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(ジョニー・ビー・バッド)2

 リネア・ルーダ。

それが老婆の名前。

けれどジョニーは彼女を、「姉さん」と呼ぶ。

船内で何の気なしにそう呼んだだけなのだが、

それが心地好かったらしい。

今でもそれを強制されていた。

「お姉さん」と。

時には、「先生」も有りだそうだ。

ジョニーだけでなく、リリーもトムもそう呼ばされていた。

ただし年齢だけは不詳になっていた。

リネア曰く、「女性に齢を尋ねるのはヤボよ」とか。


 リネアは教え方というか、子供のあやし方が巧かった。

真っ先にトムを懐柔した。

褒めて褒めて、褒め殺した。

「そうよそうよ、とてもお上手ね。

トムは天才かしら。

暫くそれを繰り返してね」

 魔力操作を教え、地道に繰り返させた。


 そしてリリー。

「リリーもとてもお上手ね。

そこはそれで良いの。

でも、別のやり方もあるの。

それも覚えると便利になるわよ」

 魔法の幅を広げる為に、裏技と言える物を教えていた。


 そしてジョニー。

「《電撃》のピリピリを流して頂戴」

 姉さん自らの身体に電撃を流す事を要求した。

そう、ジョニーを電気マッサージ機扱い。

今では術中に、「どうかしら」と尋ねる始末。

要するに、「コリはないか」と。

遂には、リネ曰く、「治癒魔法を意識してみては」と宣う始末。

お陰様で、覚えましたとも。

《治癒》を。

《治癒》でコリの解消が早まった。

これは家族にも内緒だそうだ。

「誰にも話してはいけないわ。

知られると便利使いされるだけよ。

家族を助けたい時は、当人にも知られぬように密かにやるのよ。

善行はね、陰ながら行うものなの。

それを、陰徳を積む、と言うの。

・・・。

治癒が必要ならお金を積んでポーションを買えば良いの。

他人の治癒スキルを便利使いすのではなく、

お金で解決すれば良いのよ、違うかしら」

 お姉さんに教え諭された。

確かにそうなのだ。

HP回復ポーション。

МP回復ポーション。

外傷や骨折等を治すヒールポーション。

毒や麻痺等を治すキュアポーション。

塗り薬や貼り薬等。

これらは薬師ギルドで扱っていた。

 でもお姉さんはジョニーを便利使いするのを止めなかった。

まあ、良いか。

年寄りには優しくするのは有りだろう。


 あれは二年前のこと。

リネア曰く、「身体も育ったから魔力暴走はないわね」とのこと。

それからのジョニーには、生活魔法を基礎から教えてくれた。

生活魔法を磨いた方が、その上の魔法を覚えるのには早いとのこと。

リネア個人の体験を元にしていた。

これには母も父も賛成した。

 スキル欄に、雷魔法上級、土魔法上級、生活魔法(全)が生えた。

もっとも、【始祖龍の加護】があるので早々に使う事はない、と思う。

それはお師匠様にも告げられていた。

他人に説明するのにスキルがあれば便利だ、と。


 その夜、久々にお師匠様に告げられた。

『よし、よく頑張った。

これで魔力暴走の危険は去った。

大樹海に向かっても心配はない』


 早速翌朝、母と父に相談した。

「大樹海に行きたい」

 母と父が顔を見合わせた。

共に横顔だが、喜んでいた。

この家の決定権は母にあった。

「自信が有るのよね」

「勿論だよ。

でも案内人は必要かな」

 父が引き取った。

「案内人はこちらで選ぶ。

決めるまで待っていてくれ」

 朝食の席だったのでリリーが口を挟んだ。

「私も」

 母は即答だった。

「貴女はまだよ」

「でも」

「リリー、聞き分けなさい」

 リリーが落ち込んだのでジョニーは慰めた。

「魔力暴走の心配が無くなれば大丈夫だよ。

その時は僕も付き合う」

 父も合わせてくれた。

「私もだよ」

 母が呆れた。

「貴方達はリリーに甘すぎるわよ」

 トムがケタケタと笑った。


 母が父が相談の上、手配したのは冒険者パーティ、コモネーゼ。

彼等は母が経営する魔道具専門店、ラブラス工房から依頼を受けて、

よく注文された部位を大樹海から採取して来る男性五人組であった。

注文で多いのは内蔵の一つ、魔物の余剰魔力が詰まった魔卵。

それは卵のような形状から魔卵と形容された。

魔石とも魔核とも言われる代物で、

体内で消費し切れぬ魔力を貯蔵した物。

外殻を割ると、中身には三つのタイプがあった。

水晶の塊のような物は、魔導士等が魔水晶の材料とした。

砂状のような物は、鍛冶師等が武具の材料とした。

卵液のような物は、薬師等がポーションの材料とした。

母の工房は魔道具を造る上で水晶の塊を必要とした。

 彼等は地元、ジオラールのパーティで、ランクはA。

S一人とA二人、B二人が在籍していたので、ランクはAであったが、

いずれSに昇格すると評価されていた。

ジョニーは工房によく出入りしていたので彼等とは顔馴染み。

気軽によく遊んでくれた。

それで母が彼等を選んだのだと思う。


 屋敷を出るときは家族だけでなく使用人達も総出で見送ってくれた。

「「「お坊ちゃま、行ってらっしゃいませ」」」

 流石に第一区画の港まで来てくれたのは母と父の二人。

「ジョニー、皆の言う事をよく聞くのですよ。

邪魔になるのだけは止めてね」

「分かっていますお母様」

「ジョニー、今日は初日だから前に出るの控えなさい。

よく見て、よく聞いて学びなさい。

無駄な事は何一つないからね。

その時に無駄と思っても、後で役に立つ事も多いからね」

「はい、お父様」


 母がうちの警備隊から一人を僕の護衛として付けてくれた。

アレックス。

何かある度に僕の護衛を担当するのは彼。

警備隊の副隊長。

今は姓があるので、アレックス・ソリアーノ。

元々は母の母国、ルルーシェ大公国のソリアーノ子爵家の枝葉。

その縁から母に付いて来たと言う。

彼ばかりでなく、屋敷や工房で働く者達には大公国所縁者が多い。

父もそれが分かっているので母を立てる。

まあ、惚れた弱みとも言えるかも知れない。

なにしろ二人の歳の差は十六。

娘とまでは言わないが、折々に、

妹と見て可愛がっている節も感じ取れた。

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