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鍛冶仕事をしよう!

「うーん、結構傷んできたなあ」

 愛用のシャベルをかざして、ザインが呟く。ひと月も経たないうちにシャベルがボロくなるって相当だけど、地面じゃなくて敵を掘ってるからねえ。盾としても使われてるし、労基に駆け込んでもいいレベル。

「これ、そろそろ買い換えた方が良いかなあ?」

「それも手だよ!そもそもが高い物じゃないから、使い捨てって割り切って、町ごとに取り換えていくって手段もあるくらいだよ!」

「そっかあ。けど、僕そういうのはちょっと……愛着湧いちゃう方だから、捨てられないんだよね」

 バックラーとブレストプレートをあっさり廃棄しておいてよく言うな!?

「……うん、鎧と盾は手放したけどさ、あれは荷物になるでしょ?」

「心を読まれた!?」

「心を読むまでもなく、顔に書いてあったよ」

「なるほど、そっち読まれたのか」

「読み物がいっぱいあって退屈しないよ」

 ザイン、言い回しもちょっとこなれてきたな。こうやって純朴な町の少年が、都会に揉まれてスレた男になっちゃうんだ。

「それはそうとさ、ザイン。使い続けるつもりなら修理してあげようか?」

 私が言うと、ザインは目を丸くした。

「え、リィンが?シャベルの修理なんてできるの?」

「そりゃできるよ!なんてったって、私はサポート妖精だからね!」

 私が自信たっぷりに言うと、ザインは若干呆れ気味に答える。

「普通のサポート妖精は、シャベルの修理なんてできないと思うけど」

「じゃあ、異常なサポート妖精だからね!」

「そっちを修正するんだ」

「とにかく、修理くらいは簡単にできるよ!時間はかかるけど、その間は適当に過ごしててもらえれば大丈夫!」

「うーん、それじゃあ、お願いしてもいい?」

「はーい喜んでー!」

 こうして、私はザインの愛用武器であるシャベルを修理することになったのだった。腕が鳴るね!ふんす!


―――――


 ザインの故郷である、王都近くの小さな町。そこには一人のドワーフの鍛冶屋が住んでいる。

 腕は良く、人間や同族の弟子もそこそこいる。そんな彼は、仕事の合間の一服を楽しんでいた。

「しかし、ザインの奴が勇者か」

「驚きましたよね、親方。ザインの奴、全然そんな風には見えなかったんですけどね」

 ザインが勇者であるという知らせは既に届いており、一時は町中が宴会モードになったものである。今はさすがに落ち着いており、ザインの両親もつましく暮らしている。最高級肉を四日連続はさすがに胃腸に厳しいと、よく理解したようである。

「俺ぁ正直、驚かなかったぜ。少なくとも、勇者かそれに近い奴が町にいるのは、だいぶ前からわかってたからな」

「ああ……親方のとこにも来たんですね」


 思い出すのは、十数年前の何でもないある日のことである。その日も彼は普通に仕事をしていたのだが、目の前で突然ペンが浮かび上がり、文字を書きだしたのだ。

 最初こそ、魔物か幽霊かと驚いたものだが、書かれていた内容を読むと力が抜けた。

『かじしごと おしえて』

 子供の書いた様なたどたどしい字で、そう書かれていたのだ。少なくとも魔物ではないだろうし、幽霊だとしても害は無さそうである。

「鍛冶仕事ってのは、見て盗むもんだ。教えはしねえが、見るのは自由だ」

 見えない相手にそう答え、仕事を続ける。この時は剣を打っていたのだが、視界の端でハンマーが逆立ちを始め、ふらふらと浮かんだかと思うと、ぼとんと落ちた。そしてまた、ペンが文字を書き始める。

『おもくて もてない』

 どうしろと、というのが彼の感想だった。少しだけ何と言おうか考えたが、結局はそのまま伝えるのが良いだろうと、彼は率直な思いを口にした。

「そんなんじゃあ、何も教えることはねえよ」

 ペンはしばらく動かず、彼もまた気にすることなく仕事を続けていたが、しばらくするとペンが浮かび上がった。

『なるほど めんきょかいでん』

 そして、二度とペンが動くことはなかった。

「……なわけあるか、馬鹿野郎……」

 もう突っ込む気力もなく、そう呟くのが精いっぱいだった。

 たったそれだけの間柄ではあったが、あまりに傍若無人な見えない存在のことは、少なくとも彼の記憶にはかなり強めに残ることになるのだった。


「あんなのがひっついてるんじゃ……ザインの野郎も、苦労してるかもなあ」

 煙を吐き出しながら、そう呟く。小さくなった煙草を炉の中に放り込むと、ドワーフの親方は両腕をぐるりと回した。

「ま、んなこたぁどうでもいい。今日の仕事もやっちまうか」

「わかりました、親方!」

 そして、彼等は再び鍛冶仕事に戻るのだった。


―――――


 ドワーフの鍛冶屋さん直伝!鍛冶仕事の始まりだぁ!

 そのために、リィン流魔法術!鍛冶仕事スペシャル!

 ハンマーなんて重くて持てないから、まずはストーンバレットの複合体でハンマー作成!これで思いのままに動くハンマーの出来上がり!

 叩くための金床代わりに、やっぱりストーンバレットで石床作成!こっちは圧縮して強度強化!象が踏んでも壊れない!

 次に超圧縮ファイアーボール!これで炉の代わり!ウォーターシュートの極薄版でウォーターカッター!ウィンドブロウは……魔法の炎があるからいいか。

 準備を整え、まずはシャベルを熱して真っ赤にする。その上で叩いて叩いて、全体の形を整える。刃こぼれが結構ひどいから、何なら一回り小さくなってもいいか!

 いっそ溶かして石型に突っ込んでもいい気がするけど、教えてもらった鍛冶の技術は使わなきゃ損だし、続けてみよう。

 そうだ!せっかくだから、私はこの赤のシャベルを選ぶ、じゃなくて、少し強化しよう!これ、正直シャベルとして使うことは少ないし、ほとんど武器だからね!

 という訳で、先端の尖りを強化。あと縁はやや薄く、右側は刃物として恥ずかしくないレベルに。でも厚めの刃っていうのも利点の一つだから、目指すは斧のような刃の付き方。

 左側もしっかり強化。こっちはいっそ鋸刃つけるか。これはウォーターカッターで……ほいっと、成形完了!

 あとは全体に、しっかり鍛造し直す。うーん、一回り小さくなっちゃったかな?ま、いいでしょ。武器としての格は上がったはず。

 最後に真っ白になるまで熱して、火から離して……よし、ここだ!中級魔法、ハイドロストリームで急速冷却!ぶっしゅーって、すっごく良い音するね!辺り一帯真っ白け!

 出来上がりは……うん、良い感じ!これならきっと、ザインも喜んでくれるね!


「……で、修理を頼んだはずなのに、なんで強化されてるのかなこれ」

 あっれー?思ったより反応薄いぞ?あ、びっくりしすぎて逆に反応できないって奴かな?

「刃の形も変わってるし、剣まではいかないにしても斧みたいな切れ味になってるし、この鋸部分、普通に鋸として使えちゃうんだけど……これ、本当に修理の範疇?」

「間違いなく修理だよ!ドワーフさんに免許皆伝もらった私にかかれば、これぐらい朝飯前!」

「鍛冶屋さんに弟子入りなんかしてたの?でも、うーん、免許皆伝……鍛冶屋に免許皆伝なんてあったっけ?」

「もう教えることはないって言われたから、間違いなしよ!」

「……教えられることがそもそも無いって意味だったんじゃ……?」

 う~ん、愛着あるって言ってたし、もしかして形変わりすぎて違う物判定になっちゃったかな?だとしたら悪いことしちゃったなあ。

「あの……もしかして、元の形の方が良かった?だったら、すぐ直しちゃうけど」

 私が尋ねると、ザインは慌てて首を振った。

「あ、ごめんごめん!いや、嬉しいよ!何なら強化されてるのもすごく嬉しいんだけど、ちょっと思ってた修理と違いすぎちゃってさ……ごめんねリィン、頑張ってくれたのに、不安にさせちゃったね」

 そう言って、ザインは私の頭を優しく撫でてくれた。えへへー、もっと撫でろ。

「それにしてもさ、鍛冶仕事の道具なんてあったっけ?」

「ん、ないよー。だから全部、魔法で代用したよ!」

「え、全部魔法……?」

「そうだよ!炉の代わりに圧縮ファイアーボール!ハンマーはストーンバレットいっぱい!金床代わりの石床もストーンバレットいっぱい!冷やすのにハイドロストリーム!簡単な成形はウォーターシュートの高圧カッター!だからさすがに!ふらふらよ!」

 正直言うと、今もうザインが二人に見えてる状態。魔力使い過ぎで死ぬほどふらふらする。まだ底を尽いたわけじゃないけど、一気に消費すると反動やばいね!

「うわっ、大丈夫!?リィン、もう今日は休んでいいよ!ていうか、宿屋取るから休んで!何か好きな物も食べていいから!」

「ほんと!?じゃあね、お魚かお肉食べたい!お魚なら香草効かせたふっくら焼きで、お肉ならニンニク強めのソースで甘じょっぱい系の奴!」

「そ、そこまでは約束できないけど、探してみるよ」

「なかったら生でもいいよ!」

「生は食べさせないよ!?せめて調理済みのにしてね!?」

 何だよー、お刺身美味しいのに。今なら牛さんのいるところに案内してくれれば普通に食らいつける気分。

 と、何やらザインが私に向かって手を伸ばしてきた。

「ほら、リィン」

「ん、何?」

「飛んでるのも疲れるでしょ?運んであげるから、こっち来て休んでていいよ」

 こ、これは……まさかのお姫様抱っこ!?い、いやいやいや、さすがにそれは恥ずかしい!

「だ、大丈夫大丈夫!飛んでるくらいなら何とか……!」

「何とかって、それもうダメだってことでしょ。遠慮しないで、ほら」

 遠慮する間もなく、私はザインにひっ捕らえられ、その腕に収まってしまった。

 ただ、うーん、これは……子犬を抱えてる少年。

 サイズ差がありすぎて、お姫様抱っこって感じではなかった。ザイン、右手一本で私抱えてるしね。

 でも、やっぱりちょっと恥ずかしくて、私はザインの胸に顔を押し付け、周りが見えないようにしていた。見えてないから見られてないはず。誰も私は見えないはず……!

 宿屋に着いて、部屋に入ってからは解放してもらえたけど、何だかその日は一日中、胸の中がぽかぽかしている感じで、私は寝るまでずっと落ち着かない気分だった。


 今日の成果=ザインのシャベルを修理ついでに強化した。

 全部魔法で鍛冶仕事をするとすっごく効率が良いけど、魔力の効率はクソの極みだよ!良い子は真似しないようにね!

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