(引っ越し)3
夜中、ジョニーは侵入者に気付いた。
跳ね起きて、《サーチ》を展開した。
同時に念話が飛び込んで来た。
『ジョニー、ポレイシャだよ』
召喚したデストリシアンは五匹。
蝙蝠から枝分かれした魔物で、そのまま眷属にした。
ポレイシャはその一匹。
どうやらスキル《ダークダイブ》で屋外の闇から、
室内の闇へ移動したらしい。
『早いね、皆は』
『戻って来る途中』
『怪我は』
『全員無事だよ。
ニコールもイリアもね』
『そうか、それは良かった。
ポレイシャはこれからどうするの』
『皆のところへ戻るよ』
船着き場は領都ジブチの外に設けられていた。
北門から西へ少し歩いた先にあり、
魔物対策で三方を外壁で囲まれていた。
ただし、湊であるので、川に沿った側だけは開けられていた。
その為、衛士隊が常駐して魔物を警戒していた。
船着き場にジョニー達の乗る船が停泊していた。
川の廻船にしては意外と大きい。
引率の責任者はアレックス。
警備隊の副隊長だ。
彼が妹のリリーを抱き上げた。
「さあ、乗るよ」
乗客の列に並んだ。
ジョニーにリリー、トム、そのお付きメイド三名、侍女のアマリア、
ラブラス工房から五名、そして警備隊の隊員が六名が続いた。
先遣隊に続いての第二陣。
不安はない。
未知への期待ばかり。
船に乗り込んで見送り組に手を振っていると、
見慣れた箱馬車が船着き場に現われた。
マリアンヌ様が見送りに来られた。
侍女のエスコートで下りると、
その足下でチェルシーが船を見上げて吠えた。
「ワンワンワン」
うちの執事のダミアンがマリアンヌ様に近付き、侍女を介して、
小さな包みを渡した。
あれはあれだ。
マリアンヌ様からブレゼントを頂いたので、そのお返しだ。
あの年齢の女の子の好みが分からないので、本にした。
本をよく読む、と聞いていたので。
ジョニーの背中がポンと叩かれた。
ラブラス工房のレイラが笑顔で言う。
「喜んで貰えるわよ」
街で買った本ではない。
ジョニーが書いた絵本だ。
〚黒頭巾ちゃん〛。
お婆ちゃんを食べた狼を討伐する女の子、黒頭巾ちゃんのお話。
主要な登場人物は二名と一頭。
森で薬草採取する薬師のお婆ちゃん、森の支配者の魔物狼、
お婆ちゃんの魂に導かれて闇魔法に目覚める黒頭巾ちゃん。
本にするのを手伝ってくれたのが、このレイラ。
彼女は、文字は当然として、挿絵が抜群であった。
「それならいいけど」
「マリアンヌ様の一冊は特別だけど、
注文があったので平民用に十二冊刷ったわよ。
身内に頼まれて断れないのよ」
刷った、って。
この世界にも著作権に似た物はあった。
でも聞かない方が良さそう。
ジョニーは曖昧に頷いた。
「まかせるよ」
普通に考えるとジョニーがやったのは、パクリ。
小心者なので筆者名は、アンジーとした。
船の銅鑼が打たれた。
それを合図に船が河岸を離れた。
見送りのマリアンヌ様が口を大きく開けて何か叫ばれた。
足下のチェルシーが常でないマリアンヌ様の叫びを見上げていた。
マリアンヌ様の声は船上まで届かないが、
心からの見送りだと分かった。
ジョニーは大きく手を振り返した。
隣でリリーも手を振って、異様な声で叫び返していた。
船がスルスルと川を下って行く。
川幅が広く、水流も豊富なので、何の支障もない。
注意すべきは他の船との接触のみ。
まあ、その点は乗組員の仕事。
ジョニーは自分の仕事に集中した。
そう、リリー。
リリーが川に落ちないように、手を繋いだ。
この年頃の子は予測が不可能なのだ。
まず第一に、死ぬ、それを理解していない。
フラフラ歩くリリーを親鳥よろしくジョニーが付き纏う。
それを二人のお付きメイドが後ろから、
好ましそうな表情で見守っていた。
本当はリリーを個室に閉じ込めたいのだが、
上目遣いでお願いされると頷くしかなかった。
ショニーはリリーの歩くに任せた。
リリーが立ち止まった。
対岸を熱心に見ていた。
ジョニーはその視線を追った。
初めて見る魔物。
それが川に飛び込もうとしていた。
興味から《サーチ》。
鰐の種から枝分かれした魔物、アリカビル。
ステータスに驚かされた。
異種とあった。
HPとМPの数値が異様に高かった。
同種のアリカビルは知らないが、異様と思うしかない数値だった。
そしてスキル、風魔法と水魔法を持っていた。
そもそも魔物が二種類持っている事が普通ではなかった。
それが川に飛び込み、潜った。
が、川波から、こちらに向かって来るのが分かった。
ジョニーはお師匠様に尋ねた。
『お師匠様、あれは何ですか』
脳内で音がした。
ピロロ~ン、ピロロ~ン。
『あれはアルカビルで間違いない。
しかし、魔物の二つの属性持ちは稀有なこと。
他のアルカビルに比べて、格段に強い。
キングと呼んでも差し支えないな』
『そのアルカビルキングがこちに向かって来てるんだ。
あれは危ない。
何とかしたい、僕に出来る事は』
『お前の悪い癖だ。
何でも一人でやろうとする。
だが全力行使は許可できん。
子供にはまだ早い。
いいか、絵本を思い出せ。
レイラが手伝ってくれたではないか。
綺麗な文字、斬新な挿絵。
両親の事もそうだ。
デストリシアン五匹に任せただろう。
それと同じこと。
他人を頼れ、他人の得手を活かせ』
『しかし』
『お前が勝手すればこの場で昏倒させるぞ』
ジョニーはお師匠様との会話を終えると、覚悟した。
もう何時までも子供の振りをしてはいられない。
自立した子供になろう。
まずリリーをお付きメイドのマリナに渡した。
「離したら駄目だよ。
抱いて守っているんだ」
そして自分のメイドでもあるソフィナにも指示した。
「リリーとマリナを頼むよ」




