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強敵を仕留めよう!

 ぽっちゃり勇者ことアルディオは、とんでもない力で楽々と洞窟内を進んでいく。

 ケイブベア、ロックタートル、ビッグモールと、色々な力自慢や硬さ自慢が出てきたけど、全て問題なく粉砕して進んでいく。

 ザインはほとんどやることがないレベルだったけど、それでも魔法で牽制を入れたり、近づかれればシャベルで応戦したりとやれることをやっている。

 正直、これザイン要る?と思いもしたけど(そしてザインも思ってるっぽかったけど)、アルディオは意外なことにザインを高く買っていた。

「いやあ、いいね。ザイン、良い動きしてるよ」

「え!?そ、そう?僕、全然役に立ててない気がするんだけど……」

「まず、俺の邪魔を一切しない。でも牽制してほしい時はやってくれる。完全後衛かと思えば、襲われても勝手に対処してる。仲間としては最高だと思うよ」

「そ、そうかな?なら、まあ、いいんだけど」

 まあ確かに。MMOで言えば、アルディオは純タンカー……でもないなこりゃ。タンカー兼アタッカー?いや、重アタッカーか。で、ザインは中衛だ。前衛、後衛どちらの動きもできるから、少人数であればあるほど、ザインの価値は高まる。

 それに、ザインは意外と独自の嗅覚を持っていて、やばそうな相手や動きにはきっちり注意を払っている。そいつが何かしようとすると、無詠唱の魔法で牽制するので、アルディオは本当にのびのび戦えている。

 今回、私は照明係という重要な役割を担っているから、ザインにはぜひ頑張ってほしいね!

 そして、私達は危なげなく最奥にたどり着いたけど、そこにいたのは想像よりやばそうな相手だった。

「……でかくね?」

「お、大きいね。強そう」

 迷宮の主、ミノタウロス。もっともこの世界だと迷宮にいるわけじゃなくて、どっちかっていうと牛頭馬頭(ごずめず)の牛頭、要はプチレア敵みたいな扱いだけど。

 そんなミノタウロスだけど、身長3メートルはさすがにやばい。普通2メートル前後なんですけど!?

 しかもその手には巨大なバトルアックスが握られ、既にこっちを捉えているらしい。

「ぶもおおぉぉぉ!!」

 早くも怒りの声を上げ、突進してくるミノタウロス。アルディオは素早く前に出ると、スクトゥムを構えた。

「力比べか!受けて立つ!」

 腰を落とし、衝撃に備えるアルディオに対し、ミノタウロスは一切減速することなく突っ込んだ。

「ぐうっ、おおお!?」

 ぶわっと、アルディオの体が宙に浮かんだ。あの超重量装備込みで吹っ飛ばすとか、どんだけ力あるの!?

「アルディオ君!?くっ、ウィンドブロウ!」

 ザインは得意の吹き上げるウィンドブロウを使い、勢いを殺しつつ着地を助ける。その甲斐あって、アルディオは何とか体勢を立て直し、着地した。

「ザイン、今のすごいな!?他にもそんな魔法……!」

「話は後だよ!追撃、来るよ!」

 今度はバトルアックスが振りかざされ、アルディオに襲い掛かる。でも、アルディオはニヤリと笑った。

「よくも他の奴等に、みっともない姿を見せてくれたな!?今度はてめえがだらしねえ姿を晒しなぁ!」

 口調まで変わってきたアルディオは相手の懐に飛び込み、振り下ろされた斧を盾でいなした。そして、相手の右腕に容赦なくウォーピックを振り下ろす。

「ぷぼおおぉぉ!?」

「引き千切ってやるよ!」

 腕に食い込んだウォーピックを、アルディオは無理矢理引き剥がした。ベリベリと嫌な音が響き、肉片と共にウォーピックが引き抜かれた。

「ぶぅおおおぉぉぉ!!」

 痛みのあまり、ミノタウロスは滅茶苦茶に斧を振り回した。アルディオはあっさり下がってかわし、再び突進の構えを見せた。

 その時、ザインが叫んだ。

「アルディオ君、引いてぇ!!」

「え?」

 あまりに必死な叫びに、アルディオは反射的にその場を飛びのいた。

 ドゴォン!と洞窟を揺らす凄まじい衝撃と共に、振り下ろされたバトルアックスによって地面が砕けた。

「んなっ!?なんだこりゃあ!?」

「まだ来るよ!!筋力強化、速力強化!アルディオ君、何とか凌いで!」

 ザインが素早く強化魔法を使い、それを受けたアルディオが防御に回る。ミノタウロスはいつの間にか右手でバトルアックスを持っており、速度はそれまでの比じゃないレベルになっている。

 速度と筋力を強化されたアルディオは、隙を突いてウォーピックを叩き込むけど、効いている気配が無い。それどころか、動きがますます速くなっている感じすらある。

「ザイン!そいつ、たぶん高速回復する奴!怪我もすぐに回復されるよ!」

「だったら、どうすればいい!?」

「えっとえっと……傷口を火で焼いたら少しは遅くなるかも!あとは斬り飛ばす!」

「な、何とかやってみる!」

 ザインは神経を集中し、アルディオの攻撃に合わせて圧縮ファイアーボールを撃ち込んでいく。狙い通り、治りは遅くなったけど……やっぱり速くなってない!?

「ザ、ザイン!こいつなんかやべえぞ!」

「わかってる!もうこれ以上速くなると、目が追い付かないよ!」

 どう考えてもおかしい。何度も攻撃してるのはこっちなのに、相手の動きが速くなるってどういう事!?普通遅くなるもんでしょ!?発狂攻撃ならもっと追い詰めてからだろうし!

 ええとええと、考えろ私!このままじゃザインが死んじゃう!アルディオを犠牲にしてでもザインは守らなきゃ!体が真っ二つはすごく痛いから、あれは体験させたくない!

「リィン!」

 悲鳴のようなザインの叫び。私はミノタウロスの身体を見て、叫んだ。

「指!」

 瞬間、ザインは自身に速度強化をかけ、ミノタウロスに突っ込んだ。いきなり攻撃に参加してきたザインには対応しきれず、ミノタウロスは雑に斧で薙ぎ払おうとする。

 体勢を低くしてそれをかわすと、ザインはすれ違いざまに手を目掛けてシャベルを叩き込んだ。

「ぶぅおおおぉぉぉ!!!」

 ミノタウロスが悲鳴を上げ、小指と薬指が宙を舞う。それをさらにシャベルで弾き飛ばすと、ザインはアルディオと並んでシャベルを構え直した。

「指は……再生してない!これならやれそう!」

 思わぬザインの活躍を、アルディオは目を丸くして見ていた。そしてその顔に笑みが浮かび、抑えきれない言葉が溢れだす。

「ザイン、ザイン、ザァァァイィィィンくぅぅぅぅん!!すげえな!やるな!惚れちまいそうだぁ!」

 やばいやばい、ザインの貞操が危険だ!でもまずは命の危機を何とかしなきゃ!

「ザイン、アルディオ!追加報告だよ!」

 見ていて、やっと気づいた。こいつは高速回復個体なんかじゃない。もっとずっとたちの悪い、初見殺しの権化のような奴だ!

「こいつは高速『超』回復する奴!傷ついた所を、さらに強化して回復してる!下手な攻撃は相手を強化するだけだよ!」

「はぁ!?そんなこと……っても、言われてみりゃ納得。大ダメージ与えたと思った時に限って速くなってたもんなあ」

 アルディオは結構ボロボロ。いや、普通の人間なら10回以上は死んでると思うんだけど、ほんとにこの男丈夫だな。まさに大丈夫。

「でも、やり方はわかった!まずは指!できれば足も!その上で首狙いだね!」

 言うのは簡単。やるのは至難。攻撃に参加したせいで、今はザインもしっかり警戒されている。一体どうやろうかと考えていると、アルディオがザインの肩を叩いた。

「ザイン君、俺に任せろ」

「えっ!?で、でも、アルディオ君ボロボロじゃ……」

「まだまだ、余裕で戦える。それに、相手を強化してばっかりだったみたいだから、いいとこ見せたいって気持ちもあるしな」

 ミノタウロスが、斧を振り回して襲い掛かる。けど、右手の小指が無くなったせいで力が入らないようで、速度は格段に落ちていた。

 それを二人ともあっさりかわし、改めて構え直す。

「わかった。危ないと思うけど、頼むね!」

「そういうとこに飛び込んでこその、選ばれた勇者だろ?ただ、武器どうするかな……ウォーピックは相性悪いんだよなあ」

「なら、盾を使って!僕が盾を思いっきり熱くして、焼き切れるようにする!」

「本っ当に惚れていいか、ザイン君!?ぜひぜひ、頼むぜぇ!!」

 そこで、ザインは私の方に視線を送った。

「リィン、できればここで仕留めたい!隙を作れる!?」

「任せて!あいつの目、ぶっ潰してやるんだから!10秒後、薄目か片目瞑るでよろしく!」

 私はザイン達の後ろに移動すると、わざと光を弱めた。二人とも動き辛いと思うけど、何とかミノタウロスの攻撃を避けきってくれた。

 きっかり10秒後、私はミノタウロスに手をかざした。

「いっくよぉ!リィン流魔法術『田舎道のハイビーム、フォグランプ添え』!」

 白と黄色と、とにかく目に痛い色の光を全力で投射する。暗闇に慣れたところにこの光は、視界を奪うのに十分な威力だ。

 狙い通り、ミノタウロスは悲鳴を上げて目を押さえ、大きな隙を晒した。

「ザイン、今だよ!」

「ありがとう!アルディオ君、やろう!」

「はっはっはぁー!君等は本当に最高だな!」

 ザインは複数の圧縮ファイアーボールを作り出し、アルディオの盾の先端を思いっきり熱した。たちまち白く光り出した盾を構え、アルディオは目を押さえて悲鳴を上げるミノタウロスに突進する。

 左手を殴りつけると、あっという間にすべての指が焼き切れる。悲鳴を上げつつ片手で振り回してきた斧を容易く受け止め、今度は右肘に盾を押し付ける。こっちは少し時間がかかったけど、数秒で焼き切ることに成功する。

「ザイン君!」

「わかった!」

 そこでザインも攻撃に参加し、爪先を掘る。体勢を崩したところで、顎をウォーピックでかち上げ、たまらず仰向けに倒れたところで、その喉に白熱化した盾が押し当てられた。

「くたばれ、化け物め!」

「ぶ、がっ……ががっ、がぼぁ……!」

 ミノタウロスは残った左手や足で反撃しようとするも、そこはザインがきっちりシャベルとアイスアローで縫い止め、動かさない。

 辺りに焼肉の匂いが漂い始め、私のお腹がぐーっと鳴るところで、盾がめりめりとめり込んでいき、最後にドンッと音を立てて地面にぶつかった。

 巨大な牛の頭が、ごろりと転がる。身体の方も動きが小さくなり、すぐに止まる。

「か……勝てた?」

「ああ……俺達の勝ちだ」

 ザインとアルディオは顔を見合わせ、そして笑顔を浮かべて拳をぶつけ合った。

「やぁったね!天下無双の大勝利ぃ!いえーあ!」

 そこに私も乱入すると、ザインもアルディオも手を出して応えてくれた。ただの変態かと思ったら結構ノリ良いんだな!

「リィンもありがとう!おかげで無事に倒せたよ!」

「はは、君の妖精も大したもんだったな。確かに助かった、ありがとな」

 まったく、とんでもない初見殺しだった。でも、みんな無事で勝てた。みんなで、ちゃんと生き残れた。それが何より嬉しい。

 焼肉の良い匂いが漂う中、私達は勝利と無事を祝って、笑顔を交わすのだった。


 今日の成果=異常個体ミノタウロスを討伐した。

 どうも、最初の勇者が仕留め損ねたことでどんどん強化されたみたいだよ!短剣の使い手だったみたいだけど、相性がとにかく悪かったね!

 さっさと逃げてたら私達もここまで苦労しなかったし、犠牲者も少なかったのにね!!つまり最初に挑んだ勇者のせい!!!!

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