
「“例の件”? なんだそりゃ?」
「“迷宮の最深部に、新たな瘴気の魔王が目覚めた”との報……!」
教室が凍りついた。
「国は、最強ランクの人材を急募している……!」
「該当者には、すぐさま特別任務が……!」
そして──教官の視線が、俺に向けられる。
「該当者……って、お、俺ぇ!?」
「異常スキル【干渉拒絶】所持者──お前しかおらん!」
「魔王の“全属性無効攻撃”に、対抗できるのはお前だけだ!」
「えええええええええええ!?!?」
──こうして、落ちこぼれだったはずの俺が、
“世界にただひとり、攻撃が一切効かない最強の対魔王戦力”として、戦場に放り出されることになった。
だがこの時の俺は、まだ知らない。
【干渉拒絶】が持つ、もうひとつのバグじみた効果を──
つづく。
お読みいただきありがとうございました!
最初からクライマックスなノリでお届けしましたが、今後も「無自覚チート×ツッコミ役×テンプレぶっ壊し」の流れで進めていきます!
主人公のカグラ君、まだまだバグスキルの本領はこれからです。
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次回もどうぞよろしくお願いします!