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ご褒美を設定して全力サポートしよう!

 それから丸二日、私達は王都で足止めを食った。理由はザインが、ホーンラビットの一件で完全にトラウマになったらしく、シャベルを構えるだけで手が震えるようになったため。

 これは無理に何かするのはやめた方が良いと判断して、私達は町の外を散歩して、いかにも何かしてきたように王都に戻るのを繰り返していた。

 まさかこんな場面で支度金の増額が活きるとは。人生何があるかわからないね!

「本当に、ごめん……こんなところで立ち止まってる場合じゃないのに」

 人生が終わったかのような顔で、ザインがぼそりと呟いた。

「全然いいよー。無理して身体とか心とか壊したら、それこそどうしようもないもん。ゆっくり進めばいいし、何なら進まなくたっていいんだよ?」

 その言葉が意外だったのか、ザインは少し目を丸くして私を見た。

「でも、勇者は魔王を倒すために存在してるんでしょ?君だって、その勇者を補佐するために……」

「うん、だから今補佐してるよ?でもね、少なくとも50人だよ?良くない?」

「ごめん、何が50人で、何が良いのかな?もうちょっとはっきり言ってもらえると……」

「勇者が50人。だからさ、一人ぐらいサボってたって……ううん、進行遅くたって良くない?」

 私の言葉に、ザインは真剣な顔で考え込んでしまった。

「……それは、ダメだよ。やっぱり、僕は勇者なんだ。勇者が、こんなところでもたもたしてるなんて……」

 あららぁ、これは重症。正義感と責任感が強いのは良い事なんだろうけど、こういうときは邪魔なだけだね。今ザインに必要なのは、休むことなのに。

 んー、どうしたら休んでくれるかな?むしろザインの希望に沿った方が良いのかな?だとしたら、何かご褒美でもあればマシになるかなあ?

 ご褒美と言えば、こんくらいの男子が好きなことって何だったかな?

 ポテト、から揚げ、特盛ごはん!これは絶対外さない自信がある!あとかつ丼もか!人によってはヒレカツ丼だけどね!豚骨ラーメンだって忘れちゃいけない!でもこれ今の状況には関係ないね!

 なら他には?他は……う、う~ん……あ、あんまりやりたくないなぁ……で、でも、試しにちょっと、試してみようかな、うん。

「んー、あのー、えっと、ザイン?」

「ん、どうしたの?」

 ザインはいつもの目で私をまっすぐに見つめてくれる。うう、なんか余計やり辛いなあ……でもやってみようって決めたし、うん、やってみよう。

「あ、あの、さ。じゃあ、ね?元々の目標だった、近くの町……そこまで行けたら……その、えっと……その……」

 うう、恥ずかしくてなかなか言えない。でも、ザインは何も言わないで私の言葉を待ってくれている。だったら、頑張って言うしかない!

「ほ、ほっぺにチューしてあげるっ!」

 ザッ!と音を立て、ザインは立ち上がった。そして荷物を持ち、シャベルを肩に担ぐ。

 その手は、もう震えてはいなかった。

「行こう、リィン!」

 颯爽と宿を出ていくザイン。その背中は、まさしく勇者に相応しい風格があった。

 この、エロガキめっ!!!


 まあ、やる気になってくれたのは良い事だ。休む必要もなくなったみたいだし、この勢いで隣町まで頑張ってみよう。

 ザインもすっかりやる気で、ホーンラビットに襲われたけど危なげなく防ぎ、蹴り上げ、今度は空中の相手をフルスイングで吹っ飛ばしていた。確かにそれならグロ映像は見なくて済むか。

「……手に、骨の砕ける感触が」

 いや、感触って敵もいたか。うーん、ザイン大丈夫かな?

「でも大丈夫だよリィン!早く隣町に行かなきゃね!」

 うん、元気なエロガキっぷりだ!将来が不安だね!

 これなら順調に隣り町に着くかと思ったけど、好事魔多し、なんて言葉があったっけね。

「うわああぁぁ!!!」

 ザインは今、ゴブリンの群れに追いかけられて全力疾走中。最初は一対一だったんだけど、見る間に仲間が増えて、今や三十対一。これは死にますわぁ。

「初心者名物、MOBトレインだね!追いつかれないように頑張って!」

「もぶって何のこと!?それよりどこまで逃げればいいのぉ!?」

 色々荷物を持ってるザインは、早くも息が上がり始めている。それに対し、武器とかしか持っていないゴブリンは身軽。両者の距離は、だんだんと縮まってきてしまっている。

 これはさすがにまずい状況。近くには擦り付けられる兵士とか冒険者とかもいない。自分で何とかするしかないけど、もう自分では何ともできない状況。

 本来ならば、完全な詰み。だけど、ザインは勇者で、私はサポート妖精。こんなところでザインが死ぬなんて、絶対に許容できない。

「ザイン、少し左に曲がりながら走って!そうそう、良い感じ!出来るだけ相手を一まとめにする感じで!」

「そ、それでっ……どうにかっ……なるのっ!?」

「大丈夫、私を信じて!」

 私はザインとゴブリン達の動きを見て、その後の動きを予測する。

 動き、よし。速度、よし。予測、よし。中間地点に移動……よし!

 ザインが私の脇を走り抜け、ゴブリン達がそれを追いかけるところで、私はいきなり姿を現した。

「ギィ!?」

 突然現れた私に驚き、ゴブリン達の動きが鈍る。その一瞬を逃さない。

 全力で羽ばたき、ゴブリン達の間を縫うように飛び抜ける。そしてゴブリン達の後ろに出ると、私は左手を上げ、親指と中指の腹を合わせた。

「初級魔法、エアカッターの変形、リィン流魔法術、『風刃 かまいたち』……!」

 合わせた指に力を入れ、決め台詞と共に指をパチンと鳴らす。

(ざん)!」

 同時に、ゴブリン達の首から血が噴き上がり、ゴブリン達はバタバタと倒れていく。最後の一匹まで倒れてから、私は残心を解き、ザインの元へ飛んでいった。

「よぉし、何とかなったよ!これで安心だね!」

 ザインは、それはもう目を真ん丸にして、倒れた30匹のゴブリンと私を交互に見つめている。

「な、なっ……何、今の!?ていうかリィン、戦えるの!?」

「何を今更。そりゃあ私はサポート妖精なんだから、勇者様を守る程度には戦えるよ」

「いやいやいやいや!それどころじゃないよねこれ!?しかもエアカッターの変形とか言ってたよね!?魔法を変形させるとか前代未聞だし初級魔法が中級魔法並の範囲と威力になってることの説明をお願いするよ僕は!?」

 すごいな、今のワンブレスで言い切ってた。突っ込みにもキレがあるし、ザインは疲れた方が実力発揮できるのかも?

「大したことじゃないよ。エアカッターは大体射程5メートルでしょ?てことは、風の刃が5メートル分進めるってこと。ここまではいい?」

「う、うん、一応」

「で、風の刃ってのは何かっていうと、風なのね」

「う、うん?」

「要は局地的な突風。たとえばザインのちょっともちっとしたほっぺたに、すんごい風が当たったとするよ?そのほっぺたが凹むより速く風が吹いたら、どうなる?」

「え、えっと……凹む?」

 直後、私はザインの胸ぐらを掴んでいた。

「凹むより速いっつっただるぉうがぁ!?話聞いてんのかぁ!?」

「き、聞いてるよ!?てかそこ怒るところ!?えっと、じゃあ、斬れる!?」

 正解が出たので、ぽいっとザインを投げ捨てる。

「そういうこと。で、普通のエアカッターは厚さが~……5ミリくらいかな?なんだけど、私のあれはもっと刃を薄くしてるの」

 若干理解の範疇を超えてきてるような顔をしてるけど、私は説明を続ける。

「さらに、発動場所を私が通った後に限定。射程は左右20センチ程度の極至近距離。そうすることによって見かけ上の射程と範囲を拡大して、威力も底上げしてるってわけ」

「ご、ごめん……あんまりよくわかんないんだけど、つまり風の刃の形を変えて、射程と威力を伸ばしてるってこと?」

「……ま、それで大体正解。今はそんなもんでいいよ」

 わっかんねえかなあ!?と最初は思ったんだけど、よく考えたらザインは学校なんて行ってないし、そもそもまともな教育すら受けてはいない。なのに、ここまで理解できるっていうのは、実は結構すごい奴なのかもしれない。

「なんか……僕じゃなくて、リィンが勇者になればいいのに……」

 ああっ、我が勇者様がお拗ねになられた!これは一大事!

「あ、それは無理無理。私、ザインからあんまり離れられないみたいで、別の町とか行けないんだよね」

「じゃあ僕がサポートするから、リィンが戦えばいいじゃない……」

「……まあ……それでもいいけど……隣町に着いたご褒美、なくなっちゃうけどいい?」

 ザインは遥か先を見据え、改めて荷物を担ぎ直した。

「行こう、リィン!僕は勇者なんだから、頑張らなくっちゃね!」

 うんうん、やっぱりこれって有効なんだなあ。これだけやる気出してくれて、お姉さんは嬉しいぞ。

 この、エロガキめっっっ!!!!

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