第47話 フィナーレ
審査員達と話し終わると、司祭長がステージの中央へと歩を進める。
屋外の会場に吹く初夏の風が、今だけは音を潜めるようにピタリと止んだ。
「――勝者を発表する!」
観客席の全員が固唾を呑み、その瞬間を待っている。
「勝者――タカヤ・アマノッ!!」
会場が一気に爆発したように湧き上がる。
歓声、拍手、口笛、そして子どもたちの甲高い声が混ざり合い、空に放たれていく。
王がゆっくりと立ち上がり、鷹也に近づく。
「見事だ、タカヤ。そなたの料理には、多くの人々を笑顔にする力があった。」
王の言葉に鷹也は一瞬だけ息を呑み、深く一礼する。
セイルも静かに鷹也へ歩み寄る。
勝敗はついたが、彼の眼差しには悔しさだけでなく、敬意が宿っていた。
「……やっぱり、あんたは本物だよ。炎を操る俺が勝てないなんて、な。」
鷹也は肩をすくめ、少しだけ笑った。
「セイルの炎は確かに凄い。だが、料理は炎が全てじゃないさ。」
そう言って鷹也は左手を差し出す。
短い言葉だったが、セイルは深く頷き、差し出された手を力強く握り返した。
その瞬間、再び観客席から拍手が沸き起こる。
勝者と敗者――だが、そこには確かな友情と互いへの敬意があった。
やがて、日が傾き夕焼けが会場を朱に染める。
王都の建国祭の喧騒が続く中、鷹也の戦いは幕を下ろした。
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そんな鷹也の様子を見つめる男が1人。
副料理長のジェイドだ。
その視線は遠く、まるで別の場所を見ているようだ。
「タカヤ・アマノに、セイル・ドラヴァンか……」
低く呟いたその声に、背後から忍び寄る気配。
フードを深く被った影が近づく。
「決心はついたのか?」
掠れた声が問う。
ジェイドは短く笑った。
「あぁ、もうこんな場所に用はない。……そちらの言う通りにしよう」
「よかろう。ただし――二度と、日の当たる場所には戻れんぞ」
「わかっている」
2人はそれ以上言葉を交わさず、暗い路地へと消えていく。
祭の明かりが、一瞬だけジェイドの横顔を鮮やかに照らした。
それは、覚悟を決めた者の顔だった。
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夜空を震わせる轟音と共に、大輪の光が花開いた。
金色の火花が降り注ぎ、王都の街並みを一瞬、昼のように照らす。
広場に集まった観客たちが歓声を上げる中、鷹也は少し離れた場所でフィーネ、リリアと並んで空を見上げていた。
「やっぱり、王都の花火はすごいな」
リリアの呟きに、鷹也が頷く。
「あぁ、こんなに大きいのは初めて見たよ」
横で、フィーネが手元のワインを軽く揺らした。
「こうして見ると、料理大会なんて一瞬の出来事みたいね」
「……まあ、俺にとってはそうでもないけどな」
鷹也は笑い、利き腕をかばうように左手で杯を持ち上げる。
その笑みの奥には、戦い抜いた疲れとあの時決めた覚悟が滲んでいた。
再び夜空が轟き、赤と青の火花が弾ける。
フィーネはちらりと鷹也を見た。
「でも――いい顔してるわよ、今のあなた」
「そりゃどうも」
リリアは、花火の音にかき消されそうな声で呟く。
「タカヤ、今度は私が頑張る番だからね」
その言葉が鷹也に届いたかどうかは、わからない。
彼は何も言わず、ただ夜空を見上げ続ける。
大輪の光が咲いては散る中、それぞれの静かな決意が心に残っていった。




