(引っ越し)4
ジョニーはまずアレックスを探した。
直ぐに見つけた。
職業病でもあるのか、彼は全員が把握出来る位置にいた。
「アレックス、探査か察知のスキル持ち、それに鑑定持ちはいないか。
いたら直ぐにここへ呼んでくれ」
ジョニーの突然の変容にアレックスが目を丸くした。
ジョニーは、今は考えさせるのは得策ではないと判断した。
「説明は後、急いで」
すると、近くにいた老婆が口を開いた。
「お急ぎのようね、幸いここに鑑定スキル持ちがいるわよ。
自慢ではないけど、多少だけど探査も察知も並行して出来るの。
こんな年寄りでよければお手伝いするわよ、ねえ坊ちゃん」
杖をついた丸まった背筋から察するに、
年の頃は八十は超えているだろう。
HPМPは齢を経るに従い減ると聞いていた。
その分岐点は五十才辺り、と。
無くなる事はない、とも。
申し出は有り難いが、大丈夫なのだろうか。
ジョニーの迷いを読んだのか、老婆が不気味な笑みを浮かべた。
皺くちゃなので、そうとしか見えないのだ。
「坊ちゃん、お急ぎではないの」
ジョニーは思わず頷いた、
「お願いします」
老婆の手を引き、船縁に案内して対岸を指差した。
「あそこから大きな魔物が川に入りました。
初めて見るのですが、聞いていたアルカビルより巨大でした。
それがあの辺りまで来ています」
遠くに、小さく盛り上がった川の流れを指し示した。
それは川の流れに逆らって、こちらに向かっていた。
頷いた老婆の気配が変わった。
背筋をピシっと伸ばして杖を川の方へ突き出した。
杖は魔力杖。
詠唱なしで魔法が起動した。
意外と背が高い。
その老婆の表情が和らいだ。
「これはこれは、凄いわね。
大きく育ったアルカビルを見るのは初めてよ。
それも二属性持ち。
キングと言っても差し支えないわね。
坊ちゃん、それでどうするつもり」
「スキル持ちを集めて対処したいんだ。
手立てはあるんだ。
欲しいのはスキル持ち。
一番に水魔法使い、二番に風魔法使い、
三番にあればだけど魔導砲、四番に槍士」
老婆は詳しきは尋ねない。
「なるほど、分かった、任せなさい」
老婆は辺りを見回し、一人を見つけて声をかけた。
「エマーソン」
老婆の声に驚いて足を止めたのは服装から察するにお貴族様。
付き従う執事風の男性が険しい表情で老婆を見返した。
しかし、老婆に対して何も言わない。
険しい表情の内に諦めの色。
当のお貴族様は老婆にやたらと低姿勢。
飼い犬のように小走りで身を寄せ、頭を下げた。
「これはこれはお久しぶりです。
このような所でお会いするとは嬉しいですな」
「お前はまったく心にもない事を平気な顔で」
「お褒めに預かり恐縮です」
「まあいい、耳を貸せ」
「こんな汚い耳で良ければ幾らでも」
老婆は気にせずにお貴族様にヒソヒソと耳打ち。
聞いていたお貴族様の顔色が次第に変化して行く。
まるで玩具を与えられた子供。
ジョニーと川を交互に見遣り、大きく頷いた。
アレックスがジョニーに尋ねた。
「理由は分かりました。
それで私は」
「うちのスキル持ちを集めて欲しい。
ポーションも持って来て」
老婆がエマーソンをジョニーに紹介した。
「坊ちゃん、これはエマーソン。
お貴族様だが、今は時間がない。
ただのエマーソンとして扱ってくれ」
そのエマーソンがジョニーをジッと見た。
「エマーソンだ。
何やら面白そうな玩具を見つけたそうだな。
手伝おう。
ああ、私は風魔法上級だ」
アレックスの仕事は早かった。
スキル持ち二名が送られて来た。
警備隊の隊員だ。
風魔法中級と水魔法中級。
ジョニーはまず水魔法使いに掻い摘んで事情を説明した。
大役に怯む水魔法使い。
ジョニーはそんな彼等を宥めた。
「大丈夫、大丈夫、攻撃じゃないよ。
アルカビルは皮膚が固いから、攻撃は通用しないと思う。
やるのは、お友達大作戦。
川の流れに紛れて、奴と仲間のように戯れる。
そして川の流れを利用して、下流へ押し流す。
肝心なのは、けっして敵だと見抜かれては駄目だということ」
これにエマーソンが賛同した。
「いいね、お友大達作戦」
老婆がどういう伝手か、船員七名を連れて来た。
「風魔法使い四名に水魔法使い三名よ。
魔導砲も直ぐに来るわよ。
風魔法が得意な槍士もね」
アレックスもポーションと一緒に、
風魔法使い二名と水魔法使い二名を連れて来た。
風魔法使いは隊員、
水魔法使いは工房の技師。
お友達大作戦決行。
水魔法使い六名がアルカビルに挑んだ。
敵意を隠し、川の流れ紛れてアルカビルに纏いつく。
ジョニーは彼等に付け加えた。
「形は水蛇、巻き付いて。
そして赤ん坊のよう戯れて、目を突いたり、耳に水を入れたり、
鼻を摘まんだり、ねっ」
それに一人が応じた。
水蛇のようにものが水面から顔を出した。
そして直ぐに潜った。
それがお手本になった。
皆が真似した。
ジョニーは老婆に尋ねた。
「お姉さん、アルカビルの様子はどう」
老婆が大笑いした。
「はっはっは、言うに事を欠いてお姉さんか。
いいね、お坊ちゃんは。
・・・。
奴はこちらの水蛇を警戒してないわね。
今のところ、川の流れに乗って下っているわ」
「こちらに来る様子は」
「今のところは全くないわ。
遊びを楽しんでいるみたいね」
エマーソンが言う。
「お坊ちゃん、えげつない作戦だね」




