第12話 裏市場にて
王宮の門を出て、石畳を外れた先に広がる細い路地。
舗装もされておらず、周囲には貧民街と思しき古い建物が並んでいた。
「ここ……なのか?」
「ええ。王都の“もう一つの胃袋”って呼ばれてる場所よ。表通りじゃ手に入らない、珍しいものや訳ありの品が揃ってるの」
フィーネは慣れた足取りで路地を進み、やがて薄暗いアーチの門をくぐる。
その先に広がっていたのは、表の市場とはまったく違う光景だった。
露天の台には、巨大な甲殻のついた海獣の足、青黒い光を放つキノコ、乾燥させた魔獣の心臓と見られる何か――
一見して「食材」と断言できない品々が、ずらりと並んでいる。
「これ……本当に食べられるのか?」
「食べられるかどうかは、使い方次第よ。
こっちの黒い塊は“獣影茸”。強い香りがあるから、肉の臭み消しにいいわ。少量でも効くの。
あっちは“雷鳥の卵”。ごくまれに放電するから、取り扱い注意だけどね」
フィーネはまるで魔導書を読むように軽やかに語る。
鷹也は並ぶ食材に目を奪われながらも、頭の中で味の組み合わせを構築していた。
(風味の強い茸に、香りの強い肉……あれは、脂身の多い魔獣肉か?
この乾燥ハーブ……山椒に似た刺激……うまく使えば、風味を引き立てられるかもしれない)
「ふふ……目が変わったわね」
「ん?」
「最初は怯えてたくせに、今は完全に料理人の顔よ。素材に語りかけてる。
いい目つき。私、そういうの嫌いじゃないわ」
フィーネは笑いながら、ひとつの籠を指差した。
その中には、小ぶりな黒毛の獣肉が丁寧に処理され、香草と一緒に巻かれていた。
「これ、どう? 魔獣“ニーウルフ”の肩肉。硬いけど旨味がすごいのよ。普通の人は焼くだけで噛み切れずに失敗するけど……」
「じっくり火を通して、香辛料や香草で風味を締めれば……いけるかもしれない」
「そう思った。やっぱり、いい目してる」
鷹也は黙って籠を抱えた。
「これをください。あと、香草と……その雷鳥の卵も。試してみたい」
「はいよ、兄さん。お代はフィーネ嬢が面倒みてくれてる」
「えっ……?」
「ふふ、ささやかな投資よ。見返りは、“美味しい驚き”だけでいいわ」
フィーネの笑みに、鷹也も微笑み返す。
すでに彼の頭の中では、料理の輪郭が浮かび上がっていた。
――魔獣の肩肉に、香草と香辛料の香りを重ね、雷鳥の卵でソースを作る。
そこに合わせるのは、あの村でも仕込んでいた“あの一品”かもしれない。
「……よし、作ってみる価値はある」
明日の試験まで、残された時間は一日。
鷹也は王都という未知の舞台で、自分だけの“皿”を描き始めていた。
(絶対に、厨房に立ってやる――)




