(ジョニー・ビー・バッド)3
港には冒険者パーティ、コモネーゼが先着していた。
ジオラールでのパーティランクはA。
S一人とA二人、B二人で結成されていた。
Sランクのモーリス・アルトー。
Aランクのマチュウ・イドノフ。
Aランクのアンドレ・ジラルド。
Bランクのシモン・ウィルソン。
Bランクのデビット・ゼム。
パーティのリーダー、デビットが歩み出て来た。
「お待ちしておりました」
Bランクがリーダーであった。
それでも問題はなかった。
残り四人がデビットを推したからだ。
まあ、それはデビットの生まれが関係していた。
ダイキン王国の伯爵家の生まれ。
王国学園騎士学部の経歴のお陰か、
仕草も言葉遣いも洗練されていた。
パーティでは貴重な折衝役としてリーダーに抜擢された。
勿論、騎士学部卒だけあり、槍剣弓に優れていた。
当然、連携も大過なく熟した。
一番の理由はデビット曰く、「面倒だから私に押し付けた」と。
港は第一区画の西と東にあった。
今回は西から乗船した。
商船や軍船ではなく、大樹海向けの渡し船。
当たり前のことではあるが、大樹海に向かう冒険者で満員だった。
ジョニーは大樹海の前にカルチャーショックに襲われた。
聞き取れぬ言葉が飛び交っていたからだ。
それは異国の者達であろう。
訛っているのは周辺国の者達。
隣のデビットが説明してくれた。
「ランバート大樹海に入るにはこの港が一番手近なんですよ」
こちらから地図を見ると北にアミン大公国が位置があった。
そこは、かつてはアミン辺境伯領と呼ばれていた。
ダイキン王国の西の守り手であった。
そのアミン辺境伯は、王国のルルーシェ辺境伯領への対応を見て、
熟慮の末、王国に見切りを付けて独立を宣言した。
今はアミン大公国。
ダイキン王国はアミン大公国の独立宣言に接しても、
東から侵攻して来たベイカー王国軍に、
その本拠地王都を落とされて、それどころではなかった。
ルルーシェ大公国が苦渋の末の独立であったのに対し、
アミン大公国は一兵も損なわぬ余裕の独立であった。
ジョニーはアミンが辺境伯領であった頃、その領都で生まれ育った。
少ないながらも子供時代の頃の知識があった。
デビットに尋ねた。
「アミン大公国は騎士団が魔物を間引いているよね」
「ええ、領都に近付けさせぬようにしています。
ですが、それだけです。
深くは立ち入りません。
被害を被るのが嫌なのでしょう。
冒険者達ですが、彼等にも限界があります。
命は一つしか有りませんからね。
今もって、深部の情報はありません」
大樹海側には仮の港があった。
仮ではあるが外壁と水堀に囲まれた城塞で、それなりに住民もいた。
勿論、生活に必要な物資は毎日欠かさず運ばれて来て、
住民や冒険者達に不自由はさせなかった。
そこはジオラール国の強みでもあった。
渡し船は仮の港に接岸すると乗客達を降ろした。
降ろされた冒険者達はまず宿を確保した。
基地となる宿が決まると、冒険者ギルドに走った。
情報収集は命綱の一つと認識されていた。
それはコモネーゼのパーティも同じであった。
今回の目的の一つは、ジョニーに経験を積ませること。
そしてもう一つは工房に魔物の部位や魔卵を卸すこと。
魔物についての指定はなかった。
為に大樹海へ深く入る必要もなかった。
翌朝、宿を出てからある程度のところでパーティは足を止めた。
デビットが言う。
「この辺りで採取します。
普段の工房の在庫からすると、ラブラビやパイア、
モモンキーが不足する頃です」
流石は出来る人。
顧客の在庫を見極めていた。
ラブラビは兎の種から枝分かれした魔物。
体長は成体で50センチほど。
額の左右に鋭い角を持ちで、俊足、機敏、跳躍力の三つが武器で、
群れなして連携する厄介な相手。
採取する部位は角と毛皮、魔卵。
パイアは猪の種から枝分かれした魔物。
体長1メートルほどで武器は牙、得意なのは突撃。
猪突猛進そのものは単純だが侮れない。
採取する部位は牙と毛皮、魔卵。
モモンキーは猿の種から枝分かれした魔物。
二足歩行が可能でその際の体長は1メートルほど。
俊敏で、知能があり、長い手で棍棒を振り回す厄介な奴。
採取する部位は鋭い爪と目玉、これまた毛皮と魔卵。
パーティの隊列に変更はない。
前衛は二人。
Aランクのマチュウ・イドノフ。
探知士兼短剣士。
腰の剣帯に短剣二振り。
通常時は右構えだそうだが、必要に応じて双剣も使えるそうだ。
小さな丸盾を左手に持ち、するすると滑るように進む。
距離を空けずにSランクのモーリス・アルトーが続いた。
熊かと見間違えそうな体躯の盾士兼剣士。
腰の剣帯に長剣を下げ、大盾を片手で持っていた。
大盾を片手で操り、長剣で相手を一撃で仕留めるそうだ。
前衛とは距離を空けて本衛が続いた。
ここでもBランクのデビット・ゼム。
槍士兼剣士兼弓士。
剣帯には身軽さを優先して、ポシェット型のアイテムバッグがあった。
長剣と弓一式を収納し、使い込んだ槍を携えていた。
このデビットの背後にジョニーとアレックスが続いた。
戦力としてではなく、守られる存在として。
せめて役に立ちたいと、二人して背中に物資を担いでいた。
後衛には二人。
Aランクのアンドレ・ジラルド。
弓士兼風魔法使い。
風を重ね掛けするのでその射程は遠距離に及ぶそうだ。
Bランクのシモン・ウィルソン。
防御魔法使い兼薬師。
パーティの中で一番МPが多いので、非常時はバリアで全員を守る。
薬師としてのスキルと、魔法杖での戦闘術も熟れているので、
パーティでは重宝されていた。
鬱蒼とした森を抜けそうな所でマチュウが足を止めてハンドサイン。
「危険、止まれ」
メンバーが一斉に足を止め、腰を落として臨戦態勢になった。
マチュウが振り返り、小さな声で後方に届けた。
「ヘルハウンドが二頭」
これにはメンバーが顔を顰めた。
こんな浅い所にいる魔物ではない。
それがよりにもよって二頭。
おそらく番であろう。
魔物としてのランクはAではあるが、
番ともなるとSと判断せざるを得ない。
攻撃すれば、互いを守る為に死力を尽くすだろう。
俊足にして小賢しいので面倒臭い事この上なし。
デビットの合図で全員が集まった。
「どうする」
パーティとしてであれば、当然討伐に傾くだろう。
何しろヘルハウンドは色んな意味で美味しいのだ。
部位としても、ランクアップにしても、願ってもない相手。
ところがジョニーの存在が彼等の足を引っ張っていた。
お付きのアレックスがいるが、それにばかり頼ってはいられない。
必ず手を貸さざるを得ない場面に遭遇するはず。




