新たな生を始めよう!
既に書き終えているので毎日投稿していきます
私の人生って一体何だったんだろうって、いつもいつも思っていた。
そして今も、血溜まりの中でそう思う。
子供の時に大きな病気をして、足が不自由になった。
それでも、動けないなんて嫌だから、手で這ったり車椅子使ったり、何なら腹筋で足を持ち上げながら両手でドタドタ走れるようにまでなった。おかげであだ名が『テケテケ』になった。
気持ち悪いからその動きはやめろと言われて、しょうがないから車椅子で動いてたら車に撥ねられた。奇跡的に生きてたけど、左手親指は吹き飛んだ。
運転手曰く『小さくて見えなかった』そうなので、車椅子に大漁旗を差して動いてたら、恥ずかしいからやめろと家族に怒られた。
なんで自分を守ろうとするとダメだって言われるのか。なんでいい動き方を考えたのに怒られるのか。
周りにやりたいことを制限されて、良いと思ったことも止められて、私の人生は誰のための物なんだろう。
外でそんなことを考えているうちに、大漁旗が風に煽られた。左手が踏ん張り切れずに、私は車椅子ごと車道に転がり落ち、そこをロードローラーを積んだトレーラーに轢かれて、今の状況がある。
もっと色んなことをしたかった。もっと遊びたかった。できれば走り回りたかった。モーターパラグライダーとスカイダイビングもやってみたかった。サイドカーレースにだって出てみたかった。
だけど、どれももう叶わない。尋常じゃない出血があって、身体はたぶん、上下二つに千切れている。頭はくらくらするし、視界も白じゃなくて黒く変わってきた。
ああ、大漁旗だけは言う事を聞くべきだったかなあ。あんなに風に煽られるなんて、ちょっと想定外だった。
せめて旭日旗だったら、こんなことにならなくて済んだのかなあ。日の丸でも良かったかもなあ。
そう思ったのを最後に、私は考える力も失った。もう何も考えられず、何も感じず、ただ迫ってくる闇に、身体を任せた。
意識が覚醒する。だけど何も見えないし、何も感覚が無い。ただ、私が私としてここにいるってことしかわからない。
ここはどこなんだろう。天国?地獄?大地獄?親より早く死ぬっていう親不孝したから、地獄って可能性も――。
いやいや、そんなことない。むしろ私みたいに手のかかる奴から解放されたんだから、むしろ親孝行。『あたし達が死んだら、あんたはどうなっちゃうんだろうねえ』なんてお母さんいつも言ってたし。うん、万事オッケー、じゃあ地獄の線は無し。
でもやっぱり何だろうなあ?どこなんだろう?仮想待合所的な何かかな?で、順番がきたら『あなたの次の人生はこれです』みたいに提示してもらえるとかかな?
だとしたら、テンションぶち上がる。どんな人生がいいかなあ?せっかくだからファンタジーな世界とかがいいな!
で、とにかく動けること!走り回れること!何なら飛べること!魔法とかですいすいーって、自由に動けたら最高!
私が勇者に……いや、違うな。むしろ勇者を支える魔法使いとか賢者とか?そういう立場で戦う皆をフォローして、時にはでっかい魔法も使って大活躍とか!
戦うのは正直嫌だよね、身体千切れるのめっちゃ痛かったし、それは勇者に任せよう、うん。
それでそれで、最後には勇者と恋仲になっちゃったりして……きゃー!
『全てを叶えることはできませんが、大半は叶えられそうです。では、次の生を存分に生きてください』
いきなり、誰かの声が聞こえた。え、ちょっと待って、さっきの全部聞かれてた!?
ちょっ、待って待って!それなら超絶美少女で貴族の子供で神童と呼ばれて神と呼ばれて崇められ――。
『欲張りすぎ。それにもう確定してるから今言われても無理です』
だ、だったらせめてここに来た時に説明しろぉー!!
そう思ったのを最後に、意識が新たな覚醒を始めた。明晰夢から覚めるように、意識と肉体が繋がる。
そして、私の目が開けられた。
「……赤ちゃん?」
目の前には赤ちゃん。だけど、でっかい。めっちゃでっかい。実は歯が生えてて人とか食べるような奴じゃないよね?
『では説明します』
いきなり、頭の中で声が聞こえ、私は飛び上がって驚いた。この声、さっきの声と同じだ!たぶん!いやわかんない!違うかも!
『同じです。先程説明しろと文句を言われたので説明に来ました。貴方の目の前にいる赤ん坊は、未来の勇者です』
「はぇ~、勇者様。これが他人様の家の箪笥漁るようになるのかぁ……」
『貴方の中の勇者は罪人のことを言うのですか?この世界の勇者とは、魔王と戦う運命を背負った者。彼の他にも、99人の勇者が今生まれています』
勇者100人かあ。メタル狩りとかしたら狩場被りまくりそう。
「多すぎじゃない?あっ、もしかしてあれ?オンラインMMO的な」
『前世の記憶をオフラインにしますよ。たった一人の勇者が魔王を倒せるほど、魔王は甘い相手ではありません」
「具体的には?蜂蜜?最大なコーヒー?それともまさかのカスドース?」
『キャラデリして作り変えます』
「わああぁぁごめんなさい!甘くない方だからむしろブラックコーヒーでした!」
『もういいですそれで』
何だろう、神様……だよね?とにかく声がめっちゃ疲れてるっぽい。魔王が出てから休めてないのかな、可哀想。
『とにかく、今回現れた魔王は非常に強大で、100人の勇者の力をもってしても、勝てるかどうかわかりません。そこで、貴方達の出番です』
何となく、私はビシッと気を付けの姿勢を取り、右手を真っ直ぐにして眉間辺りに持って行く敬礼(自衛隊式)をした。
『その敬礼は何か被っているときです。貴方は今無帽。さらに、自衛隊なら左手は握ります。つまり全てが間違ってます』
「何……だと……!?」
『もういいです続けます。貴方達は、勇者のサポートをしてください。彼等が無事に旅を続けられるよう、無事に強くなれるよう、手助けをしてあげてください。そしてもし、貴方がサポートする勇者が魔王を倒した暁には――』
「あ、暁、には?」
ごくりと唾を飲み、続きを尋ねる。
『立場的に偉くなった勇者が貴方の献身も何もかも忘れ、王女やら侯爵令嬢やらを侍らせつつ酒池肉林の贅沢を尽くす姿を、その後何十年にも渡って見続けることでしょう』
「お、おお、夢が無いけど、これがリアリティー……!」
『ですので、貴方が望むのであれば、その瞬間にここでの生を終え、次の生を始められるようにしてあげましょう』
「はいはいしつもーん!魔王が倒せなかったら?」
『負け犬と罵られ、偽物勇者と言われ、稼いだ金全てを酒に費やし堕落していく元勇者に、酒瓶で殴られつつも「お前しかいないんだよぉ」などと泣きつかれ、何だかんだで最期を看取るまで一緒にいることになるでしょう』
「なんか神様の人生観歪んでません?」
『人間などその程度の存在です。では、説明も尽くしましたし、もういいでしょう。貴方の健闘に期待します』
そして、頭の中から何かがふっと消える感覚があり、神様の声は二度と聞こえなかった。
さてさて、それじゃあ早速、この大きな小さな勇者様のサポートを――。
え、ちょっと待って?そもそもこれ赤ん坊だよね?なのに私の身長と同じくらいあるって何それ?巨人族?ちょっと顔とか見えないし……あ、飛べばいいのか。
ナチュラルに思ってから、えっ!?と驚く。
私……飛べる!?羽!?羽がある!?あれ、それコップ!?やっぱり私の胸ぐらいあるし!これって、まさか!
鏡を探し、自分の姿を映す。するとそこには、緑の髪が生えて背中に透明な羽を生やした、一匹の妖精の姿があった。
「って、仲間は仲間でもチュートリアル担当のサポート妖精の方かーい!!!!!」
私の絶叫は、誰にも聞かれることなく虚空へと消えていくのだった。