依頼を成功させよう!
西の山は、思ったより道がしっかりしてて歩きやすい山だった。
薪を取りに来たり、狩りをしに来たりする人が多いらしく、ちょっとうねうねした山道がはっきりついてて、足元もばっちり踏み固められている。
欲を言うならコンクリで舗装して滑落防止のガードレール作ってバスでも走らせてほしい所だけど、この世界じゃどれも見たことないから我慢しよう。
事前のクソガキ情報通り、五分ほど歩くと左手側に獣道が見え始める。かなり草丈が高く、本音で言えばあまり行きたくない道ではある。ま、私は飛べるから関係ないんだけど。
「ここを行くのかぁ……あの子はこんなところ遊び場にしてるんだね」
「田舎の子供は逞しいからね!きっとここにもカブトムシとか食べに来てるんだよ!」
「取りには来てると思うけど、普通は虫って食べないんだよ、リィン?」
なんだ?私がおかしなこと言ってるって口調だな?食べ応えあって美味しいのに、食べない周りがおかしいんだぞ!
まあザインと私の普通が違うのはわかってるので、特に何も言わずにスルー安定。黙って二人で獣道を進み始める。
悪魔はともかく、こんな山の中じゃ獣に襲われても不思議じゃないので、私とザインは完全に臨戦態勢。慎重に進んでいくと、やがて情報通りにやたら開けた場所に出てきた。なるほど、ここがボス戦会場か。手前にセーブポイントはなかったから、きっと弱い相手だな。
そんなことを考えて周囲を調べると、何やら一部草が無い所がある。どう見ても人工的に除草されており、ザインは首を傾げた。
「これ、何だろう?何か、模様?」
「ミステリーサークルかもね!ちょっと見てみるよ!」
私はワクワクしながら飛び上がり、足元の景色を眺めた。
瞬間、背筋がぞわっとする。あー、これ初心者が受けちゃいけない依頼だわ。後でストーリー進んでから戻って来て受けるやつだわ。初見殺しにも程がある。
「ザイン、これ大きな魔法陣だよ!召喚用魔法陣で、この規模なら魔王クラスでも飛んでこられそう!」
「ええ!?そ、それは放っておいたら大変なことになるよね!?どうすればいい!?」
「壊さなきゃ……あ、待って!ザイン構えて!危ない!」
慌てて忠告を飛ばし、ザインの元に戻る。直後、一本のアイスランスが襲い掛かり、ザインは本当にギリッギリで身をかわした。危なかった、あんなの当たったら即死だよ!
「ほう、今のを避けるとはな。大した力は無さそうに見えるが、勇者というものは、やはり甘く見ることはできんな」
現れたのは、三人の悪魔。人間に近い風貌をしてるけど、肌が極端に白くて目が真っ赤で、角があるのが特徴。
もっとも、下級の悪魔はもっと獣っぽい姿だったり、遠目からでもわかる程度には人間離れしてたりするけど。
つまり、この悪魔達はどれも上級悪魔。中央のはグレーターデーモンクラスかな。レベル一桁台に後半の魔物出てくるとか何のバグですか。
「お前達か、この魔法陣を作ったのは!」
でも、ザインは一歩も引かずにそう叫ぶ。実力差は……わかってるんだな、手が震えてる。それでも、ザインは逃げようともしない。
「勇者達がいなくなってから、ゆっくり仕上げるつもりだったのだがな。まだ勇者が残っていたとは驚きだ」
もっとも、逃げようとしたって瞬殺がオチだ。この場合は本当に、戦うしか生き残る道が無い。
「しかし、ちょうどいい。お前の血で魔法陣を強化すれば、想定以上の力が出せるだろう。完成も早まるし、我々にはありがたい話だ」
中央の悪魔の言葉に、左右の二人も反応した。
「そうだな、こんな山の中など、気が滅入る。さっさと帰りたかったところだ」
「俺はこの場所気に入ってたんだがな。うまいクワガタもいたしな」
なんだ、ここはクワガタの方が美味しかったのか。じゃあカブトムシ食べないのも納得だ。
そんなことより、この場を何とか凌がないと。私がザインの顔を見つめると、ザインもちらりとこちらを見てくれた。それに力強く頷いて見せると、ザインも少しだけ笑いかけてくれた。
さて、それじゃあ不意打ちを……と思っていたら、中央の悪魔が私を指さした。
「そこの妖精も含め、お前達は魔法陣完成のための生贄になってもらおう。我等が魔王様の役に立てるのだ、光栄だろう?」
「あれ、私のこと見えてた?おっかしーな、姿隠してたはずだけど?」
「我々ぐらいになれば、妖精の幻惑魔法など効きはしない」
なるほど、一定以上の力を持つ相手には隠れられないのか。てことは、もしかしたら勇者100人のうちの半分は、こうやってサポート妖精の姿を見られて殺されたのかもね。
こうなったら先手必勝。私とザインは、同時に顔を見合わせた。
「ザイン、左だけ何とかできる?あとの二人は私が」
「やってみる。リィン、気を付けて」
「筋力強化、反応強化、魔力強化!初級だけど、少しはマシなはず!」
相手が体勢を整える前に、私は悪魔に向けてぶっ飛んだ。妖精が攻撃に来るとは思わなかったのか、悪魔達は一瞬反応が遅れた。
その一瞬が、戦いでは命取りだよ!
「上級魔法、フレイムストリームの変形、フレイムジェイル!」
少し離れた空間から、猛烈な炎が噴き出す。その炎は蛇がとぐろを巻くように、中央の悪魔に巻き付いていった。
「なんだこの妖精は!?上級魔法だと!?」
「そっちはこっち!初級魔法、ウィンドブロウの変形、リィン流魔法術、『メバルの気持ちを思い知れ』!」
ビュウ!と右の悪魔を中心に凄まじい風が外側に向かって吹く。悪魔の顔は前後左右に引き伸ばされ、目が飛び出さんばかりに外へと張り出してくる。うーん、金目鯛が食べたくなるね!
「っ……!?っっ……っ!!」
悪魔は何も言えず、ただ喉を掻き毟るしかできない。そりゃそうだ、今あいつの顔の周囲には、空気が完全になくなってるんだから。気圧もまったくなくなったから、血液も沸騰してるはず。もうあいつは時間の問題。
一方の中央の悪魔は、私の上級魔法を強引に振りほどき、こっちへ突っ込んできた。
「異常な妖精め!お前は直々に殺してやる!」
「願ったり叶ったり!」
上級魔法は完全に解き、私は新たな魔法を発動する。
「初級魔法、アイスニードルの変形!リィン流魔法術、『人刺し指』!」
瞬間、私の指に長く鋭い、氷の爪が現れる。限界まで圧縮した氷は硬く、悪魔の皮膚など容易く斬り裂く。
こっちに向かって伸ばした手と、相手の喉に氷の爪を突き立てる。まさかこんな攻撃手段を持ってるとは思ってなかったようで、悪魔は驚きに目を見開いている。
「きさ、ま……何者……だ……!?」
「勇者ザインのサポート妖精、リィンだよ!よろしく!死ね!」
爪を鎌のように変形させ、思いきり振り抜く。さすがに悪魔も生き物だから、首を半分以上掻っ捌かれたら生きてはいけない。
二人の悪魔が倒れたのを確認してから、ザインの方に目を向ける。
ザインはかなりボロボロになっていたけど、何とか戦っていた。相手の攻撃をいなし、受け流し、たまに無詠唱で魔法を発動し、防戦一方ではあるけどギリギリ戦えている。
「くそ、イライラさせてくれるな!大人しく死ねばいいものを!」
「僕は絶対に死なない!リィンと約束してるんだ!」
一瞬の隙を突き、シャベルを思い切り突き出す。それは悪魔の胸に命中したけど、突き通すには少し足りなかった。
「残念だったな。さあ、これで……!」
「ザイン、掘って!」
言いながら、私は悪魔に全力で膝カックンをぶちかます。不意打ちを食らった悪魔は、たまらず体勢を崩した。
「なっ!?この、妖精風情がっ……!」
「ありがとうリィン!うおおおお!!」
ザインが両足を揃えて、シャベルの刃に飛び乗った。その上でさらに両足で蹴り込んだおかげで、シャベルの刃は悪魔の胸を完全に貫き、背骨まで斬り裂いて地面に届いた。
「が、がはっ!?くそっ……こんな……やつ、ら、に……!」
悪魔が動きを止めた後も、ザインはまだ警戒していた。だけど、数分経っても動きが無いことを確認すると、ようやく警戒を解き、その場にへたり込んだ。
「か……勝てた……!?」
「やぁったね、ザイン!天下無敵の大勝利ぃ!いぇい!」
「あ……あはは、ありがとね、リィン……」
ちょっと力無かったけど、ザインは拳を向けてくれて、私は思いっきりそこに拳をぶつけた。
これで、上級悪魔三体の討伐完了!依頼達成だね!初見殺しの初見攻略、おめでとう!




