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(東の辺境伯領へ)9

 敵勢は夕闇を待ってから宿営地へ退き始めた。

これは何時ものこと。

暫くすると、その宿営地が騒がしくなった。

食事かと思ったが、何時ものそれではなかった。

騒然とした雰囲気。

同時に幾つもの光が現われた。

火ではなくてライト。

光魔法使い達であろう。

その光の隊列が後方へ向かった。

 ブルータス・カーズ・ルルーシェは食事の手を止めた。

見張りからのその報告に考え込んだ。

敵勢が退く前の、あれが原因かと思い至った。

遠くから聞こえた衝撃音と地響き。

只事ではなかった。

あれが敵勢に何らかの影響を与えた、と。

直ちに副官に指示した。

「急ぎ偵察隊を出せ。

光魔法使い達が向かった場所と、目の前の敵勢の様子を探らせろ」


 翌朝、日が昇っても敵勢が攻めて来ない。

ブルータスは不審に思い、外壁に立って敵宿営地を見た、

遠目に、敵勢の姿は確認できた。

しかし、攻めて来る気配が全くない。

不思議なくらい静まり返っていた。

そこへ偵察隊の一つが戻って来た。

目の前の宿営地に、夜陰に乗じて紛れ込み、情報を収集した組だ。

「増援部隊が山津波に遭ったそうです」

「ほう、ベイカー王国の騎士団の旗を掲げていた部隊か」

「ええ、そうです。

騎士団を中心に急遽編成された部隊だそうです。

指揮官は王族の将軍で、その本隊が被害に遭いました

山津波に飲み込まれたそうです」

「すると、その将軍も」

「生存が確認されていません。

慌てぶりからすると、土砂の中では、と囁かれています。

その為、一部を宿営地防御に残し、多くは将軍救出に向かうそうで、

こちらを攻めるのは一時中断だそうです」

「その将軍の名前は」

「下の兵士達には伝えられていません」

 秘密裏に編成された為に詳細が下に伝わってないのだろう。


 ベイカー王国の騎士団の指揮官は、通常は団長と呼ばれ、

決して将軍と呼ばれる事はなかった。

将軍は、五万人以上の部隊を率いる者の称号で、

大雑把には、方面軍の指揮を執る者を指した。

それはダイキン王国も似たようなもの。

つまり、山津波に遭った将軍は、この方面の指揮官。

これまで将軍は置かれていなかったはず。

なのに、急に存在が露わになった。

これはベイカー王国が本気になった証。

本腰を入れて方面軍に格上げし、王族を将軍に任命したのだろう。

そして・・・、その将軍が行軍中に山津波に遭った。


 光魔法使い達を追尾した組も午後には戻って来た。

「山津波の現場は酷い有様です。

土砂だけでなく、岩や木が散乱しています」

「被害に遭った者達は」

「救出が始まったばかりで、まだ一人も。

現場に駆け付けた者達は救出に躍起になっています。

今なら敵を叩く絶好の機会です」

 将軍が王族であれば躍起にもなるというもの。

こちらどころではないだろう。

しかし、ブルータスは首を横にした。

「それはせん。

同郷の者達を一人でも多く、ルルーシェへ連れ帰りたい」

「余計な事を申しました」

「いい、気にするな。

目の前に手柄があるんだ。

気持ちは分かる。

・・・。

ところでその将軍の名前は」

「シドニー・ノイン・バートン。

ベイカー王国の第三王子だそうです」

 第三王子であれば救出に全力を尽くすだろう。

この要塞どころではないな、そう理解した。


 ブルータスがホッとしたところに新たな知らせ。

要塞の門衛を管轄していた大尉が来た。

何時もは厳めしい古株が、嬉しそうに報告した。

「お嬢が戻られました」

 王都のタウンハウスから、ニコール来訪、の知らせは受けていた。

真っ直ぐに領都の屋敷に入る、と思っていた。

それがここへ。

「直ぐに会おう」

 廊下から荒々しい幾つもの足音が聞こえて来た。

笑い声も。

ニコールと古株の将官達だ。

昔の空気が戻って来た。

大尉が言う。

「何年たっても相変わらずですな」

 ブルータスは笑うしかなかった。


 立ち番の兵士が扉を大きく開けた。

副官が走り寄り、大袈裟に頭を下げた。

「お嬢、お帰りなさいませ」

 ニコールを先頭にして十数人が入って来た。

皆、ニコールを可愛がっていた者達ばかり。

可愛がると言っても、軍人として可愛がっていた。

体力づくりから始まり、馬術、格闘術、剣術、魔法、戦術戦略等々。

お陰で男勝りに育った。

集団の最後尾に夫のイリアがいた。

ブルータスはイリアに視線を走らせた。

それに気付いたイリアが小さく頷いた。

自分の立場が分かっている男は嫌いではない。


「お父様、不肖の娘ですが、ただいま戻りました」

「ああ、お帰り、不肖の娘よ。

ところで、屋敷へは」

「状況が状況なので、まずこちらからと思いましたの。

お土産をお渡ししたら、屋敷へ向かいます」

 イリアが前に進み出た。

肩に掛けていたマジックバッグに手を入れた。

「ポーションが不足していると思いました」

 次々とポーションを取り出してテーブルに並べた。

それを見てニコールが将官達に言う。

「誰か鑑定してちょうだい」


「俺がやろう」

 中尉の一人が前に進み出た。

薬師であり、ニコールの師でもあった一人だ。

そんな彼が【鑑定魔法上級】を起動させた。

「ほほう、凄いな。

俺が完璧に読み取れないという事は、もしかして特級か。

これは治癒ポーションの特級で良いんだな」

 これに室内がどよめいた。

特級の治癒ポーションは一般店舗では取り扱っていない逸品。

まず材料自体が手に入れ難い。

そして、作れる薬師も限られていた。

それがテーブルの上に百五十本並べられた。

ニコールが中尉に返した。

「そう、特級で正解よ。

これで足りるかしら」

 手足の再生は無理でも、重傷に効くのが特級。

「お嬢、薬師も出来るのか」

「私じゃないわよ。

私はただの魔道具職人。

特級治癒ポーションはうちの人の伝手よ」

 イリアは職業柄、多彩な人脈に恵まれていた。

暗殺者ではなく、娼館の館長としての人脈に。

それにしても一挙に百五十本とは・・・。

これは口外できない。

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