(引っ越し)2
ジョニーは母の考えを知っていたので、
コッフィーの誘いに乗るつもりはない。
だが、それを口にするつもりもない。
助けを求めてダミアンとアマリアを振り返った。
ダミアンが頷いて、コッフィーに向けて口を開いた。
「コッフィー様、ジョニー様は成人に達しておりませんので、
私が代行を申し付かりました。
その上でお答えいたします。
ニコールお嬢様はルルーシェへは戻られません。
万一の際は、下流のジオラールへ向かうように指示なされました。
シンシンコ川河口の港湾都市です」
ジオラールは小さいながらも独立都市国家。
商人達が議会と海軍力で治めていて、
周辺国家に一目置かれていた。
そして父、イリアの生活基盤がある街。
それにコッフィーが反発した。
「お姉さまにはルルーシェに戻って頂きたい。
父や母、兄、それぞれが願っているんだ。
二人もそれを知っているだろう。
それに、ダミアン、アマリア、二人は盆地で育った筈だ。
縁者や友人達に会いたくないのか」
ダミアンが顔色一つ変えずに言う。
「確かに、縁者や友人達には会いたいです。
ですが、私共のみならず、この屋敷の者達一同は、
お嬢様に終生ついて行くと決めました。
そこをお分かり頂きたいのです」
アマリアがダミアンの隣に寄り添い、一緒に頭を下げた。
それを見たコッフィーは困り顔。
次の言葉が見つからないのか、護衛達を振り返った。
目色で相談するのだが、誰からも助言がない。
ジョニーは、コッフィーに同情した。
思わず助け船。
「コッフィーにいさん、いもうとや、おとうとにあってみない」
コッフィーの顔色が代わった。
助かった、とでも言いたそうな表情。
思ったよりもコッフィー兄さんはこの屋敷に馴染んだ。
妹のリリーや弟のトムの存在が大きいのかも知れない。
「リリー、お散歩しようね」
「トム、コッフィー兄さんだよ」
二人を猫可愛がりした。
時折だが、ついでにジョニーも。
「剣術は好きかい」
でもそんな日々も長くは続かなかった。
ダミアンが主立った者達を集めたのだ。
それにはコッフィー達を含まれていた。
当然、ジョニーが長テーブルの上座に腰を下ろした。
ダミアンがまずジョニーに頷き、それから全員を見回した。
「国内の状況がニコールお嬢様の申し上げられたようになりました。
ルルーシェ辺境伯家が王国に見切りを付けた事により、
ベイカー王国軍が元辺境伯家の領地を占領しました。
ダイキン王国の宮廷は慌てているようですが、今更です。
ルルーシェ大公国が正式に創建されました。
これより当家は引っ越し作業に入ります」
異論はコッフィーのみ。
「そんなこと」
ダミアンがコッフィーの言葉に被せた。
「決定です。
それよりコッフィー様、ここへ来られたついでに、
ジオラールへ足を伸ばしませんか。
大公国へ戻った時の土産話になると思うのですが」
ジオラールへは既に先遣隊が出ていた。
新居と新しい工房は確認済み。
最高の環境だと聞いた。
ジオラールは父のテリトリーでも有るので、関係者が大勢いて、
色々と世話を焼いてくれたそうだ。
荷造りで忙しい最中、マリアンヌ様が来られた。
例の目立たぬ箱馬車で。
今回もマリアンヌは孫娘を、アーロンは爺さまを演じていた。
他のメンバーも同じ顔触れ。
侍女とメイド、冒険者を装った女性騎士二名。
「ワンワンワン」
ジョニーがエスコートしようと箱馬車のドアを開けると、
中からペットのチェルシーが飛び出して来た。
ジョニーは慣れたもの。
冷静に胸元で受け止め、足下に下ろした。
そしてマリアンヌ様をエスコート。
「ようこそ」
「引っ越しの話を聞いて驚いたのよ」
「しつれいしました、おとなたちがきめましたもので」
足下ではチェルシーが煩い。
ジョニーの後ろから軽い咳払い。
コッフィーとリリーが控えていた。
「しょうかいします。
ははのおとうとのコッフィーです」
マリアンヌが目を見開いた。
「若い叔父様ね」
それにコッフィーは苦笑いで応じた。
「マリアンヌ様、ジョニーやリリーからお噂は聞いております。
二人同様、宜しくお願いします」
リリーがお構いなしにマリアンヌに突進した。
「ねえさま、いらっしゃい」
リリーの部屋でマリアンヌ様を持て成すことになった。
マリアンヌ様はリリーに合わせた遊びに興じながら、
ジョニーに愚痴った。
「寂しくなるわね。
せっかくお友達になれたのにね」
「そうですね。
でも、ふねですから、いちにちのきょりだそうです」
「そう、いちにちなのね」
「いつでもあそびにこれます」
「分かった、楽しみにしてるわ」
マリアンヌ様がメイドに目で何やら促した。
するとメイド、マジックバッグから色々と取り出した。
「これはリリーへのお土産」
動物や魔物がズラリと並べられた。
どれも二頭身、可愛く作られていた。
それを見たリリーが大喜び。
「うわー、かわいい」
一緒になってチェルシーも大喜び。
マリアンヌがジョニーに小さな木箱を手渡した。
「これはジョニーよ」
「ありがとうございます」
「開けてごらんなさい」
木箱にはドッグタグが納められていた。
冒険者タグに似ていたが、趣きが違っていた。
タグには大きな紋章が刻まれていた。
明らかにマリアンヌの生家の家紋。
「まちがってない」
「ないわ」
「これでいいの」
「そうよ、受け取ってね。
困ったらこの街に戻って来なさい。
タグを門衛に見せて、うちに先触れを走らせなさい」
「ありがとう」
ジョニーは深い質問はしない。
代わりにマリアンヌ付きの侍女とメイドに目顔で尋ねた。
すると二人、苦笑いを返した。
マリアンヌの我儘なのだろう。
素直に受け取った。




