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(東の辺境伯領へ)1

 母、ニコールが主立った者達を集めた。

執事のダミアン、その妻で侍女のアマリア。

警備隊長のカビラ、副隊長のアレックス。

ラブラス工房副会長のキルク。

そしてニコールの隣には夫のイリア。

ニコールの合図でカビラが口を開いた。

「ルルーシェ辺境伯領がベイカー王国の侵攻を受けています。

それは皆さんご存知ですよね」

 ルルーシェ辺境伯領はダイキン王国の最東端にあった。

ベイカー王国はその東にて隣接する国。

ベイカー王国の国力はこのダイキン王国より少し大きい程度。

カビラが皆を見回して、続けた。

「ベイカー王国軍の兵力は十万。

対して辺境伯軍は精々搔き集めても二万。

これは寄子貴族を含めた動員力の上限です。

つまり辺境伯軍は無勢。

にも関わらず果敢に抵抗しています。

遅滞戦術で敵を削っています。

・・・。

当然、辺境伯から王宮へ加勢の要請が為されています。

ところが、火急であるにも関わらず、決定が為されていません。

聞くところによれば重ねて三度の要請なのですが、

それが、悪い表現で言えば、無視されています」


 アマリアがカビラに尋ねた。

「ベイカー王国の目的は」

「まずは、辺境伯領の豊かな農地でしょう」

 広大な平野でダイキン王国の胃を満たしている、

と言ったら言い過ぎか。

しかし、そう評する向きもあった。

「でもそれで終わらないでしょう」

「実効支配には時間がかかるでしょうから。

それを終えるのが三年ほど。

その後に王都へ軍頭を向けるのは間違いないでしょう」

 ダミアンが口にした。

「辺境伯領を落とした勢いで王都へ向かわぬか」

「そこは指揮官の性格によりますね。

堅実か、勢いを好むのか。

敵の戦ぶりからすると堅実ではないか、と推測いたします」

 キルクが呆れたように言う。

「王宮は辺境伯領を見殺しにするつもりですかね。

あの平野を失えばどうなるのか、赤子でも分かる事でしょう」

 アレックスも言う。

「批判するつもりはないのですが、現国王とその取り巻きは無能揃い、

との噂がありますね」

 カビラが困ったように肩を竦めた。


 カビラが材料を提供し、周りの皆が喧々諤々。

ニコールはそれに耳を傾けていた。

心底に秘めたものはあるが、決定には至っていない。

これでも家族と大勢を雇用する身。

軽々しくは動けない。

 ニコールはルルーシェ辺境伯家の長女に生まれた。

辺境伯夫妻の最初の子であった。

持って生まれた才覚と、併せ持つ魔法の才で、

何れ家督を相続するものと看做されていた。

ところが年の離れた弟が生まれた。

それも立て続けに二人。

ニコールはこれ幸い、政略結婚を拒否し、物作りの道を選んだ。

力尽くで平民に下り、王都に工房を開いた。

それがラブラス工房。

その王都で夫となるイリアと知り合った。

そして今は、魔物が跋扈するこの地に本拠を移した。

魔物の部位が目的であった。


 ジョニーはその会合を知って、隣の部屋に忍び込み、

壁に耳を当てて盗み聞きしていた。

母を含めた大人達は自分達の屋敷という事もあり、

完全に油断していた。

声高に話していたお陰で、ジョニーにとってはとても聞き易かった。

六才児だが、中身は大人。

我が家を取り巻く状況が完全に把握できた。

把握できても六才児、出来る事は少ない。

思わずお師匠様に愚痴った。

『お母様のお手伝いがしたい。

ねえ、お師匠様、一緒に聞いているんでしょう。

お手伝いがしたいよ』

 ピロロ~ン、ピロロ~ン。

脳内から応答があった。

『ああ、子供には何にも出来んよ』

『それでも何か、ねえねえお師匠様』

『下手な口出しすると、疑われるぞ。

あれは何だ、化け物かってな』


 ニコールは黙って皆の会話を聞いていた。

どうする、どうする。

何をどうすれば、と自問自答。

脇腹に衝撃を受けた。

夫、イリアが悪い笑顔で裏拳を当てていた。

「そろそろハッキリさせよう」

 皆が口を閉じた。

無言で視線を向けて来た。

ニコールはイリアに裏拳を打ち返し、言葉にした。

「痛いじゃないの」

「辺境伯領の者達はもっと痛い思いをしている」

 ニコールはイリアを睨んだ。

「戦場で一緒に踊ってくれる」

「当然、踊る場所を選ばないのが良きダンサー、だろう

地獄だろうが、天国だろうが付き合うさ」

「はあ、私は天国だけど、貴男は地獄よ、残念ね」

 顎を撫でながら言う。

「ふっ、そいつは残念だね」


 ニコールは皆を見回した。

「私の我儘を聞いて欲しい」

 皆が頷くのを見てから、おもむろに言う。

「里帰りするわ。

急ぐので私とイリアの二人だけよ」

 途端、全員が示し合わせたかのような反応。

「「「我々も同行します」」」

 ニコールは皆を諭した。

「状況が許せば全員で向かいたい。

でもね、状況が許してくれないの。

火急速やかによ。

分るでしょう。

・・・。

私達は死にに行くわけじゃないの。

ジョニー、サリー、トムの三人を残して死ぬほど馬鹿じゃないわ。

そうでしょう。

帰る場所があるから安心して戦えるの。

その帰る場所を皆には守っていて欲しいの。

・・・。

ダミアン、留守を任せたわ」

 ダミアンはニコールと視線を絡ませ、苦笑い。

「三人の子持ちになってもじゃじゃ馬ですか」

 ニコールはアマリアに視線を転じた。

「アマリア、私の代わりに三人を見て欲しいの」

 アマリアは天井を仰ぎ見た。

「この齢になって子守ですか」

 カビラが先に言う。

「私も里帰りしたいのですが」

「駄目よ」

「はあ、・・・承知しました」

 アリックスも言う。

「帰って来てくださいよ」

「当然よ、逃げるのは得意なの、約束するわ」

 最後になったキルクが恨みがましい視線を皆に送りながら言う。

「お店はお任せください」

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