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認識してもらおう!

 いやね、確かに自由に動けるけども。


 歩ける走れる空飛べる。魔力操作もちょちょいのちょい。パン一枚で満腹になって肉一切れで三日持つ。

 花の蜜でも全然いけるし何なら虫でもいけますし?月光浴すりゃ魔力も回復。お世話要らずの手間要らず、それこそ私、サポート妖精!


 とまあ、節をつけて自己紹介してみたけれども。確かに色々叶ってるけど根本が違うっつーかよ。

 私はね、勇者をサポートする魔法使いとか賢者とか、そういうんになりたかったんであって、決して旅を始めたばっかりの勇者に『Aボタンを押して装備を見てみてね!』なんて言いたいわけじゃなかったんよ。

 ああもう、でもなってしまったものはしょうがない。Aボタンがどこにあるかはわからないけど、いつでも押してもらえるように練習しよう。

 と、覚悟を決めたのは良いけど、少しして第二の問題発生。

 勇者、絶対私のこと認識してない!!

 目の前ふよふよ飛んでも全然見向きもしないし、声かけても振り向かないし、そのくせ玩具と一緒に口の中放り込まれるしでもう散々。

 ちなみに、うちの勇者様はザインという名前。勇ましく育ってほしいとか何とか、そんな感じで付けられてた気がする。

 まあそもそも、私赤ちゃんのお世話なんてしたことないし、むしろお世話される側だったし。ザインが足おかしくしたら、テケテケダッシュを教えてあげるくらいはできると思う。

 しょうがないから、お世話は勇者のお父さんお母さんにウィンドミル投法で丸投げ。私は勇者がいつか旅立つまでに、ありとあらゆるサポートができるよう、この世界を学ぶために一足先に旅立つのだった!


 と、かっこよく旅立とうとしたのは良いけど、どうやらあんまり離れられないようで、町から出ることはできなかった。これじゃあジパングがどこにあるかとかわかんないじゃん。

 でもまあ、しょうがない。勇者を完全放置ってのもあれだし、やれる範囲でやれるだけやってみよう。うん、それがいい。ここご飯美味しいし、そうしよう。

 こうして、私はザインの自宅から町のあちこちに通い、この世界の色んな常識を身に付けていくのだった。


―――――


 早いもので、勇者ことザインは今年で15歳。つまり、私がこの世界に転生して15年。死んだのもそれぐらいだったっけな?もう15年も前だし覚えてないや。

 この日、町には王都からのお触れが届いた。何でも、勇者を探してるから我こそはと思う若者は、全員城に来いっていう内容だった。

 ただ、これは任意と言う名の強制だった。警察と一緒だ。くそ、卑劣な手段を使いやがって、これが魔王か。

 うちの勇者ちゃんも御多分に漏れず、我こそはと欠片も思ってないけど王都に向かわされた。だって、ねえ?それで勇者と認められたら金貨100枚とか言ったら誰だって……ねえ?

 ちなみに金貨100枚あると100年近くは遊んで暮らせる。銀貨一枚で大体一ヶ月。そりゃあ目も眩むってもんですよ、ええ。貧乏人どもを金で釣るとか、卑劣極まりない。やはりこっちが魔王か。

 で、ザインは現在城に来て、何やら色々やってるところ。いやあ、ここは都会って感じですごい。お祭りでもやってんのかってくらい人がいる。

 よく考えたら近いことやってたわ。大半が少年と青年の中間の奴等だわ。

 女の子も意外と多い。MMOだと男1女9くらいになるもんだけど、さすがに現実では男の方が多いかな。

 そしてそして。私ことサポート妖精様には、更なる楽しみがあるのだ。

 なんと!他のサポート妖精がめっちゃ見えるのだ!

 つまり、私が見れば誰が勇者かまるわかり!あそこの太めの男子に、縦ロール少女、マッシュルームヘアの男の子もそうだ。なんかみんな一癖ある感じだけど、普通の子って少ないのかな?うちのザインは地味オブ地味だぞ?

 何だか知らないけど、他のサポート妖精は私を不審者でも見るような目で見て、あからさまに避けている。私が一体何をしたというのか。御威光に目が眩んでるんだな、きっと。何の御威光かは知らないけど。

 やがて、集まった少年少女一部青年達に、テストみたいなものが始まった。水晶に手をかざして何やらぶつくさ言って、水晶を覗いてる人が何やら言って、それで合否判定がされてるみたい。

 何だかワクワクするな。きっと大吉が出たら合格とかそんな感じだろう。あ、これって勇者に『Aボタンを押して水晶に手をかざしてみよう!』とか言った方が良いのかな?でもどうせ聞こえないしいいか。

 そしてとうとう、うちの勇者様の番。『能力を映し出せ』とかそんな感じのことを言って、水晶見てる人が一言コメント。

「はい出ました、合格ですね。能力は……パッとしませんが、善性は高いですね」

 うちの勇者、パッとしないらしい。でもいい奴らしいから、それで十分かな。少なくとも酒瓶で殴られることはないと思う。

「えっ、えっ……ほ、ほんとに?僕、町から出たのだって初めてでっ……ぼ、僕本当に勇者なんですか?」

 私の勇者様はまったく自信が持てないらしく、そんなことを言っていた。勇ましく育ってほしいって付けられた名前の立場よ。

「ええ、間違いありません。では、そちらでお待ちください。はい、では次の方」

 うーん、なかなかブラックな職場だ。あの水晶の人、この後500人くらい捌かなきゃいけないみたい。しかもその中に勇者は……あと6人だね。うわあ、ご愁傷様。

 あれ、でも変だな?確か勇者は100人って話だけど……半分しかいないような?ひいふうみい……やっぱり50人だ。遅れてるのか、『あたくしお金には困ってませんことよ、おほほほほ』みたいな感じのご家庭だったのか。だとしたらぶっ殺すしかない。

 日が暮れそうな時間になって、ようやく勇者検査が終わって、出荷される……もとい、魔王征伐に旅立つ勇者達が一堂に会する。そこに、冠を被ったお偉いさんが入って来た。

 途端に、ほとんどの人がザッと膝をついた。すぐに膝をつかなかった人(うちの勇者込)も、周りを見てすぐに真似をした。随分偉そうな……あ、これ王様か。ゲームだと普通に話しかけてたけど、実際やると死罪らしいねあれ。

「よい。皆、楽にせよ。面を上げるがよい」

 王様が言うと、ようやく全員顔を上げる。でも膝はついたまま。

「そなたらは、正式に勇者と認められた者達だ。思ったより多くの者が集まり、嬉しく思う」

 本当はこの倍はいるんだけどな。伝える手段は……あるけど、やったらザインが死罪になりそうだからやめとこう。

「自身が勇者であると、信じられないという者もいるだろう。その者達には、まず真に勇者であると自覚してもらわねばならない」

 うんうん、確かに確かに。魔法使いだとか遊び人だとか思われちゃったら取り返しつかないもんね。

「真の勇者には、万事を補佐する妖精が憑いている。その妖精を認識することが、一番の近道であろう」

 そう言うと、王様は懐から紙を取り出した。カンペかな?

「全員、こう唱えるがよい。『儚き従僕よ、姿を現せ』と」

「えっと……は、儚き従僕よ、姿を現せ?」

 すんごく自信なさそうにザインが言った瞬間、私の中で何かが変わった感覚があった。そして、ザインの目が驚きに見開かれる。

 あ、これやっと認識してくれたやつだ!やっとお話できる!

「あ、やっほー!私は貴方のサポ……ちょっと、なんで目を逸らすの!?」

 なぜか、ザインは顔を真っ赤にして私から目を逸らす。そっちの方に動くと、今度は逆方向に目を逸らされる。

「ちょっとちょっと!何なの!?何なのよ!?私の顔に何かついてる!?」

「ち、違っ……か、顔じゃなくて……!あとついてるんじゃなくて……!」

「じゃなくて?」

「な、なんで何にも着てないの!?」

「……え?」

 言われて、自分の身体を見る。なるほど、生まれたままである。赤ん坊のようなつるぺた加減。

 他のサポート妖精を見る。みんな服着てる……着てる……この場所で裸なの、私だけ……。やばい、顔が真っ赤になるし、もう声も制御できない。

「っっっきゃあああぁぁー!?ちょっ、んなっ、何なのよぉー!?なんで誰も教えてくれなかったのぉー!?」

「い、今気づいたんだから教えられるわけっ……!」

 ザインが言いかけたけど、そっちじゃない!そんなのさすがにわかってるってば!

「そうじゃなくて、他の妖精ー!みんな私のこと避けるばっかりで、教えてくれなかったでしょー!?」

 私が叫ぶと、主に男の妖精達が答えてくれた。

「いや、だって、明らかに頭おかしい感じだし、関わりたくないっていうか……」

「好き好んで裸なんだと思ってた……」

「服着てほしくなかった……」

「てか、そもそもなぜ服を着ようと思わなかったわけ?」

 なんか色々ひどいコメント貰ったし、最後にぐうの音も出ない正論言われた気がするけど、それでも私は主張する!

「だってだって!気が付いたらこの姿で存在してたし、周りに妖精なんか一人もいなかったもんー!これじゃあただの痴女じゃんかぁー!」

「あ、あの、君、こ、これ……」

 ザインは視線を逸らしつつ、ハンカチを渡してくれた。それを素早く受け取り、ケープのように羽織る。

「あ、ありがと……これで少しは……」

「ちょっ、身体に巻いてよ!隙間からちらちら見えて……ぎゃ、逆にエッチな感じにっ……!」

「ひやああぁぁ!?ちょっ、ふざけないでよ!そんなフェチズム追及してるわけじゃないのー!ひぃ~ん、もうやだぁ~!」

 なんで私は、何十人もの前で素っ裸で、しかも大注目を浴びてるんだろうか。なんで私は、服という文明の利器を忘れていたのだろうか。

 後悔するも、時既に遅し。とにかく一つだけ言えることは、今この場所の主人公は、間違いなく私だったということだ。

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