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支度金を増額しよう!

「みな、不安に思ったことだろう。しかし、安心するが良い。その妖精達は、神に遣わされし従僕。人間など比較にならぬ、小さき賢者なのだ」

 状況が落ち着いたところで、王様が言った。てか『不安に思ったことだろう』って私のことだよね?いたいけな妖精の心の傷を抉りやがって、白目に睫毛ぶち込むぞ。時間差で痛くなってもらうぞ。

「まずは自身の妖精と話し、助言を得るがよい。そして、各々力をつけ、魔王との戦いに赴くのだ」

 そして、王様は支度金として銀貨5枚をくれることになった。結構大きな額に聞こえるけど、これで武具を整えるとなると大したものは買えない。

 具体的には、いわゆる普通の鉄剣が銀貨2枚くらい。青銅で良ければ銀貨1枚からあるけど。で、問題は防具で、しっかりした鎧なんか革製でも銀貨4枚かかったりする。盾はピンキリ、兜は銀貨1枚くらい。

 つまりこれでやりくりすると、ちょっと質の悪い剣、全身は覆えない鎧、小さい盾、丈夫な帽子程度の装備で旅立たされることになる。

 うん、盾と兜が買える分普通のRPGよりかは良心的だけど、魔王討伐に行って来いっつってこれはひどくないかな!?しかも今のは装備のことだけで、食料とか鞄とかそういった物まで含めるとさらにすごいことになる。

「はいはいはーい!王様王様!お願いがありまーす!」

 他の勇者達がほとんどはけたのを見てから、私は声を上げた。

「む、裸の妖精か。どうしたのじゃ?」

 呼び名ぁ!!!!

 いや、今はそんなこといいか。それよりよっぽど大切な……いや、私の尊厳よりは大切じゃないかな?うん、そうだな。どうでもいい用事がある。

「支度金の増額をお願いしまーす!」

 私が言うと、兵士の何人かがピクッと動いたけど、王様が手を上げてそれを止めた。

「それは難しいな。一人につき銀貨は5枚と決まっておる故」

「でもでも、うちの勇者はこの前まで田舎町で遊んでただけの、大人の仲間入りしたばっかりのほぼ子供ですよ?その子供に、棍棒、革の腹当て、バックラー、革の鉢巻程度の装備だけさせて放り出すのは、ちょっと酷すぎません?」

 こいつ、意外と物価知ってるんだな、みたいな目で見られた。そりゃあ知ってるよ、何たって15年間色々リサーチしたからね!

「ふむ、そなたの懸念はもっともだ。しかし、変えられん」

「なんでですか?何人か死んでも代わりがいるからですか?」

「ちょ、ちょっと君っ……!」

 兵士がピクピクっと動いて、ザインは私を止めようとするけど、ここは止まるわけにはいかない。

「ふぅむ……あまり言いたくはないのだがな、思ったより人数が多かったのだ。平たく言えば、金の問題だ」

「金は、勇者の命より重いッッッ……これがっ……現実ッッッ……!」

「そうとまでは言っておらん。お主、一を聞いて十を捏造するタイプだな」

 なんかひどい事言われてる気がする。まあ、尊厳には関わって来ないからいいか。

「我々が支援してやれる金額は、そこが限界という事だ。一人金貨1枚などと言ってみよ、この時点で金貨50枚、そなたらの家族に金貨合計5000枚、既に国家予算を上回りかけておる」

「うん、それはわかってます。だ・か・ら」

 私は王様の目の前まで飛んで行って、パチンとウィンクをした。

「うちの勇者にだけ、増額お願いしまっす!」

「本当にいい性格しておるの、お主」

 幸い、王様は怒るようなことはなかった。よかった、色仕掛けが少し効いてたのかも。

「それはさすがに不公平になる故、聞けない話だ」

「公平なんてこの世にはありませんよ?勇者は勇者、王様は王様、うだつの上がらない兵士はうだつの上がらない兵士。生まれだけで、人生勝ち組か負け組か決まっちゃってますよね?」

 何だか兵士の皆さんが武器を構えようとしてる。何だろ、うちの勇者ちゃんが止めてくれてるけど、ストレス溜まってるのかな?

「うちの勇者は、はっきりと『能力はパッとしない』って言われてますし、その分装備で補ってもよくないですか?」

「他の勇者の支援をするという手もある。能力がパッとしないのならば、それ相応のやり方があろう?」

 王様、ちょっと商人みたいな目になってる。そりゃそうか、国同士のやり取りでも『うちに特産品くださいよー、水やるから』『水なんかいらねえ、それよりてめえの鉄鉱石寄越せ』みたいなのあるだろうし、意外と手強いかも。

「じゃあやっぱり、代わりの勇者いっぱいいるから説採用?」

「採用するでない。無理なものは無理だ」

「どうしても?」

「どうしてもだ」

「あのこと、バラしちゃってもいいの?国民から失望されちゃいますよ?」

 私が言うと、王様の眼がスッと細くなった。これは……必要とあらば自分以外の手が汚れることも厭わない、為政者の目!

「一体何の話だ?」

「それを言ったら、この場にいるみんなが知っちゃいますよ?いいんですか?言っても?」

「本当に言えるのならば、だがな」

「別に良いですけど~……最後は一昨日だったかな?ほんとにいいのかな~?」

「……」

 なんか、向こうの方でザインが兵士に組み伏せられてる。早速特訓かあ、感心感心。

 私と王様は、まっすぐに見つめ合う。めっちゃ真剣な顔。やばい、ちょっと笑いそう。そういえば私、にらめっこ弱いんだった。まずい、まだダメ、まだ笑っちゃダメ……!

 本当に限界ギリギリで、王様がふっと笑って目を逸らした。よっしゃ、私の勝ちだ!

「額は?」

「金貨300枚?」

「この者達の首を刎ねよ」

「さすがに冗談です!とりあえず倍額あれば、結構色々揃えられるんで、銀貨10枚でお願いします!」

「これだけやっておいて、何ともつましい増額だな。しかし、それなら構わん。持って行け」

 そう言って、王様は懐から銀貨を出してくれた。これってまさか王族ポケットマネー?やばい、貴重品かも。

「ありがとーございます!これで勇者の装備を整えられます!」

 満面の営業スマイルを向けると、王様は脇を兵士にガッチガチに固められたザインに視線を向けた。

「……お主の妖精は、本当に変わっておるな。しかし、なればこそ、そなた達には期待する――少なくとも、増額した甲斐があったと思えるくらいには、活躍してほしいものだ」

 ザインはなぜか顔を真っ青にしながら、コクコクと赤べこのように頷いている。この世界って赤べこあったっけな?なかった気がするけど。

 それから、私達はお城を出た。今日はもう遅いから宿を取ってあるということで、その宿屋に向かって歩き出す。何だかザインはもう疲れ切った感じだけど、思ったより体力ないのかな?

「……ねえ、君」

「およ?なぁにー?」

 急に話しかけられ、私はザインの前に飛んでいった。ザインは何とも言えない表情で、私のことを見ている。

「ちょっとさ、どうしてもやりたい……というか、しなきゃいけないことがあるんだけど、いい?」

「立ちション?」

「……ちょっと後ろ向いてもらえる?」

 あー、これは立ちションですわ。これはしょうがない。お姉さん大人だから、見て見ぬふりしてあげなきゃ。

 と、思った瞬間だった。

 スパァン!と凄まじい音がして、お尻にとんでもない衝撃と痛みが走った。手足と羽が全部突っ張って、思わず墜落するぐらいの衝撃だった。

 そのまま地面に激突するかと思ったけど、ザインはすぐに手を出してくれて、私はその上に落ちた。

 暴力を振るった直後に優しくする……これぞDVの真髄!

「な、何するの――!」

「何考えてるんだよ!?」

 抗議の声を上げようとした瞬間、ザインは私の目を真っ直ぐに見ながら叱りつけてきた。

「国王様を脅すとか、挑発するとか、死んでもおかしくなかったんだよ!?僕のために何かしてくれようとするのは嬉しいけど、危ない事はしちゃダメだ!」

 私は反論しようとして、でも何も言えることはなくて、ただ酸欠の金魚みたいに口をパクパクすることしかできなかった。あとお尻めっちゃ痛くて言葉出なかったし。

「君は僕のことを優先するように神様から言われてるのかもしれないけど、自分のことを粗末にしちゃダメだ!いい!?ああいうことは二度としないで!」

「……わかった」

 それ以外の返事はできなかったし、私はそう答えるしかなかった。すると、ザインは私の頭をぽんぽんしてくれた。

「でも、正直ありがたかったよ。おかげで、色々買い揃えられそうだしさ」

「だったら、お尻叩く必要ないじゃないのよぉ……ていうか、なんでお尻?」

「え?だって、頭とか叩いたら死んじゃいそうだし、お腹とかも危なそうだし、そうなるとお尻以外なくない?」

「くるぶしとか」

「狙って叩くの難しくない?」

「足の裏は?」

「余計叩き辛くない?ていうか足に恨みでもあるの?」

「最悪、無くても問題ないかなって」

「大有りだよ?普通は足無くなったらすごく問題あるからね?」

 なるほどなるほど。お尻叩きにも合理的な理由があったのか。

「うーん……そっかあ。てことは、親が子供のお尻叩くのも性欲関係なくて、叩くのにちょうどいいからなのかぁ」

「ちょっと待ってなんで性欲が出てくるの?」

「え?だって娘のお尻叩く父親とか、幼女のお尻を触れるってことと、叩かれて泣く娘の姿を見て興奮してるんだと思ってたし」

「君の家族観歪み過ぎじゃない!?もうちょっと両親を信用してあげようよ!?」

 こうして、私とザインはほんのちょっとだけ仲良くなり、わいわい話しながら宿屋へと向かうのだった。

 しかし、この時私は知らなかった。

 この先、私のお尻は何度も何度も、ザインに引っ叩かれることになるということを。

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