(マリアンヌ)3
ワイバーンが鳥か空飛ぶ魔物か、誰もが頭を悩ませた。
ドラゴンにしても同じ。
種別が確としないのだ。
ジョニーはワイバーンを見上げた。
東から飛んで来たワイバーンは八体。
それがこちらの騒ぎに興味を覚えたらしい。
街の真上で旋廻を始めた。
ジョニーは《サーチ》を起動しようとした。
それをマリアンヌ様に遮られた。
腕を掴まれた。
「ジョニー、さあ来なさい」
普通、ワイバーンやドラゴンの襲撃には屋内避難で対処した。
その間に騎士団と衛士団が討伐するのだ。
できるかどうかは甚だ心許ないが。
ジョニー達も店内に避難した。
執事風高齢者が言う。
「暫くはここで見守りましょう」
店内は客がほどほどだったので、スペースに余裕があった。
マリアンヌ様の御一行と隣り合わせのテーブルについた。
侍女がウェイトレスに全員分のドリンクを注文した。
こちらの分もだ。
ジョニーは窓から外を見上げた。
ワイバーンが降下を始めるところであった。
それに合わせて、建物の屋根にいた魔法使達いや冒険者達が、
危機感を抱いて落ちる勢いで降り始めた。
とっ、【魔導砲】の発射音と衝撃波。
大樹海に面する南の外壁ではなく、
西東北三方の外壁の【魔導砲】であった。
標的はワイバーン。
そのワイバーン、意外と戦い慣れていた。
【魔導砲】の発射音を耳にするや、大きな身体を翻した。
降下から反転し、急上昇に転じた。
無傷で高々度に達した。
八体が寄り集まった。
どうするか話し合っている様子。
下には、「ギャギャー」とか、「ウガー」としか聞こえなかった。
どうやら去るつもりはなさそうだ。
こんな時に相談できるのは一人しか思い浮かばない。
『お師匠様、見てますか』
ピロロ~ン、ピロロ~ン。
脳内から応答があった。
『見ている、どうにかしたいのだろう』
『ええ、僕に出来ますか』
『止めとけ。
マリアンヌの側仕えに勘付かれる。
特に執事風高齢者は要注意だ』
『ではどうすれば』
『私に任せろ。
スマートな戦い方を教える』
ワイバーン八体の話し合いが終わった様子。
旋廻を再開した。
どうやら旋廻の勢いで攻撃に移るようだ。
それに合わせてお師匠様が僕のスキルを起動した。
まず《並列処理》、重ね掛けで《サーチ》。
そして、じっと待つ。
ワイバーンが急降下して来た。
【魔導砲】は威力はあるが、射手は衛士。
訓練で鍛え上げられてるとはいえ、所詮は人。
その射手が狙いを定めなければ無用の長物。
そう見透かしたのだろう。
西東北三方の外壁の【魔導砲】が迎撃を再開した。
まだん無い迎撃。
発射音と衝撃波は前回以上。
全ての砲が向けられた。
が、一つしてワイバーンに当たらない。
掠りもしない。
ワイバーンが急降下の勢いのまま、持って生まれた風魔法を放った。
風壁、ウィンドウォール。
自身を守る為に己を覆うこともあれば、敵にその塊を投じることも可能。
今回は、真下に風壁の塊を投じた。
そして反転しての離脱。
爆撃機に例えれば、急降下爆撃。
真上から風壁の塊が直撃した。
その轟音と地響き。
被害は甚大だろう。
お師匠様は冷静に機を窺っていた。
爆撃を終えて反転する隙を逃さない。
スキルの射光口は、大気中の水蒸気を伝わり、街の真上。
真上から、反転でワイバーンの速度が落ちた所を狙った。
重ね掛けで、ワイバーンに《転移》を放った。
転移場所は近くを流れるシンシンコ川の川底とした。
次々とワイバーンの姿が視界から消えて行く。
短距離なのでМPには優しい。
ただワイバーンには厳しい。
果たして泳げるのか。
『それは知らん』
お師匠様が呟いた。
確かワイバーンは風雨雪には強かったはず。
外皮にそのように特性があると聞いた。
そこでジョニーは、起動していた《サーチ》に相乗りし、川底を視た。
八体いた。
それぞれのHPを確かめた。
一体として減じていない。
何れもが必死で浮上しようと足掻く。
ところが浮上しても一体として飛び立てない様子。
地に足が着かないのが原因なのか。
流されて行く。
このままでは溺れるのは必死。
あっ、水棲の魔物がワラワラと集まって来た。
魚の種から枝分かれしたピラニン。
残念なことに口が小さい為に、外皮を喰い破れない。
それでも諦めない。
しつこく付き纏い、噛み付く。
両岸に、鰐の種から枝分かれした水陸両用のアリカビルがいた。
日光浴をしている様子。
それが流されるワイバーンに気付いた。
勇躍として水中に身を踊らせた。
ランチを楽しむのだろう。
流されるワイバーンが《サーチ》の範囲から遠ざかって行く。
お師匠様の得意気な声。
『見たか、これがスマートなやり方だ』
『はい、勉強させてもらいました』
足下でチェルシーが吠えた。
「ワンワンワン」
マリアンヌ様がジョニーを呼んでいた。
「ジョニー、聞こえてなかったの」
「ごめんなさい、そとをみていた」
その外は酷い有様になっていた。
この辺りは無傷だが、遠目に幾つかの建物が崩壊していた。
ワイバーンが投じた風壁、ウィンドウォールのせいだ。
真上からの直撃で甚大な被害を被ったようだ。
おそらく人にも被害が出ているだろう。
お師匠様が言う。
『お前のせいではない』
『しかし』
『これも運命というもの。
人は死ぬのが定め。
短いか、長いか、人それぞれ。
お前には何の咎もない』




