(引っ越し)1
ジョニーは騒がしいのに気付いた。
表門の方からだ。
窓に歩み寄った。
馬を牽いた男達が目に入った。
来客だ。
何れも冒険者の装い。
その五名を警備隊の兵士二名が案内していた。
顔見知りのようで盛んに言葉が飛び交っていた。
ジョニーは《サーチ》を起動した。
五名の職業は、ルルーシェ辺境伯家騎士であった。
知っていた。
ルルーシェは、王国の地図ではこことは正反対方向の辺境伯家。
それが、ここまで・・・。
中に一人、母の弟が混じっていた。
コッフィー、十六才。
五名の中で一番小さい。
とっ、後ろから駆け寄る足音。
ポテポテポテッと。
ズボンを掴まれた。
振り返ると妹のリリーが笑顔で見上げていた。
「にいさま、おあそびしましょう」
お遊びの途中だった。
夕食前に執事のダミアンが来た。
「ジョニー様、お話がございます。
こちらへお出で下さい」
母の執務室に案内された。
言われるままソファーに腰を下ろした。
母の侍女のアマリアがお茶を運んで来た。
お茶に口を付けた。
これはジョニー好みの甘味。
ダミアンが言う。
「お客様が参られました」
素知らぬ顔で尋ねた。
「おかあさまに」
「はい、ですがお留守ですので、ジョニー様にお相手して頂きます」
まあ、当然か。
「わかった、ダミアンとアマリアがたすけてくれるよね」
二人が笑顔で頷いた。
母が留守でもこの二人がいれば心強い。
何かあれば頼るだけ。
「おきゃくさまはべっかん」
「そうです。
疲れも有りますでしょうから、今日はごゆっくりして頂きます。
ですので、ご挨拶は明日になります。
その前にジョニー様に経緯をご説明いたします。
長くなりますが、宜しいですか」
「いいよ」
ルルーシェ辺境伯家と母の関係を、ダミアンがアマリアを交えて、
子供にでも分かり易いように懇切丁寧に説明してくれた。
ジョニーにとっては初耳な話が多かったので、
時折、子細な説明を求めた。
それで五名の訪れを納得した。
非公式なので冒険者を装っていたそうだ。
「しかし、おじさんか」
母の弟なので、年齢に関係なく叔父さん。
アマリアが笑顔で返してくれた。
「ええ、確かに叔父さんですね。
でも、年齢はジョニー様の丁度十才上なので、
叔父さん呼びはどうかと思います」
「そういわれても、おじさんでしょう」
アマリアが肩を竦めた。
「違うとは言えませんね。
もう、お好きに為さって下さい」
翌日、朝食を終えて、暫くするとダミアンが来た。
「お客様方がお待ちです」
応接室に案内された。
ソファーに腰を下ろしていたのは叔父さん一人。
他の四名はその後ろに控えていた。
彼等は叔父さんの護衛なのだろう。
ジョニーは、ダミアンに言われて叔父さんの対面に腰を下ろした。
アマリアが入り、お茶をジョニーと叔父さんの前に置くと、
ダミアンと並んでジョニーの後ろに控えた。
叔父さんはジョニーを繁々と観察していたが、お茶が置かれると、
お茶に手を伸ばした。
ジョニーもお茶に手を伸ばした。
昨日と同じ味。
叔父さんがお茶を飲みながら口を開いた。
「ジョニー君、ダミアンに事情は聞いたよね」
ジヨニーはお茶を置いて答えた。
「ええ、ききました、コッフィーおじさん」
答えに叔父さんがお茶を噴いた。
噎せ返り、慌てて口元に手を当てた。
叔父さんの後ろの護衛四名が声を上げて笑った。
「「「はっはっは」」」
アマリアは予期していたのか、素早く叔父さんにハンカチを渡した。
「ごめんなさいね」
気を取り直してコッフィーが、口元をハンカチで拭いながら言う。
「確かに叔父さんだけど、なんか納得いかない」
ジョニーは言い直した。
「コッフィーさん」
「んんー、コッフィー兄さんで」
「それじゃコッフィーにいさん」
コッフィーが護衛の一人から小さな細長い木箱を開け取った。
「姉さんのお父さん、つまりお爺さんからの手紙だ。
勿論、姉さん宛なんだけどね。
行き違いで会えないから、今はジョニーに受け取ってもらう」
ジョニーはダミアンとアマリアを見遣った。
どうするの、の目色で。
すかさずダミアンがそれを受け取り、中を改めた。
「確かにお爺様からのお手紙です」
封書を取り出し、ペーパーナイフで封を切り、ジョニーに差し出した。
ジョニーは手紙を取り出した。
綺麗な文字だ。
古式ゆかしい書き出し。
冒頭は娘への愛で埋め尽くされていた。
紙の数にして二枚ほど。
書き連ねて満足したのか、次は辺境伯家が置かれた現状を、
理路整然と説明していた。
こちらは三枚が埋め尽くされていた。
こういうのを、「筆まめ」と言うのだろうか。
たぶん、言うのだろう。
そして、「我はルルーシェ大公として自立する」と。
「愛する娘よ」このまま王国に残っていては、誰の為にもならぬ。
ついてはルルーシェ盆地に戻って来い、と。
ジョニーは読み終えた手紙をダミアンとアマリアに差し出した。
「ぼくにはどうすればいいのかわからない。
ダミアン、アマリア、どうしよう」
六才児には手に負えないので二人を頼った。
これが正解だろう。
二人は顔を見合わせ、頷くと、顔を寄せて手紙を読み始めた。
コッフィー兄さんに尋ねられた。
「ジョニー、うちに来ないか」
「そのルルーシェたいこう、くにだよね」
「そう、ルルーシェ大公国。
盆地の出入口は二カ所。
南北の渓谷がそうで、守り易いから外敵の侵入を許した事はない」
大きく胸を張った。




