(マリアンヌ)2
ジョニーとマリアンヌが並んで矢狭間から覗いていると、
後ろから野太い声が聞こえた。
「子供は邪魔だ、下へ降りろ」
弓を持った衛士が後ろにいた。
するとそこへマリアンヌ様の侍女が来た。
「貴男、お止めなさい」
威厳のある声で注意した。
侍女に続いて女性騎士二名、執事風高齢者とメイドが現われた。
マリアンヌ様を守る態勢をとった。
チェルシーが衛士に牙を剥き出して吠えた。
「ガウー、ワンワンワン」
衛士の顔色が青くなった。
それでも直立不動の姿勢は身に付いていた。
「どちら様でしょうか」
上番中の衛士隊の隊長が血相を変えて駆け寄って来た。
階級章は少尉。
「マリアンヌ様、申し訳ございません。
部下の不始末は某の責任。
この騒ぎの後で如何様な処分でもなさって下さい」
直立不動の姿勢から深く頭を下げた。
これに対して口を開いたのは執事風高齢者。
穏やかに言う。
「こちらも申し訳ない。
今は責任うんぬんよりも、本来の仕事を全うしなさい」
「はい、それでは失礼いたします」
少尉は執事風高齢者に敬礼し、本来業務へ戻った。
執事風高齢者がジョニーを見てからアレックスに言う。
「さあ、そこの貴男も息子さんを連れて逃げなさい」
「はい、直ちに」
外壁上の一般人達は階段へ我勝ちに向かっていた。
アレックスもジョニーを抱き抱えると、ソフィアを促して階段へ駆けた。
その間に外壁の鐘が乱打され、赤旗が立ち並べられて行く。
「大丈夫だよ、街に警報が発令された。
これで皆が立ち上がる」
外壁上から衛士の声が聞こえて来た。
「旋廻中の鳥類のうちの半数近くが魔物です。
軌道を修正して、こちらへ向かって来るものと予想されます」
鑑定か探索のスキル持ちがいるのだろう。
少尉が指示を下した。
「こちらへ向かって来るまで攻撃するな。
迎撃ははっきりした段階で行う。
それまで全員待機だ」
「「「承知」」」
階段を下りるとアレックスがジョニーを降ろしてくれた。
「下なら安全だ」
「どうして」
「外壁の防衛線を突破できるのは半数もいない。
二割か三割だな。
・・・。
それにだ、見てごらん」
アレックスが付近の建物の屋根を指し示した。
あちこちの建物の屋根に登る人達がいた。
「あれは」
「お貴族様ではなく、平民の魔法使いや冒険者達だよ。
お貴族様ほどの魔力はないが、今回のような鳥類なら問題はない。
そんな彼等が鳥類を迎撃する為に屋根に上がったんだ。
盾で受け止めて魔法か剣で仕留める。
慣れてるから心配はいらない」
そこへマリアンヌ様の一行が合流した。
マリアンヌ様は女性騎士に抱えられていた。
下へ降ろされるとジョニーを見つけて言う。
「ジョニー、怖かったでしょう」
「こわくないよ、こわくない」
「嘘言ってはいけないわ」
「うそじゃない」
メイドがチェルシーを降ろすと、そのチェルシー、ジョニーに吠えた。
「ワンワン、ウー、ワン」
マリアンヌ様が得意気に言う。
「ほら、チェルシーもそう言ってるわよ」
「ぼくうそつかない」
外壁上から少尉の甲高い声が響き渡った。
「【魔導砲】、迎撃する用意。
回頭した頭を一斉砲撃する。
その後は個々に撃て。
弓士と魔法使い達は中距離を任せた。
槍士と盾士は、近距離を頼む。
・・・。
来たぞ。
回頭した所に一斉砲撃用意、・・・撃て」
【魔導砲】八門の一斉砲撃が行われた。
発射音はそれ程でもないが、魔力の衝撃波が辺りを震わせた。
耳にというより、全身で感じ取った。
マリアンヌ様がジョニーを誘う。
「向こうでお茶しましょう」
街の一角に喫茶店があった。
テラス席の半分が埋まっていて、スタッフが応対。
この騒ぎだというのに、平常営業していた。
マリアンヌ様はジョニーの都合は聞かない。
問答無用で引っ張って行く。
マリアンヌ様のお付きの者達は止め立てしない。
ただ苦笑いするのみ。
そんな中、執事風高齢者がアレックスに何やら耳打ち。
頷く仮父、アレックス。
テラス席の一角がマリアンヌ様御一行で占拠された。
マリアンヌ様とジョニー、侍女、そしてチェルシー。
右席にアレックスとソフィア、執事風高齢者。
左席にメイドと女性騎士二名。
落ち着かないジョニーをマリアンヌ様が笑う。
「しっかりしなさい、ここまで来ることはないのよ」
外壁の防衛線を突破した中型の鳥が数羽飛来した。
それを見てマリアンヌ様が教えてくれた。
鷹の種から枝分かれした鳥の魔物、ファルフォーンだそうだ。
武器は嘴と爪。
それらが、屋根の上の者達に狙いを定めた行動に移った。
軽く上空へ上がり、旋廻してから急降下。
冒険者は引き付けた。
そして直前で小さな丸盾を構えて防御し、短剣で斬り落とした。
魔法使いは風魔法で攻撃し、撃ち落した。
他の者達も手慣れたもの。
冷静に対処して仕留めて行く。
マリアンヌ様が感心したように言う。
「これならワイバーンでも仕留められるんじゃないの」
侍女が否定した。
「お嬢様、今回は可愛いものですが、ワイバーンが襲来した場合は、
こうやってノンビリはできません。
通じるのは【魔導砲】か、強力な攻撃魔法だけです」
ジョニーもマリアンヌ様もノンビリとジュースを飲み、
お菓子を摘まんでいた。
二人の足下ではチェルシーがお店自慢のラビラビのジャーキーを、
旨そうに齧っていた。
ラビラビは兎の種から枝分かれした魔物で、
味の良さから手軽なジャーキーとして知られていた。
そのチェルシーがジャキーを吐き出し、
上空を見上げて思い切り吠えた。
「ヴー、ギャンギャンギャン、ギャンギャンギャン」
遥か上空を大きな鳥が飛んでいた。
鳥・・・、絵本のワイバーンに似ていた。




