(東の辺境伯領へ)2
隣の部屋で盗み聞きしていたジョニーは驚いた。
たった二人で実家を助けに行く、と。
両親のスキルとレベルは把握していた。
二人揃ってこの街では最強の部類。
けれど、相手は一国の軍隊。
それも十万と。
なれば相手方にもそれ相当の猛者がいるはず。
数も多いはず。
そこへ向かうのは自殺するようなもの。
ジョニーの脳内で音が鳴り響いた。
ピロロ~ン、ピロロ~ン。
お師匠様が言う。
『困ったことになったな』
『ねえ、何かない。
お母様やお父様の力になりたい』
『一つだけ有るには有る。
さほど強くはないがな』
『それは』
『ここだとあの二人に気付かれる恐れがある。
場所を変えるぞ』
お付きのメイド、ソフィアの目を掻い潜ってここへ来たのに、
場所を変えると言われた。
毒を食らわば皿まで。
はあ、やってやろうじゃないか。
周囲に目を配り、建物の外に出た。
敷地内にある空き倉庫に入った。
そのタイミングで空気が入れ替わったのか、埃が舞い上がった。
我慢我慢、ザ・ガンマン。
『ここで良い』
『どうするの』
『召喚を行う』
『召喚、気軽に言うけど、出来るの』
『お前が遣るんだ。
召喚スキルに意識を集中しろ。
取説を探し、しっかり読め。
何が相応しいか、自分で分かる筈だ』
ほほう、僕が、ねえ。
取説取説、あったあった。
面倒臭いほど長い、その上に濃い。
それでも理解できてしまう。
ふむふむ、なるほどなるほど、なるほど。
読破した。
お師匠様から一言。
『一番小さな召喚陣にしろ。
それなら確実に成功するし、身体の負担にもならない』
召喚陣の大きさは五つ。
超大型、大型、中型、小型、最小型。
超大型に関しては不明。
その不明の理由は記録がないから。
召喚儀式の最中に関係者一同が死亡した、と推測された。
それも一つの街ごと。
ただの失敗か。
それとも呼び出した物が原因か。
【始祖龍の加護】《召喚》を起動した。
サイズは一番小さな召喚陣、最小型。
六才児の両手を合わせた広さをイメージした。
小さいが、ジョニーのHPМPの数値は∞、無限。
失敗は考えられない。
足下に小さな召喚陣が出現した。
無数の鮮やかな光彩、魔導発光。
得も言われぬ複層的な召喚陣で、本当に小さい。
同時に、脳内に魔物の姿が幾つも並べられた。
小さな物ばかりがズラリと。
これが今現在、召喚可能なのだろう。
ジョニーは数ある中からそれを選んだ。
デストリシアン。
これがお師匠様お薦めのものだろう。
選んだというのに、お師匠様からの言葉はなかった。
たぶん、正解だろう。
それは蝙蝠の種から枝分かれた魔物であったが、
他の魔物蝙蝠とは一線を画す存在であった。
召喚陣にそれが姿を現した。
黒くて小さな蝙蝠。
目はオッドアイ。
左が黒で、右は赤。
ジョニーと同じオッドアイ。
それは理解が追い付いていないのか、
翼を広げてジョニーを威嚇した。
「ギーギー、ギーギー」
ジョニーは見惚れた一方で粛々と召喚儀式を進めた。
テイムでも従魔でもなく、眷属と化すつもり。
【始祖龍の加護】《念話》を重ね掛けした。
『君を呼び出したのは僕だ。
僕の名前はジョニー。
君に名前を授ける。
ポーラ。
どうかな、ポーラ』
その蝙蝠の身体が一瞬、光輝いた。
そして固まったかのように動かなくなった。
おそらく召喚儀式の最終段階、所謂、インストールだろう。
三分程するとデストリシアンの顔が緩く動いた。
視線が上がった。
ジョニーを見上げた。
親しげな色。
『マスター』
念話が来た。
それは成功した証。
ジョニーは応じた。
『マスターではなくジョニーで頼むよ、ねえポーラ』
『マスターはジョニー、我はポーラ』
『そうだよポーラ、僕はジョニー』
『了解、ジョニー』
『さっそくだけど、僕から君にスキルプレゼント』
プレゼントの為に召喚陣を維持していた。
さっそく《並列処理》コピーをイメージした。
勿論、相手はポーラ。
ポーラのステータスを視た。
名前、ポーラ。
種族、蝙蝠の種から枝分かれした魔物、デストリシアン。
年齢、五才。
性別、なし。
職業、ジョニーの眷属。
HP、75。
MP、75。
スキル、《ウィンドスピア》《レーダー》《ダークダイブ》《並列処理》。
ジョニーがデストリシアンを選択した理由は二つ。
他の魔物蝙蝠と違い高々度飛行が可能であること。
そして最高飛行速度が200キロ近いこと。
つまり逃げるのに優れていた。
しかし、攻撃力が低いという訳ではない。
HPMPの数値から判断するに、中型魔物の相手は出来るはず。
ジョニーは周囲を嬉しそうに飛び回るポーラを余所に、
再度《召喚》を起動した。
二匹目のデストリシアンを召喚する為だ。
名前は決めていた。
ポール。




